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5歳以降での熱性けいれん


熱性けいれんは小児期に発熱に伴って引き起こされるけいれん性疾患であり, 小児でみられるけいれん性疾患の中でも最も一般的である.
熱性けいれんは『熱性けいれん診療ガイドライン2015』で

「熱性けいれんは主に生後6-60か月までの乳幼児期に起こる, 通常38℃以上の発熱に伴う発作性疾患(けいれん性, 非けいれん性を含む)で, 髄膜炎などの中枢神経感染症, 代謝異常, その他の明らかな発作の原因がみられないもので, てんかんの既往のあるものは除外する」

と定義されているように, 通常5歳未満の小児でみられる(*1).

ただ「主に」というように熱性けいれんは5歳以上でも起こることがあり, 生後1か月から10歳までの小児を対象としたBergらの前向き研究では, 全体の約3%が5歳以降に熱性けいれんを起こしていた(*2).

したがって6か月から5歳以下という一般的な年齢に限定しすぎて5歳以降で発生した発熱に伴ったけいれんでも熱性けいれんを否定しないように注意すべきだろう.
また5歳以降での熱性けいれんの中には, 5歳以前にすでに熱性けいれんを起こした既往のある例 (熱性けいれんの再発例) が存在する一方で, 5歳以降ではじめての熱性けいれんを起こした例(熱性けいれんの初発例)も存在しうる.


年齢
5歳以降での熱性けいれんでの, 年齢と発生のしやすさに関する報告はいくつかあり, 一般的には年齢が上がるとと起こりにくくなることが示唆されていて(*3, 4), 約10歳以降では極めて稀なようである.

原因・誘因
原因やどういった場合には5歳以降でも熱性けいれんを起こしやすいかといったことについてはほとんど知られていない. ただインフルエンザAによる熱性けいれんではその他の原因による熱性けいれんと比べて6歳以降の年長児での熱性けいれんもみられやすいことが示唆されている(*5).
経験的にも, インフルエンザの流行シーズンでは5歳以降でのインフルエンザに伴う熱性けいれんを時に遭遇する. したがって特にインフルエンザの流行時期では5歳以降での熱性けいれんにも注意が必要かもしれない.

臨床像
熱性けいれんは非常に多くの研究が行われているものの, 5歳以降の熱性けいれんでの臨床像について情報はあまり多くなく, 十分には知られていない.
ただ現時点ではけいれん時間や複雑型となるリスクといった臨床的特徴は5歳以上の熱性けいれんと5歳未満の熱性けいれんでは明らかな違いはなさそうではある(*4).

対応
5歳以上での熱性けいれんは起こりえるものの頻度は高くないため, 低年齢での熱性けいれん以上に発熱とけいれんを起こすその他の疾患との鑑別が重要であろう.
特にインフルエンザ流行時期では5歳以上の熱性けいれんがややみられやすい一方で, 重要な鑑別疾患であるインフルエンザ脳症についても注意が必要であろう.
ちなみに上述のガイドラインでも一般的な熱性けいれんに準じて対応するのが妥当という旨の記載がある(*1).


予後
長期的には将来のてんかんの発症が特に懸念されるところである.
長期的な予後の評価についても報告は多くないが, 5歳以降の年長児で熱性けいれんを起こした児ではその後, 10-20%程度で無熱性けいれんを起こしていたと報告されている(*3, *6, *7, *8, *9).
またGencpinarらの64例での検討では14%がのちにてんかんと診断されていた(*8).
これらはいずれも一般集団や, 典型的な単純型熱性けいれんと比べて発生率は高いと思われる.

5歳以降の熱性けいれんを起こしにくい年齢となっているために, 相対的に将来てんかんと診断されるような児が集団全体に占める割合が高くなっていることと推察される. そのために一般的なリスクと比べて, のちに無熱性けいれんを起こす割合が高いのではないかと思われるが, この点についてはさらなる検討が必要だろう.


<参考文献>
1) 日本小児神経学会監修. 熱性けいれん診療ガイドライン2015.
2) Berg AT, Shinnar S, Hauser WA, et al. A prospective study of recurrent febrile seizures. N Engl J Med 1992; 327(16): 1122-1127.
3) Webb DW, Jones RR, Manzur AY, Farrell K. Retrospective study of late febrile seizures. Pediatr Neurol 1999; 20(4): 270-273.
4) Ogino M, Kashiwagi M, Tanabe T, et al. Clinical findings in patients with febrile seizure after 5 years of age: A retrospective study. Brain Dev 2020; 42(6): 449-456.
5) Hara K, Tanabe T, Aomatsu T, et al. Febrile seizures associated with influenza A. Brain Dev 2007; 29(1): 30-38.
6) Verrotti A, Giuva T, Cutarella R, Morgese G, Chiarelli F. Febrile convulsions after 5 years of age: long-term follow-up. J Child Neurol 2000; 15(12): 811-813.
7) Kim SH, Lee HY, Kim YH. Subsequent afebrile seizure in children who have a first seizure with fever after 6 years of age. Pediatr Neurol 2010; 43(2): 122-126.
8) Gencpinar P, Yavuz H, Bozkurt Ö, Haspolat Ş, Duman Ö. The risk of subsequent epilepsy in children with febrile seizure after 5 years of age. Seizure 2017; 53: 62-65.
9) Pavone L, Cavazzuti GB, Incorpora G, et al. Late febrile convulsions: a clinical follow-up. Brain Dev 1989; 11(3): 183-185.


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