川崎病におけるフルルビプロフェン

2020年10月に川崎病急性期治療のガイドラインが8年ぶりに改訂された(*1). 2012年以降に様々な研究結果により川崎病に対する治療のエビデンスが蓄積したことにより, 治療の進歩を踏まえての改訂となった.
そんな中で川崎病に対する治療薬の中でも最も古くから用いられていて, 現在も標準的な治療薬の1つであるもアスピリンの項目にも様々な変化があった.

以下のような記載もその1つである.

治療前に肝逸脱酵素上昇があっても,KDの胆道系浮腫によるうっ滞性肝障害によるものであり,ASA を使用しても問題はないと考えられている.回復期あるいは遠隔期に肝逸脱酵素の上昇が認められた場合には,減量・休薬などで適切に対応する.

これまでのガイドラインに記載されていたフルルビプロフェン(フロベン®)の名前はなくなった.


1970年代に川崎病に対してアスピリンが広く用いられるようになった. しかしアスピリンによる治療でも冠動脈病変が形成される例は珍しくなく, また特に高用量で投与した場合に肝逸脱酵素上昇がみられやすいことが知られていた. そのため, さらに好ましい治療を探索する中でフルルビプロフェンは登場した.
川崎病に対するフルルビプロフェンの使用の最初のまとまった報告としては, 昭和55年(1980年)度厚生省心身障害研究報告書の草川らのものがある(*2).
草川らの研究では, 川崎病37例に対してフルルビプロフェンを投与し, AST, ALTの上昇がみられる頻度が低かったと報告している. ただしアスピリンと比較はしておらず, またフルルビプロフェンの有効性についても評価はされなかった.
また同時期には川崎病に対してフルルビプロフェンを投与して肝機能を評価した研究はいくつか学会で発表されていた.

その後, フルルビプロフェンは徐々に使用されるようになり, 1982年後半から1984年が対象となった第8回の全国調査では川崎病症例の約10%で投与されていたことが報告されている(*3).

この頃には梅沢らの報告をはじめとして, アスピリンとフルルビプロフェンを比較した研究が報告されており(*4), アスピリンに比べて肝逸脱酵素上昇は起こりにくい可能性が示唆されている. 一方でそれらの研究ではフルルビプロフェンの川崎病への治療効果としては十分には評価されなかった.
代表的な研究である1986年に発表されたアスピリンとフルルビプロフェン, プレドニゾロン+ジピリダモールの3治療群を比較した前方視的試験でアスピリンによる治療が優位である可能性が示され(*5), 以後フルルビプロフェンはアスピリンの代替薬として認識されるようになった.


フルルビプロフェンは当初「アスピリンによる肝障害が問題」であったために検討されたもので, 実際, 2003年に発表された川崎病急性期治療のガイドラインでは, フルルビプロフェンについて「アスピリン肝障害の強い時の代替」として記載されている(*6).
しかし2012年に改訂された「肝機能障害が強い場合,アスピリンの代替薬として用いられる場合があるがその有用性に関するエビデンスはない」と記載されるようになった(*7).
つまり2012年の改訂でアスピリンによる肝障害がある場合の代替薬としての扱いから, 肝障害が強い場合のアスピリンの代替薬という扱いに変わっている.

しかし2012年の改訂版のガイドラインに記載されているように, 川崎病に対するフルルビプロフェンの治療効果に関するエビデンスはなく, また肝障害が存在する状態においてフルルビプロフェンがアスピリンに対して優位かどうかは不明であることについて留意する必要があった.

2020年のガイドラインの改訂によって, 今後はフルルビプロフェンが用いられることは少なくなるかもしれないが, 慣習的に使用されることは当然あるとは思われる.
しかしその場合には様々な点について考慮した上で使用すべきであろう.


<参考文献>
1) 三浦大, 鮎澤衛, 伊藤秀一, 他. 川崎病急性期治療のガイドライン. 日本小児循環器学会雑誌 2020; 36(S1): S1.1–S1.29.
2) 草川三治, 浅井利夫, 木口博之. フロベンの使用経験. 昭和55年度 厚生省心身障害研究報告書, 小児慢性疾患(臓器系)に関する研究.
3) 厚生省川崎病研究班. 第8回川崎病全国調査成績. 小児科 1985; 26(9): 1049-1053.
4) 梅沢哲郎, 他. 川崎病におけるAspirinおよびFlurbiprofen (Froben®)治療の検討. 小児科臨床 1984; 37(6): 121-125.
5) 草川三治, 多田羅勝義, 川崎富作, 他: 川崎病の急性期治療研究(第3報) ―Aspirin, Flurbiprofen, Prednisolone + Dipyridamoleの3治療群によるprospective study. 日小児会誌 1986; 90: 1844-1849.
6) 日本小児循環器学会学術委員会. 川崎病急性期治療のガイドライン. 日本小児循環器会誌 2003; 20: 54‒62.
7) 佐地勉, 鮎澤衛, 三浦大, 他.川崎病急性期治療のガイドライン. 日本小児循環器会誌 2012; 28: s1–s28.

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