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R2 弁理士試験 論文試験 意匠

 さて、前回は、特実の試験が終わり、特許の「許」の書き方が分からなくなったところで、試験終了となりました。

 意匠法の試験に入る前に、昼休みでの様子についてお話しします。
 周りを見ると、耳まで赤くなって悔し涙を流している人もいました。それだけプレッシャーの大きい試験だということが分かります。私も特許法の試験中に何度も心が折れそうになりました。答練や模試とはプレッシャーが桁違いで、正直想定外でした。
 ただ、そんな心理状態を引きずってこれからの試験に挑むわけにはいかないです。特許の許が書けないなって状態では、解けるものも解けません。そのため、まずは、自分ができないところは他の人も同じだと言い聞かせて、心の平穏を保ちます。むしろ限られた時間の中でよくやった、と自分を褒めます。

 昼休みでは、予め購入しておいたサンドイッチを片手に、今まで論文講座のレジュメのうち、予め決めておいた部分を再確認していました。意匠法では、記載の順序の復習以外にも審査基準の記載を最終確認をします。特に、部分意匠の場合の3条, 3条の2, 9条の類否判断は、書けないとかなり大きな痛手になりかねないと考えたからです。

 そして、試験時間開始直前になると、試験開始までの残り時間を、職員の方が告げます。ここで、あることに気が付きます。
 私の持ち込んだ時計は、デジタル表示の電波時計です。秒表示が0になって数秒足らずで職員の告知が来ました。

 もしかして、職員は電波時計で時間を管理している…?

 実は、特許法の試験終了時でも、秒表示が0になった瞬間に試験が終了した気がしていました。ただ、そんなことを確認しているほど、心に余裕もなかったです。
 さて、この仮説のもと、意匠法の試験開始の号令がいつ告げられるのかに意識を向けると、0秒になった瞬間に試験開始の号令が告げられました。

 間違いない、職員は自分と同じ時刻の電波時計で時間を管理している。

 そう確信しました。これがわかれば、秒単位で記載を攻めれられる、そんな心の余裕とともに、意匠法の試験が開始しました。

 さて、意匠法は見開き1ページで問題Ⅰ,Ⅱがともに俯瞰できる状態でした。ありがたいと思ったその矢先、

 やりやがったな!

 と内心思いました。問題Ⅰは、R2改正関連意匠法に関する問題です。従来の類似の無限連鎖の防止はどこいったと言わんばかりの大改正をした矢先に出してくるとは、正直思ってもいませんでした。
 ですが、侵害系から解答することを心に決めている以上、一旦保留して、問題Ⅱから挑みます。

問題Ⅱ

問題Ⅱ
1.否認の可否
定義:意匠権の侵害とは…(23等)
検討:
 甲の行為 業としての実施(2②一)
 甲の実施意匠イ 乙の登録意匠ロと形状等が同一
 甲のイに係る物品aが乙のロに係る物品bと非類似であれば、両意匠は非類似
小結論:
 意匠が非類似である旨の否認が可能。
 そうでない場合、両意匠は同一又は類似であるため、形式侵害なので否認不可。
2.先使用の抗弁(29)
検討:
 甲はイを自ら創作 知得の経路は正当
 甲は乙の出願前にイについての実施の事業をしている
結論:先使用の抗弁可能(29)
3.無効の抗弁(準特104の3)
検討:
 甲は乙の出願前から丙にイを納品 イは公知(3①一)
 乙のロは公知意匠イと同一又は類似 新規性(3①一,三)の無効理由あり(48①一)。
結論:無効の抗弁可能(準特104の3)
4. 権利消滅の抗弁
 上記無効理由に基づき無効審判を請求
 無効審決確定 意匠権が遡及消滅(49)
 権利行使の前提たる意匠権が消滅しているため、権利消滅の抗弁可能。

[所感] 全体としてはよくある形式の問題です。ただ一点、わざわざ物品に記号が振ってあることに違和感を覚え、非類似である旨の否認が項目として挙がりました。
 また、無効の抗弁を書き終えて、まだ2ページ目に至っていないというのは、配点から考えてもあまりに少なすぎると考えました。そのため、無効審判の請求と権利消滅の抗弁について触れました。
 ただ、問題Ⅰがかなり重く、結局最終的には二段併記を使う羽目になろうとは…

問題Ⅰ

1.意匠登録を受ける権利の譲渡交渉譲渡交渉(準特33①)
導入:
 ハ及びニは、甲と乙との共同創作 意匠登録を受ける権利が共同創作者甲及び乙に原始帰属(3①柱)
措置:ハ及びニについて意匠登録を受ける権利の譲渡交渉(準特33①)
効果:
 共同出願(準特38)違反による拒絶(17一)を回避効果
 後述する関連意匠制度の利用ができる。
2.意匠ハについて
 関連意匠制度の利用(10)
導入:
 後願意匠ハ 先願意匠ロと類似(9①)
 ロは設定登録により先願の地位確定(9③)
 このままでは9①違反により拒絶(17一)
措置:
 ハについて、自己の登録意匠ロを本意匠とする関連意匠登録出願(10①, 10④)
効果:
 9①に関わらず登録可(10①本)
 ロは出願前に新規性喪失(3①一,二)
 ハは当該ロと類似なので新規性(3①一)違反が問題となる。
 ロは新規性を喪失するに至らなかったとみなされ、問題とならない(10④,10②)。
検討:
 関連意匠ハは、本意匠ロと類似(10①本)
 関連意匠ハに係る出願 本意匠ロの出願日以後、基礎意匠イの出願の日から10年経過する日前にする(10①本, 10⑤)。
 関連意匠ロの意匠権の設定登録時に、本意匠ロの意匠権が放棄等されていない(10①但)
 本意匠ロについて専用実施権もなし(10⑥)
 本意匠の意匠権者甲は、願書に本意匠の表示の欄を設ける。
 関連意匠ハがその他一般的登録要件を具備する(3等)
2.意匠ハについて
 関連意匠制度の利用
導入:
 意匠ニ 同日出願意匠ハと類似(9②)
 このままでは9②違反により拒絶(17一)
措置:
 ニについて、自己の出願に係る意匠ハを本意匠とする関連意匠登録出願(10①, 10④)
効果:
 9②に関わらず登録可(10①本)
検討:
 関連意匠ニは、本意匠ハと類似(10①本)
 関連意匠ニに係る出願 本意匠ハの出願日以後、基礎意匠イの出願の日から10年経過する日前にする(10①本, 10⑤)。
 関連意匠ニの意匠権の設定登録時に、本意匠ハに係る出願が放棄等されていない(10①但)
 本意匠ハについて専用実施権もなし(10⑥)
 本意匠ハの出願人甲は、願書に本意匠の表示の欄を設ける。
 関連意匠ニがその他一般的登録要件を具備する(3等)
[全く同じフォーマットを繰り返すことになって、果たして得点になっているのか不安になる。]
 なお、ハがロと類似する場合でも、基礎意匠イに係る関連意匠イは新規性を喪失するに至らなかったとみなされる(10⑧)
 ロを引用例とする新規性(3①三)は問題とならない。
 ロについて新喪例を受ける必要はない。
以上。

[所感] 10②を考慮した書き方までは練習したものの、いわゆる関連意匠の関連意匠まで出る問題は経験なしです。なので、条文理解をもとに記載項目と順序を検討しつつ、根拠条文を見ながら準備してきた関連意匠用の記載を修正しました。条文をカンニングすれば解答できるように練習してきたかいがありました。
 ただ、記載の順序はめちゃくちゃ苦心しました。結局、意匠ハ、ニで別項目として関連意匠制度の利用を検討することによる重複記載を許容する羽目になってしまいました。もっと美しい答案の流れがあると思います。
 ただ、0秒で職員が試験終了の号令を出すことを知っていたため、秒単位で記載を攻めることができました。これは私にとって、かなり強力な知見でした。
 なお、今回以外の試験も同様かはわかりません。ただ、少しでも記載を攻めるためにも、職員の時計と自分の時計を時刻合わせしておくことを強く推奨します。

 試験が終わって特に心配だったのが意匠法でした。まれに見る大改正をもろに反映した問題だったので、周りがどれだけできるのか、自分の記載がどれだけ点数になるのか、全くもって未知数でした。
 しかも、公表論点で「3条の2」と書かれています。血の気が引きました。3条の2については、まだ公報発行日前で出願人同一だから検討するまでもないと思い、そのままスルーしてしまいました。気づいたのならせめて一言触れておくのが無難でしょう…。

 結果的には62点という点数でしたが、記載量に比して得点につながっていない印象を受けます。ちゃんと得点につながる項目を記載することを意識することが重要ですね。

 最後は商標法の論文試験についてです。引き続きお付き合いいただければ幸いです。


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