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R2 弁理士試験 論文試験 特実 問題Ⅰ 論点

 前回は、特実の問題Ⅱについて述べました。今回は、問題Ⅰからです。前回の記事はこちら。

 さて、問題Ⅱの解答を終えた時点で残り40分。問題Ⅰの解答用紙は白紙です。

こんな状況下でやることは、ただ1つ、「1点でも多くもぎ取ること」です。

 残る設問は5つ。単純計算で1問につき8分で解答することになります。仮に答案構成に10分も使えば、1問につき6分しか使えません。答案構成に時間をかけることはできません。
 そこで、「各設問はそれぞれ独立している」という記載に目をつけました。各個撃破を狙います。各設問ごとに答案構成をして答案を記載すれば、最後までたどり着かなかったとしても、その設問の点数は取れます。

 そして少しでも時間を短縮すべく、私は、各設問の「問い」の形から検討内容を絞り込むという方針を取りました。

 例えば、問題Ⅰの設問1の事例の前提として、
  主体であれば甲と乙が、
  出願であればX、Y1、Y2が、
  発明であればイとロが、
  新規性喪失事由であれば発表aが、
 それぞれ登場します。
 一方、(1)の問題を見ると、
 「出願Xの審査において、発表aが拒絶の理由の根拠となるか否か、各請求項ごとに説明せよ。」
 と記載されています。私はここから以下の見立てを立てました。
 ・「出願Xの審査において」→出願Xだけを検討すればいい。
 ・「各請求項ごとに」→各請求項ごとに独立して検討してほしい。
 ・「拒絶の理由の根拠となるか否か」→拒絶理由を認定してほしい。
 ・「発表aが」→発表aで何らかの発明が新規性を喪失している。
 また、その上記問題文の下には、「発表aに基づく新規性の喪失の例外の規定」という文言があります。ここから、以下のことが分かります。
 ・出願X前に発表aが行われている。
 ・少なくともどちらかの請求項では新規性・進歩性が問題となりうる。
 ことがわかります。
 あとは、出願Xの特許要件の判断基準時を確認すれば、以下の答案構成が出来上がります。

1. 請求項1について
 発表aである発明が(出願X前に)新規性を喪失している。
 出願Xに係る発明と上記新規性を喪失した発明を対比。
 新規性、進歩性が問題となるか。
 問題となったとしても、新喪例の適用で問題とならない。
 拒絶の理由とならない。
2. 請求項2について
 同様に検討

 あとは事例に併せて記載を調整すればいいだけです。もうやるしかありません。こんなところで諦めていては死んでも死にきれません。覚悟を決めます。
 では切羽詰まった状況下、本番の記載項目はどうだったのか、順を追って見ていきましょう。

設問1(1)について

1. 請求項1について
検討:
 発明イは出願X前の発表aで公知(29①一)
 請求項1=公知発明イ
 新規性(29①一)違反が問題となる。
 適法な新規性喪失の例外の規定の適用により、新規性を喪失するに至らなかったとみなされる(30②)
 上記新規性違反には該当しない。
結論:aは拒絶の理由の根拠とならない。
2. 請求項2について
検討:
 発明ロは、公知発明イの下位概念なので、新規性(29①一)は問題なし。
 発明ロは、題意より、公知発明イに対して進歩性(29②)も問題なし。
結論:aは拒絶の理由の根拠とならない。

[所感] 上で述べた通りのストーリーになりましたね。実際には各イベントの日付なども記載しているので、調整は必要です。
 請求項2については、新喪例は29②の判断においても効果があるので、そのことを検討した上で進歩性あり、というのを想定していました。そのため、問題文柱書の「ただし…」を見て面食らって入念に記載を確認した記憶があります。

設問1(2)について

検討:
 イ、ロは、出願X前の論文bで新規性を喪失(29①一、三)
 請求項1に係る発明イ=上記イ、請求項2に係る発明ロ=上記ロ
 請求項1、請求項2ともに新規性違反が問題となる。
 aについて新喪例を受けているが、甲と独立して行われた乙の行為は対象外。
結論:
 新喪例の有無に関わらず、請求項1、請求項2ともに論文bが拒絶の根拠になる。

[所感] だいぶ短答チックな問題ですね。複数請求項を用意する意味すらないので、2つ一気に検討しています。時短になってありがたいですが…

設問1(3)について

導入:
 Y2はY1を基礎とするパリ優を伴う。
論点:Y1とY2の間の行為によって…(パリ4B)
小結論:Y2はXの先願となる(39①)。
検討:
 後願Xに係るイは、先願Y2に係るイと同一(39①)。
 Y2の先願の地位が確定した場合(39⑤)、XはY2による39①違反により拒絶(49一)。
結論:Xのイについて特許権を得られない。

[所感] パリ条約のどの文言によって、優先権の主張が特許要件の判断基準時に与える影響が説明されるかを問う問題ですね。わざわざ「パリ条約の規定に基づき」なんて文言があるぐらいなので、ここだけはガッツリ当てはめます。実際には条文をガン見しながら、おおよそ以下の記載をしました。

 出願 Y2 は、出願 Y1 に基づくパリ条約上の優先権の主張を伴うため、先の出願 Y1(2019年 3 月)と後の出願 Y2(2020 年 2 月)の間である 2019 年 3 月に行われた甲の出願 X によって不利な取り扱いを受けず、また、その出願 X は、第三者甲のいかなる権利(特許権)・権能をも生じさせない(パリ 4 条 B)。

 特許要件としては29の2と39のどちらも検討できると思います。出願公開について一切触れられていない上に、「各設問に示されていない事実はあえて仮定して論じる必要はない」とのことから、39だけ触れました。
 先願の地位の確定は仮定ではないのか、というと…そこは空気感ですね。私は短答でも論文でも、勉強当初は深読みし過ぎて身動きが取れなくなることが多かったので、模試の段階で題意把握にはかなり重点を置きました。クライアントの求めるものを察する能力も試しているのでしょうか?

設問2(1)について

検討:
 外国語特許出願A1は国際出願Aの国際出願日にされたとみなされる(184の3①)->出願A1は出願Bに対して先願となる(29の2本)。
 後願Bに係る発明a=先願A1の国際出願日の国際出願Aの明細書に記載のaと同一(184の13, 29の2本)。
 Bの後、Aについて国際公開されている(184の13, 29の2本)。
 A1について翻訳文の提出あり(184の13, 29の2本かっこ)。
 発明者同一でも(29の2本かっこ)でも出願人同一でもない(29の2但)
結論:
 BはA1を29の2の他の特許出願として拒絶されるべき(49二)

[所感] ご丁寧に検討する条文番号まで書いてある。これは184の13の理解を問う問題以外の何者でもないです。その検討する条文が多少厄介という点を除けば…
 知ってはいるものの、模試で書いたことはありません。練習してきた29の2の書き方をベースに、条文をガン見して当てはめました。
 短答と違って、論文試験は条文というカンニングツールがあります。条文の力を借りることができるよう、条文を見つつ答案を書く練習をした成果がでました。

 この時点で残り5分です。35分でよくここまでたどり着けたと思います。今の自分ならできません (笑)

 最後の1問では誤訳に関する補正について問われていましたが、私は全く書けませんでした。改めて見返すと題意としては、
 ①184の12と17の2②を認定した上で誤訳訂正書を提出する。
 ②PCT46条に触れた上で184の18での拒絶理由の読替を説明する。
というものでしょう。
 当時の私は補正手段として、「誤訳訂正書」「条約19条補正」「条約34条補正」の3つを想定して、後ろ2つを切る根拠が見つからず、書いては消してを繰り返していました。(おそらく、国内公表がされているということは、審査請求が行われているか国内書面提出期間を経過しているかによって、国内処理基準時を経過していると考えられます。だから、後ろ2つの補正はできないということでしょうかね?)
 しまいには、「特許の許ってどう書くんだっけ…?」と呆けた状態になり、完全に力尽きていました。

 結果的には最後の問題が全く解けませんでした。他にもやらかしている箇所はあります。しかし、結果的には130点という結構な点数です。何が採点項目なのか、考えさせられますね…。

 次回は、意匠法についての記事です。引き続きお付き合いいただければ幸いです。
 質問なども随時受け付けております。

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