川崎病とD-dimer


川崎病は主に小児でみられる原因不明の全身性炎症性疾患である. 川崎病は様々な特徴的な症状・徴候がみられ, 日本では診断の手引きに基づいて臨床的に診断される.

川崎病の病態の中心は全身性の血管炎であることが知られている.
川崎病以外でも全身性の血管炎がみられる様々な疾患が存在するが, この一部では線溶のマーカーである血中のD-dimer値が上昇することが知られている(*1).
D-dimer値は血管内皮が障害されることにより血栓形成傾向となり, それによって二次線溶が亢進することによりは上昇し, それが血管炎によって引き起こされていると考えられている.

このことから全身性の血管炎が生じている川崎病でもD-dimer値の上昇がみられる可能性があり, いくつも研究が行われている.
また発熱している児で臨床的にも川崎病が疑われる場合, 血液検査でD-dimer値が測定されていることも少なくないかも知れない.
本記事では川崎病とD-dimerとの関係性についての報告を簡単に紹介する.


診断とD-dimer

川崎病とその他の発熱を伴う疾患との区別を目的としたD-dimer値測定の有用性について参考になる報告がいくつかある.

川崎病と川崎病以外の熱性疾患の児を比較して検討したImamuraらの報告では, 川崎病以外の熱性疾患と比べて川崎病の症例ではD-dimer値が高かった(*2).
また大坪らの報告でも川崎病以外の熱性疾患と比べて川崎病の症例ではD-dimer値が高かったことが示されている(*3).

これらから, 川崎病ではD-dimer値が高値をとりやすい可能性はあると思われる.
ただしいずれの研究結果でも示されているように, 川崎病患者でもD-dimer値のばらつきは大きく高値とならない例も存在する. また対称群の川崎病以外での熱性疾患の児においてもD-dimer高値となっている例も存在する.
D-dimerの値の診断における有用性については評価もなされていないため, D-dimer値で安易に診断, あるいは除外すべきではないだろうと考えられる.


臨床像とD-dimer

川崎病ショック症候群(Kawasaki Disease Shock Syndrome: KDSS)と川崎病の後ろ向きに比較したLiらの研究では, KD症例と比べてKDSSの症例の方がD-dimer値は高かったと報告している(*4).

KDSSは一般的に川崎病の重症タイプの1つであると考えられている(KDSSについてのまとめはこちらを参照).
従ってより重症な症例ではD-dimerがより高値となることを示唆しているかもしれない.

また解熱後に発熱以外の川崎病症状が持続した例と持続しなかった例を比べた研究では, 両者でD-dimer値に明らかな差はみられなかったという報告がある(*5)


IVIG不応性・冠動脈病変とD-dimer

IVIG不応性や冠動脈病変(Coronary Artery Lesion: CAL)とD-dimer値との関係性についてもいくつか報告がある.

Masuzawaらの報告でははCALを合併するIVIG不応例ではD-dimer高値を示し, カットオフ値 4.8μg/mLとするとCAL合併の予測の感度 80%, 特異度78%であった(*6).
またKongらの報告ではIVIG不応例では有意にD-dimer値は高く, カットオフ値 1.09mg/Lとすると感度 87.0%, 特異度 56.3%であった(*7). さらにカットオフ値 1.84mg/LとするとCAL合併の予測の感度50%, 特異度78.6%であり, 独立したCALのrisk factorであったとしている.
D-dimer値上昇はCAL合併の危険因子であったとするZhouらの報告もある(*8)

以上からD-dimer値上昇はIVIG不応性やCAL合併の危険因子であるかもしれない.
IVIG不応やCAL合併例はより重症な場合に起こりやすいことから, これらの結果からもD-dimer値は病勢を反映して, より重症例では高値をとる可能性が示唆されている.


まとめると
・D-dimer値はKD症例では上昇しやすい可能性がある
・川崎病において重症例ではより高値となりやすそうである.

しかしまだ十分にはわかっていないことも多いため, さらなる研究が期待されるところだろう.


<参考文献>

*1 Hergesell O, Andrassy K, Nawroth P. Elevated levels of markers of endothelial cell damage and markers of activated coagulation in patients with systemic necrotizing vasculitis. Thromb Haemost 1996; 75(6): 892-898.
*2 Imamura T, et al. Impact of increased D-dimer concentrations in Kawasaki disease. Eur J Pediatr 2005; 164(8): 526-527.
*3 大坪善数, 他. NT-pro BNPによる急性期川崎病の診断および尿中β2-MGによるIVIG不応例予測の有用性. 小児科臨床 2011: 64: 287-293.
*4 Li Y,  et al. Kawasaki disease shock syndrome: clinical characteristics and possible use of IL-6, IL-10 and IFN-γ as biomarkers for early recognition. Pediatr Rheumatol Online J 2019; 17(1): 1.
*5 Fukuda S, et al. Late development of coronary artery abnormalities could be associated with persistence of non-fever symptoms in Kawasaki disease. Pediatr Rheumatol Online J 2013; 11(1): 28.
*6 Masuzawa Y, et al. Elevated D-dimer level is a risk factor for coronary artery lesions accompanying intravenous immunoglobulin-unresponsive Kawasaki disease. Ther Apher Dial 2015; 19: 171-177.
*7 Kong WX, et al. Biomarkers of Intravenous Immunoglobulin Resistance and Coronary Artery Lesions in Kawasaki Disease. World J Pediatr 2019; 15(2): 168-175.
*8 Zhou Y, Wang S, Zhao J, Fang P. Correlations of complication with coronary arterial lesion with VEGF, PLT, D-dimer and inflammatory factor in child patients with Kawasaki disease. Eur Rev Med Pharmacol Sci 2018; 22(16): 5121-5126.


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