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ヒュー! 日向 マッチング短歌 FINAL レポート(きらめく受賞作 編)

2024年6月14日から7月12日まで募集された「ヒュー! 日向 マッチング短歌 FINAL」にて賞をいただき、9月14日、15日の授賞式&交流会に参加してきました。

心づくしのおもてなしをいただき、受賞者の方々と親交をあたためることができました。何にも代えがたい経験でした。
まずは、撰者の枡野浩一さん、天野慶さん、事務局の日向市の皆様に心から感謝申し上げます。
当日も御礼を申し上げたつもりですが、いただいたお気持ちの10分の1も伝えられていないと思っています。本当にありがとうございました。

枡野さんは、交流会にご参加の予定でしたが、直前に体調を崩され、急遽ご欠席となりました。
それでも、食事もとれないなか選評を書いて送ってくださり、授賞式では天野さんが代読してくださいました。
ありがたい限りです。


本稿では、今回の受賞作をご紹介します。

現在のところ、公式サイトでは、誰が詠んだかは発表されていませんので、この記事でも作者は伏せておきます。

枡野さん、天野さん、受賞者の方々のコメントもできるだけ記載したいのですが、なにぶん夢見心地でしたので、記憶に自信がありません。
(録音欲しいです!)
参加者の皆様、お気付きのことがありましたら教えてください。

受賞作は、当日の発表順で紹介させていただきます。
なお、マッチした元の歌を「本歌」、それに対して返された歌を「返歌」と記載いたします。


【お知らせ】
受賞作については、X(旧Twitter)のスペースで、外村ぽこさん(@outvillage_poco)が語ってくださっています。素敵な言葉ばかりです。
今回の記事を書くに当たっても聴き返しました。ありがとうございます。
直リンクは控えますので、外村さんの投稿から、お聴きください。




※ 賞の表記は、当日配布されたしおりによっています。


モテ賞

本歌
あなたなど忘れましたよあの人はラムネの瓶も置き去りにして

返歌
忘れても覚えていますあのときのビー玉はまだとってあります

最初は、モテ賞です。
返歌が最も多かった短歌と、そのベストな返歌に贈られます。

この「あなたなど忘れましたよ」の歌には、実に31首の返歌がありました。

「あなたなど」と強気な感じで忘れましたよと言っておきながら、瓶を置いて去ったことに触れることで、心残りを思わせます。実は、忘れていないんですよね。
コメントで「かわいい女の子じゃない」と話されていたのが印象的です。大人な歌だなぁと感じます。
この歌には、私も返歌させていただきました。その空気感に吸い込まれたのを覚えています。

それに対して返歌では、「忘れても覚えてます」と受け、ビー玉は残していると言います。コメントにもあったと思いますが、「ビー玉はまだとってあります」ということなので、もしかすると瓶自体はなくしてしまったのかもしれません。
忘れても覚えているという感覚、なんだか胸に迫ります。
もしかすると…と、いろんなストーリーを想像することができる、余韻と広がりのある歌です。

天野さんもコメントされていたとおり、ラムネの瓶に心を刺激される人は多いようで、たくさんの歌が詠まれていました。
そのなかで、瓶を置き去りにすることで、複雑な感情を表した本歌、そしてそれを受け取った返歌は、これぞモテ賞というペアだったと思います。
美しいです。


短歌愛の賞

本歌
虹色のどれか、くらいのヒントでも私を見つけてくれるんですか?

返歌
だいじょうぶ待っててほしい遅くとも7回目には見つけだすから

今回新設された賞で、20 首以上返歌を投稿した人の中からベストなものとそのペアに贈られます。

こちらの本歌は、作者の方によると「返歌をつくりやすい歌」を目指したとのことでした。
「虹色」とすることで、少なくとも7色、さらには虹にない色も選ぶことができる、いろんなバリエーションの返歌が来るだろう、という意図の歌だそうです。

対する返歌は、私が詠んだものです。
(冒頭にも書いたとおり、他の歌は作者を伏せています。)

携帯電話がない時代、誰かとどこかで待ち合わせするのも一苦労だった。そんな頃のことを思いながら、必ず見つけるよ、でも、何度かリトライするのは許してね、そんな歌です。

この返歌について、枡野さんからはロマンチックな歌と評をいただき、天野さんからは「思わず笑ってしまった」とコメントがありました。
「7回目までかかる!? 6回目くらいで分かるよね!」と。
その視点はなかったのでびっくりです!
そして、短歌においてはスルーされるのが最も良くないことで、感情を動かされるのは大切だ、と教えてくださいました。

作者、撰者お二人、それぞれの読みがトライアングルのように異なりつつ重なる、とっても貴重な経験をさせていただきました。
そのきっかけをくださった本歌の作者の方にも、感謝申し上げます。


なお、余談ですが、私は「読み」という言葉に苦手意識を持っています。
それは、オペラにおいて演出で付与される「読み」がオーセンティシティ(真正性)を損なうのでは、という心の傷のようなものです。故に短歌でも、批評などで見聞きする「読み」というフレーズに壁のようなものを感じていました。
今回の交流会で、短歌は読み手それぞれに解釈があり、それが化学反応のように混じりあって、さらに作品の魅力を高めることを知りました。
これからは、短歌の読みにも、少しずつチャレンジしていきたいと思っています。

長くなりました。
次に進みます。


市民とマッチ賞 その1

本歌
へべすって何?カボスやスダチと同じ使い方ですと説明する悲しさ
(日向市民:道の駅日向駅長)

返歌
誰にでもできる仕事をしていてもぼくにはぼくの生い立ちがある

市民とマッチ賞は、日向市民の方が詠まれた本歌と、ベストマッチなペアに贈られます。
まず最初のペアは、こちらの歌です。

本歌の作者は道の駅日向の駅長さんで、今回の企画で初めて短歌を詠まれたそうです。
ご本人は57577にもなってなくて…とおっしゃっていましたが、道の駅でお客さんと向き合う様子がダイレクトに表現されています。

「へべす」は、宮崎県特産の香酸柑橘で、肉にも魚にも、飲み物やお菓子にも合う万能な果実です。

交流会のなかで、生のへべすを絞って味わうことができ、柚子、カボス、スダチのどれとも違う魅力を知ることができました。
軽やかな酸味と少しの苦みがあって、主張が強いかと思いきや、食材をまぁるく包み込む、それがへべすです。
元々は宮崎でしか流通していなかったそうですが、近年はアンテナショップやふるさと納税などで、東京や大阪をはじめ各地に旅立っているそうです。

そんな魅惑の果実へべすですが、不思議な名前の緑の玉に、どう使えばいいのか、見当がつかないのもうなづけます。

「へべすって何?」と店員さんに尋ねるのは、おそらく県外のお客さんで、上記のようなへべすの説明をしても、「それで、どう使うの?」となるのでしょう。
結局、「カボスやスダチと同じ使い方です」と説明すれば理解していただける、その悲しさを歌にしたのが味ですよね。現場の人だからこその歌です。
天野さんも、最後の「悲しさ」が実感を持って伝わってくるとおっしゃっていました。

これに対して返歌では、「誰にでもできる仕事をしていても」とすることで、カボスやスダチ、そしてへべすを連想させつつ、「ぼくにはぼくの生い立ちがある」と締め、まるで人間の物語のような世界観を描き出しました。

へべすを正面から詠まないのに、本歌と並べることでへべすのことだとわからせ、かつ、果実だけではない普遍性のある次元に膨らませた返歌はさすがです。
へべすが持つ唯一無二の存在感も、際立っていますよね。


市民とマッチ賞 その2

本歌
あの人の笑った顔がみたいから渡しに行こうひょっとこもなか
(日向市民:秋田屋スタッフ)

返歌
先輩はその頬に詰めこみながらなかなかいけるなって笑った

本歌を詠まれた秋田屋は、日向市のお菓子屋さんで、お土産で人気のひょっとこもなかを作られています。

お土産というのは、いただけば、自然と笑顔になるものです。
なかでも、ひょっとこもなかと聞けば、たとえ初めて接する人であっても、そのユーモラスなフォルムが想像できるはずです。
「あの人が笑った顔がみたい」という前向きさ、そこにピンポイントで刺さるひょっとこもなか。お店の方ならではの歌でした。
先程のへべすの歌と同じく、やはり現実から生まれた短歌には説得力があります。

対する返歌は、本歌の「あの人」を「先輩」と明確にすることで、ぐっと焦点が絞られ、その瞬間、場面が動き出します。
ご本人は、渡したひょっとこもなかを食べているのは、同級生でも後輩でもなく、先輩であるところがポイントだと話されていました。

天野さんからは、もなかは他のお菓子よりパサパサしている、というか水分を奪われるものなので、先輩が口いっぱいに頬張り、笑っている様子がとてもおもしろいとコメントがありました。イメージするだけで、こちらが笑顔になりますね。

それにしても、お土産に選んだものがひょっとこもなかって、主人公は先輩をどう思っているんでしょうか。気になります。


準特選 その1

本歌
幸せを願うだけなら簡単でちょっと笑ってしまうくらいだ

返歌
幸せをあきらめるのも簡単であきらめの悪いぼくらでいたい

特に優れたペアのうち、まず準特選の1作目がこちらです。

多様に受け止めることができる短歌が多いなかで、この本歌はストレートです。
そして、少し心が疲れているはずです。

天野さんが「崖につかまっている」とおっしゃったように、岩だらけの岬にたたずんで、言葉すら潮風に飲まれて消えていく…
そんな光景を、私も想像していました。

なので、2日目に日向岬に行けば、その感覚を体感できるかと思ったのです。
ツアーの様子は別の機会に譲りますが、訪れた現地は雨模様でも朗らかな岬で、そこでちょっと笑ったとしても、おおらかに笑い飛ばしてくれそうな、そんな空気のある場所でした。

返歌は、本歌が簡単だと言った「幸せを願う」ことに対し、あきらめることだって簡単だけど、あきらめないよ、と。
そして、どなたのコメントだったでしょうか、「ぼく」ではなく「ぼくら」とすることで、本歌の主人公にも手を差し伸べていると聞き、すごくやさしい歌なんだなぁとしみじみしました。

作者の方も、本歌が悲しい歌なので、それをなんとかしたい。
「願う」に対して「あきらめ」を置き、さらにそれを打ち消す「あきらめの悪い」と展開した、というコメントだったと理解しています。
天野さんからは「ファイト 一発!」のような歌とあり、そのイメージと相まって、とても頼もしく思えました。

「あきらめ」という後ろ向きの言葉を繰り返しながら、希望に向けてレールを切り替えた返歌、絶妙ですね。


準特選 その2

本歌
もうきみに会えないと知るもう来ないカフェのスタンプカードをもらう

返歌
もう来ないカフェのスタンプカードには忘れられない日付が残る

本歌は切ないです。
「きみ」に会えるのを楽しみに通っていたカフェ。もう会えないことを知りつつ、もらったスタンプカードにはその印が押され、物として残る。
主人公は、このあとスタンプカードをどうしたんでしょうね。自分なら、そっと、どこかの箱か引き出しのなかにしまっているのだろうなぁ。

そんなことを考えつつも、もう来ない、と言うこの主人公は、きっとまたカフェに行くんじゃないかという気がします。そんな人間らしさが、この歌の魅力だと思うのです。

それを受けた返歌は、スタンプカードに、そのことを知ってしまった日付が残っているという、ただ事実を詠んだだけのようにみえて、読後の想像がスフマートのように広がる1首です。

作者の方も、そして天野さんも指摘されていたのですが、「もう来ないカフェのスタンプカード」と、31音の半分を本歌からそのまま引用しているところがすごいですよね。
残りの限られた音だけで、物語を描き切らなければいけない、そしてそれをやりきった見事な返歌です。


特選

本歌
ふたりぐみ・コンビ・ペア・デュオきみとならしっくりくるのはどれなんだろう

返歌
相棒がいいなあきみの横に立ち闘いながらじゃれて笑うの

ついにきました、特選です。
準特選の2ペアも、マッチング短歌ならでは、本歌と返歌の組み合わせで輝く歌でした。
では、この特選の歌はどうでしょう。

本歌について、枡野さんの評では、カップルや、昔風のアベックなどの言葉を使わず二人を表現したことを褒めておられました。
作者の方は、この歌で、英語の "Stand by me" を表現したかったと言われています。
「ふたりぐみ・コンビ・ペア・デュオきみとなら」のリズムも軽やかです。
問いかけられると答えたくなる、この企画にぴったりの一首です。着眼点に敬服します。

さらにこの本歌に「相棒がいいなあ」の返歌がつくことで、きらめきます。

相棒といえば、やはりテレビドラマを連想します。
横に立ち。うんうん。

闘いながらじゃれて笑うの

凄くないですか?
「闘いながら」に「じゃれて笑う」がつくところ。じゃれるだけでも笑うだけでも完成しない歌だと思うのです。
最後の「の」もいいですよね。
この1文字があることで、本歌の問いかけを包み込み、自分の立ち位置をはっきり示していると感じます。羨ましくなる1首です。

本歌、返歌、それぞれ単独でも素敵な歌です。
でもそれだけじゃないんですよね。このふたつが並ぶことで、読む人を納得させられる「マッチング短歌」の特選になったのでしょう。
全3回の企画を通じても、代表作になり得るのではないでしょうか。


特別賞

本歌①
あなたとはいつか出会える気がしますクルスの海のまじわるあたり

本歌②
海までの坂を一気にくだるとき飛行機雲になった気分だ

本歌①、本歌②の表記は、日向市記者発表資料による。

最後は、特別賞です。
この賞は、もともとは「お題にチャレンジ! 賞」として、週替わりのお題(日向、へべす、サーフィン、酒)のなかからベストなものを、と選考されたものでした。
詳細については運営サイドからのアナウンスをお待ちいただければと思いますが、この2首は対として詠まれたものではありません。

本歌①は、日向市にある「願いが叶うクルスの海」を詠んだもので、そこで出会えるはずだという歌。
似たテーマの歌が多いなかで、海がまじわるあたり、としたところがさすがです。
実際に十字が交わるところで会うためには、ボートか何か必要でしょうか。

まっすぐに、前を見据えた歌だと思います。

https://www.kanko-miyazaki.jp/spot/1104

本歌②は、情景が鮮やかな歌です。
作者の方の解説で、日向について調べるなかで、日向灘の波が一直線に岸に向かう様子を見て、その線と飛行機雲を対比させたと聞き、目が覚める思いでした。

準特選の項でも少し触れた日向岬は、坂道です。
日向坂46にちなんで名づけられた「日向坂」もあります。

そこを駆け降りる主人公と、2本の白い線。そのまま絵葉書になりそうです。
マッチング短歌が本になるなら、表紙に是非、と推しておきます。


最後に

これで、「ヒュー! 日向 マッチング短歌 FINAL」の受賞作のご紹介を終えたいと思います。
このほかにも佳作が選出されていますので、Xの公式アカウントでご確認ください。

どれも珠玉の歌ばかりで、このメンバーとご一緒できたこと、光栄です。
「短歌愛の賞」ということで、これからの私に激励をいただいたものと、大切に胸に刻みます。

短歌は31音で世界を創るものですが、マッチング短歌は本歌と返歌、あわせて62音で表現することができます。
これって、すごく大きなアドバンテージだと思うのです。

マッチング短歌、形を変えても続いてほしい。

たくさんの返歌を詠めて、楽しかったです。


日向を満喫したツアーについては、また、別の機会に。


【追記】
日向の幸を満喫したツアー編と歌わせ編は、こちらから。


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