【弁理士試験】商標法68条の20=セントラルアタック?
こんにちは、ぬーみん(@numinez)です。弁理士試験の悩みや疑問をTwitterで見かけることがあります。つい親切心のつもりで回答しておりましたが、ふと…
「せっかく解説したんだから、同じ悩みをもつ人たちが読み返しやすいところに載せた方が良くない?」
と思い、早速筆をとってみました。今受験生の方たちや、これから受験生になる方たちにとって、考える参考程度になれば幸いです。
なお、法改正等に対応はするつもりはありません。ご容赦ください。
前置きはこれくらいにして、本題です。今回のテーマはこちら。
商標法の68条の20って、セントラルアタックのことなんでしょうか?
でた、セントラルアタック。弁理士試験受験生が一度は言ってみたい言葉。ビッグバンアタックと同じくらいかっこいいフレーズですね。
こちらの疑問を持たれた方は、セントラルアタックに関連する5年の期間が68条の20に規定されていないところから、68条の20とセントラルアタックとの関係性に疑問を持ったようです。
非常に良い視点ですね。条文の文言を踏まえた上で自分の理解を見直すのは非常に力がつきます。
結論から申し上げると、68条の20=セントラルアタックという理解は、正確には違います。
では、68条の20とセントラルアタックはどのような関係なのか、3つのステップを踏んで考えてみましょう。
1. 68条の20とは何か?
まずは、この条文の表題を見てみましょう。
「国際登録の消滅による効果」
確かに、セントラルアタックについては一言も触れていませんね。あくまで、「国際登録が消滅した場合に何が起きるか」を規定している雰囲気を醸し出しています。試しに、第1項の文言を確認してみましょう。
国際商標登録出願は、その基礎とした国際登録が全部又は一部について消滅したときは、その消滅した範囲で指定商品又は指定役務の全部又は一部について取り下げられたものとみなす。
条文にもセントラルアタックについては一言も触れられていません。あくまで、「国際登録が消滅した場合」に、その国際登録に紐付いている国際商標登録出願がどうなるかが規定されているだけです。つまり、
68条の20:国際登録→国際商標登録出願 (等)
という関係性ですね。国際登録が消滅した経緯は関係ありません(重要)。
しかし我々はセントラルアタックが各国の出願や登録に影響を与えることを知っています。これはどのように説明すればよいでしょうか?
それを説明するには、セントラルアタックとは何かをしっかり理解する必要があります。それを調べるために、我々はマドプロの奥地へと向かっていった…
2. セントラルアタックとは何か?
これについては特許庁が直接回答しています。
…。このように、基礎登録の無効・取消しにより国際登録が取り消されることを「セントラルアタック」と呼ぶことがあります。https://www.jpo.go.jp/system/trademark/madrid/faq/index.html
はい、セントラルアタックとは、基礎出願等に連動して国際登録が取り消されることです。各国の出願効や登録効が消滅することは、それに付随して生じるものです。
この解釈を条文から確認してみましょう。セントラルアタックは、マドプロ6条に規定されています。ここでは、マドプロ6条(3)第1文と、同条(4)第2文を見てみましょう。
第6条 国際登録の存続期間並びに国際登録の従属性及び独立性
(3) 国際登録による標章の保護については、・・・、その国際登録の日から5年の期間が満了する前に、基礎出願、基礎出願による登録又は基礎登録が取り下げられ、…た場合には、当該国際登録において指定された商品及びサービスの全部又は一部について主張することができない。…
(4) 本国官庁は、規則の定めるところにより、国際事務局に対し(3)の規定に関連する事実及び決定を通報するものとし、国際事務局は、規則の定めるところにより、当該事実及び決定を利害関係者に通報し、かつ、これを公表する。本国官庁は、該当する範囲について国際登録の取消しを国際事務局に請求するものとし、国際事務局は、当該範囲について国際登録を取り消す。
(https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/madrid/mp/chap1.html#law6より抜粋)
ここでの「国際登録の従属性」とは、国際登録の「基礎登録等」への従属性です。各国の出願や登録ではありません。
(3)は、セントラルアタックが発生する要件について規定しています。そして、(4)は、(3)の要件を満たした場合の効果について規定しています。(3)の要件を満たした場合に、国際登録が取り消されることがしっかり記載されています。つまり、
セントラルアタック:基礎出願等→国際登録
ということですね。基礎出願等からセントラル(国際登録)にアタックするわけですね。
3. 68条の20とセントラルアタックの関係性は?
さて、それぞれの関係性をもう一度見比べてみましょう。
68条の20:国際登録→国際商標登録出願 (等)
セントラルアタック:基礎出願等→国際登録
これらを組み合わせると、
基礎出願等→国際登録→国際商標登録出願 (等)
という図式が成り立ちます。確かに、基礎出願等が取り下げられた影響が、日本の出願に影響を与えていますね。
やっぱ、セントラルアタック=68条の20じゃん!
そう思われるかもしれません。
しかし、68条の20は、あくまで国際登録が消滅した場合の話です。名義人が自ら国際登録を抹消した場合も、68条の20が発動します。
つまり、68条の20にとってのセントラルアタックとは、国際登録が消滅する場合の類型の1つに過ぎません。だからこそ、「=」ではないわけです。
余談ですが、セントラルアタックなんてないはずの「国際意匠登録出願」についても、意匠法60条の14に「国際登録の消滅による効果」というほぼ同じ条文があります。これは、名義人が国際登録を抹消することで国際意匠登録出願が取り下げられたものとみなされるからです。ここからも、商標法68条の20がセントラルアタック「のみ」について規定しているわけでないことが推察できます。
まとめ
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。いきなりマドプロのセントラルアタックという、ヘビーなテーマでしたね。当たり前だと思っていることも、いざ条文をもとに検討すると難しい…こういうことはしばしばあります。
自分の理解や判断のソースを確認することは、面倒ですがとても大事ですし、知識の定着に繋がります。なにより、自分の疑問を、ある程度確たるソースから自分で調べて解消できるようになります。そうなったら質問するより自分で調べた方が早くなり、更に勉強が加速します。
みなさんの学びが実りあるものとなるよう、応援しております。
読み終わったら、いいねを押して反応していただけると泣いて喜びます。また、ご意見・ご感想など、コメントをいただけましたら幸いです。
ではでは。
ぬーみん。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?