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R2 弁理士試験 論文試験 商標法

 前回、意匠法の試験の話までしました。前回の話はこちら。

 今回は商標法の試験についてです。
 ちなみに、商標法開始までの休憩では、軽食(一口サイズの菓子パン)をもしゃっていました。試験で相当なカロリーを消費することが予想される上、休憩時間も限られているので、予めコンビニで購入しておきました。実際、意匠法の試験終了時点でかなり空腹感を感じたので、この選択は正解だったと思います。お腹がすいていなければ食べなければいいだけですし。

 商標法の試験の直前は、特に判例を中心に最終チェックをしていました。商標法の判例は(私にとって)難しいものが多く、概要ならまだしも、キーワードまで完璧に再現できるところまで仕上がっていないものもあったからです。なので、商標法では判例ピンポイントの問題があれば、先にそちらにとりかかるつもりでした。では、実際の試験でどんな項目立てをしたのか見てみましょう。

問題Ⅰ

(1) 発生要件
 ① 出願があったこと(13の2①)
 ② 出願後の警告(13の2①)
 ③ 警告後の第三者による指定商品等への商標の使用(13の2①)
 ④ 業務上損失相当額の発生(13の2①)
(2) 効果及び行使時期
 効果:業務上損失相当額の金銭の支払いを請求できる(13の2①)
行使時期:
 商標権の設定登録後でなければ行使不可(13の2②)
 消滅時効の経過後は行使不可(13の2⑤で読替準用民724)
(3) 消滅について
 出願が放棄等された場合は行使不可(13の2⑤)

[所感] H29特実の「外国語書面出願の概要及び趣旨について説明せよ。」と同じ雰囲気を感じましたが、今回は趣旨すら訊かれていません。
 上記各項目のほとんどは、質問内容に適した条文を書き写しただけです。基本書や判例、実務ではもっと書けることはあるのかもしれませんが、そんなもの知ったこっちゃないです。仮に時間とスペースに余裕があれば後から追加すればいいだけです。

問題Ⅱ

(1)について
 検討:甲の登録商標は、商標登録があった後において、国際機関乙を表す標章で、経済産業大臣が指定するものと同一(4①三)
結論:4①三に基づく後発的無効理由(46①六)
(2)について
 パリ6の3(b)に基づくもので、国際機関の名誉の保護という公益的見地から設けられた。
(3)について
検討:
 無効理由 4①三の後発(46①六)
 除斥期間 適用なし(47参照)
 請求人適格 登録商標と類似する指定標章の主体なので利害関係人に該当する。
結論:
 各要件を具備
(4)について
検討:
 本件商標と同一の標章について防護標章登録あり
 当該登録に無効理由等もないから、本件商標は現在も著名(64①, 4①三イ)。
 本件商標が4①三イに該当する標章かを当てはめ。
結論:
 本件商標が4①三イに該当する旨の答弁をすべき
付記:[あまりに記載量が少なかったので追加]
 本件商標は、国際機関の略称を表示する標章と同一(4①三ロ)
 指定商品との関係で、乙と関係があるとの誤認が生ずるおそれがないものには該当しないと考えられる(4①三ロ)。
 4①三ロに該当する旨の答弁をすべきではない。 以上。

[所感] まず目についたのは以下の文字。

FIF
フィッシュ愛フィッシュ

 2段併記の類否判断が不十分でしまったなぁ、と思いました。ただ、問題文柱書きの末尾にさらっと、「本件商標と指定標章は類似し、」と書いてあります。お前なんのために二段併記にしたし!と思ったものの、両標章の類否判断へと誘う罠なのでしょう。なんと意地悪な問題なのか…。

 次に、無効理由も、4条1項各号に限定されています。国際機関が登場するなんて4①三がまず候補に上がります。
 ただ、ここで、4条1項3号だけでよいのだろうか、という疑問が浮かびます。こういった無効審判に関する問題は、請求人側に立つ解答する事例が多いですが、その場合、
 無効審判を請求する必要性
 無効理由の認定
 除斥期間の認定
 請求人適格の認定
 審判請求の可否
 審判請求の効果
という項目がフルセットで出てきます。しかも小問1つで。場合によっては、これに異議申立てや、取消審判まで検討させることもあります。
 今回の問題では、このフルセットを書くと設問(1)と設問(3)が終わってしまいます。本番で上げた項目は、60点分の得点としては少ないと気がします。そのため、まだ無効理由があるのではないか、と疑っていました。
 私の中で選択肢に浮かんだのは、4条1項8号, 10号, 19号です。ただ、設問(4)を見ると、「無効を回避するために、…どのような答弁をすべきか」なんて書いてあります。回避措置のない無効理由を上げた瞬間ドボンです。上3つの無効理由はどれを上げても、よほど大きな仮定をしない限りは、答弁では回避できないと思いました。
 よって、3号のみを記載することに決定。

 趣旨問題ですが、4①三がパリ条約に根拠があるものだということは知っています。そして、周知商標の保護に関する規定がパリ6条の2にあります。なら、その辺りの条文を引っ張ってきて、あとは国際機関の名誉を保護する、とか、公益的見地から、などといったキーワードをあしらえば出来上がりです。
 困ったときは条文に立ち返る。難しい判例や基本書の論点よりも、条文に頼るための法律理解を問われている気がしてなりません。

 全部が終わった時点で、解答用紙は3ページと2,3行まで埋まりました。

 3ページちょっと!?

 特実・意で両方とも二段併記までしたのに対してあまりに少なすぎます。さすがに不安を覚えます。そのため、追加できる論点を探します。
 まず最初に書いたのは、4①三ロ。これは条文を見ながら検討すればよいです。しかし、これ以上が思い浮かばない。
 とりあえず、問題Ⅰで書かなかった条文をわざわざ追加したり、業務上の損失が発生する前提としての使用が求められる、とか書いても、4ページには届きませんでした。うーむ…

 ちなみに、私の友人で商標法70点超えという破格の点数を取った人がいましたが、その人は、私の項目に加えて、商標管理人について記載したそうです。代理人いるからいいでしょって思っていましたが、既にクリアされている問題点について論じることもあるのでしょう。

 余談ですが、試験が終わったあと、1週間は頭痛と吐き気に悩まされ、まともに仕事になりませんでした。論文試験、恐るべし…。

終わりに

 ここまでR2の論文試験における私の体験談をお話ししました。
 力のある人ほど、この程度の記載で合格できるのか、と思うかもしれません。しかも、かなりの率で条文をパクっています。
 力のある人ほど、この程度の記載で合格できるのか、と思うかもしれません。しかも、かなりの率で条文をパクっています。

 反則じゃないか!と言われても仕方ない…とは思いません。

 目の前に答えの書いてある冊子があって、その使用が公式に認められています。それを引かずに闘う縛りプレイを楽しみたいわけではないので、堂々と条文を参照しました。
 準備してきた問題が出ればガッツポーズになりますが、準備していない問題が出た場合にどう対策するかは、ちゃんと考えなければなりません。
 私は、自分の資金や労力のみならず、家族の協力まで背負っていました。年に一度の試験で、試験開始直後に「覚えていないからお手上げ」なんて許されないです。

 私は暗記が得意ではないなので、条文の理解という観点から対応策を打ちましたが、これは人によるとは思います。

 今一度、条文との付き合い方を考えるきっかけにでもしていただければ幸いです。

 最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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