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19.ケンタッキーの最適解

 人生は選択の連続だ。進学、就職、結婚等々、人は生きている間に様々な決断を迫られるが、もっとも悩ましい決断を迫ってくるのがケンタッキー・フライド・チキンだ。読者の皆様もレジ前で「今日はチキンを何個頼むのが正解?」と、真剣に悩んだ経験があるはずだ。
 自身の胃袋と相談した結果、「今日は3個だな」と明快な答えが出た場合は問題ないが、往々にして「3個はキツい、けど2個だと足りないかも」と、思考の迷路に迷い込むことがある。レジの後ろには自身と同じようにチキンに飢えた同胞たちが並んでいる。注文に時間をかけすぎると彼らに迷惑がかかるので迅速な判断が求められる局面だが、かと言って拙速な判断による個数の誤りはせっかくのケンタッキーを不完全燃焼に終わらせてしまう。
 そんな悩める読者の皆様のため、本日は「本当は教えたくない、筋金入りのジャンクフード喰いのケンタッキー攻略法」をお教えしよう。各人、メモのご用意を。

 先ほど述べたのと同じ状況の「3個はキツい、けど2個だと足りないかも」、このケースでの注文法はズバリこうだ。

 「チキン5ピースお願いします」

 これが判断に迷った時の最適な注文法だ。

 ・・・「こいつふざけてやがるな。読むのやめよう」とお思いになった読者様もいらっしゃるだろう。ちょと待って頂きたい。確かに筆者は人間性がふざけてると知り合いから言われる事があるし、場合によっては人間性がふざけてると説教される事がままある。
 しかし、ジャンクフードに関してだけは誠実な男であると自負している。私を信じて最後まで読んで頂きたい。

 それでは、この5ピースのチキンをどうスタイリッシュに、そしてエレガントかつスポーティーに食べ進めるのか、筆者なりのやり方をご紹介させて頂き、それによってこの注文法の正しさを証明したいと思う。
 私がケンタッキーを食べるのは主に休日前の夕食。基本的な献立はサイドメニューも含めると以下となる。

チキン × 3ピース
ポテトL × 1個
コールスローサラダM × 1個
マヨネーズ大匙 × 3杯
端麗グリーンラベル500㎖缶 × 3缶

重要なのがマヨネーズだ。ケンタッキーでは提供されないので、事前にスーパーあたりで買っておこう。これを裏返したプラスチック製のコールスローサラダの蓋に大量に出しておく。これをポテトに付けながら食べると獰猛な味わいが楽しめる。マヨネーズは正義だ。
「ポテトにマヨネーズ」以外は食べ方に関して説明する事は特に何もない。あとは本能の赴くままに貪り喰って欲しい。心を無にして肉、芋、肉、芋・・・と、ひたすらに頬張り、喉が詰まりそうになったら「糖質70%オフ」でお馴染みの高級発泡酒、端麗グリーンラベルをぐびぐび飲んで流し込む。これが私の作法だ。
 肉、芋、肉、芋、麦、肉、芋、肉、麦・・・こうしていると宇宙と一体化している自分を感じられるし、調子が良い時は己の中の小宇宙さえ感じられる。

 こんな食べ方をしていると健康志向の読者様(そんな人はこの記事を読まないと思うが・・・)から「暴飲暴食」と窘められそうだが、確かに成分表に基づくカロリーを見てみるとデンジャラスな観は否めない。

チキン 218kcal
ポテトL 390kcal
コールスローサラダM 137kcal
マヨネーズ大匙3杯 144kcal
端麗グリーンラベル500㎖缶 145kcal

単純に計算すると、

(218×3)+390+137+144+(145×3)=1,760kcal


ちなみにビッグマックが526kcal、吉野家の並盛が635kcal、家系ラーメンはおおよそ800~900kcal。世間一般的にハイカロリーと言われるこれらが食事療法中のメニューに見えるくらいだ。
 厚生労働省が出してる40代男性の一日の摂取カロリー目安が2,350kcal。「これ1食で1日に摂るべき野菜の4分の3が摂取出来ます!」なら体に良さげなフレーズだが、「これ1食で1日に摂るべきカロリーの4分の3が摂取出来ます!」だと心には良くても体には悪そうだ。こんなにも莫大なカロリーを一晩で摂るのだから、周りからは成人病に向かって脇目も振らずに猪突猛進してるように見えるだろう。この後先考えない姿勢にはキリスト教における七つの大罪の一つ、暴食を司る悪魔・ベルゼブブさえもドン引きだ。
 
 ・・・なんて驚かせてしまって申し訳ない。読者の皆様、何かお忘れではないだろうか。そう、高級発泡酒・端麗グリーンラベルの「70%オフ」だ。これを考慮していないから1,760kcalなんて数字が出てしまう。
 それでは再計算してみよう。70%オフなので残りは30%。先ほどの計算式にこの30%(0.3)を組み込んでみると・・・

((218×3)+390+137+144+(145×3))×0.3=528kcal

 いかがだろう?意外と思われるかもしれないが、暴飲暴食に見えるこの献立もちゃんと計算してみるとビッグマック1個程度のカロリーしかない。これならば問題ないし、恐れるものは何もない。ベルゼブブもニッコリだ。
 それに栄養バランスもばっちり。日頃から不足しがちな野菜もガンガン摂取できる。もちろん野菜とはポテトの芋、ビールの麦だ。もうこうなってしまえばケンタッキーは健康食品と言っても差し支えない。壇上で民衆に向かって「敢えて言おう、ケンタッキーはヘルシーであると!」と宣言したいくらいだ

※上記計算式及び栄養学に関する記述に誤りがあるおそれがございます。食事の摂取は自己責任でお願いいたします
 
 カロリーついでにちょっと怖い話を。実は丸亀製麵のかき揚げ天、野菜たっぷりでヘルシーそうな印象を受けるものの、こいつのカロリーは驚愕の659calだ。かしわ天が182calなので、正しく破格の熱量と言わざるをえない。これ一個で牛丼やビッグマックを凌駕するのだから驚きだ。
 まあ、これはついでの話だから忘れて欲しい。一流のジャンクフード喰いは一流の記憶忘却のスキルを持っている。都合の悪い情報は脳からシャットアウトして、丸亀に行った際は何食わぬ顔でかき揚げ天を食べよう。
 仮に659calの真実が頭から離れないのなら、逆にその事実を強く認識しながら食べるやり方もある。以前にも言ったことがあるが、「食べてはいけないものをモリモリ食べてる」という背徳感は食事において最高のスパイスになる。私もかき揚げ天のカロリーを知ってからは敬遠していた時期もあるが、今ではもう以前と同じようにモリモリ食べてる。「俺は今、ダイエットしてるのに659calを喰ってるぞ」と思いながら食べると妙に興奮するので、皆様にも是非おすすめしたい。


 さて、豪快な暴飲暴食、ではなく慎ましい食事でチキン3ピース、腹具合によっては2ピースを平らげたわけだが、当然のことながらまだチキンが残っている。昨晩の夕食で食べきれず、冷蔵庫に入っているそれをどう処理するか。ここからが「本当に教えたくない」の真骨頂。今やチキンはポテトやビスケットだけの相棒ではない。ジャンクフード喰いのトッププレイヤーたちはもう二歩も三歩も先を行き、チキンの新境地を切り開いている。
 実はケンタッキーのチキンは白米のお供として非常に優秀だ。桃屋の「ごはんですよ」に描かれた三木のり平の顔が真っ青になる程、「めし泥棒」として高いパフォーマンスを持っている。 
 そう、朝ご飯のおかずとして供するため、意図的にチキンを余らせておいたというわけだ。

 それでは、翌日の朝に「ほかほかのご飯」「お漬物」「お味噌汁」を用意しよう。そしてチキンをレンジで温め直す。チキンに冷めた部分が残ると具合が悪いので、加熱時間は結構長めでOKだ。温めすぎると肉汁が出てしまうが、それはそれで良し。後々再利用する。
 ここまで準備が整ったら、例の如く本能の赴くままに貪り喰って欲しい。心を無にして肉、米、肉、米・・・と、ひたすらに頬張り、喉が詰まりそうになったらお味噌汁で流し込む。食べてみたら「秘伝のスパイスがこんなにも白米に合うなんて」と驚くこと請け合いだ。「ご飯がススムくん」のマスコットキャラクター・ススムくんが嫉妬するほど、とにかく白米がすすむ。これはきっと、カーネル・サンダースも予想だにしなかった違いない。彼にこのチキンが持つ無限の可能性を見せてあげたかったと心から思う。
 「お漬物」はキュウリの浅漬けあたりがお勧めだ。ご飯と一緒に食べてなお秘伝のスパイスのアタック感は強いので、箸休めに持ってこいだ。間違っても「きゅうりのキューちゃん」は選ばないで欲しい。秘伝のスパイスとキューちゃん、どちらも味が濃いので口の中がカオスになってしまう。
 忘れてたが、レンジで温めた際に流れ出した肉汁と油はそのままご飯にかけると美味い。そのままでも良いし、醤油を一垂らしするのも悪くない。これはステーキを焼いた際、余ったソースをご飯にかけて掻き込むのと同じ原理なので不味いわけがない。
 
 以上がチキン5ピースのエレガントな食べ方だ。きっと、私の提唱する「迷ったときはチキンを多く買え説」の持つ無限の可能性が読者の皆様にも伝わったのではないだろうか。これを休日前の夜→休日の朝のタイミングで食すと穏やか気持ちになれる。日頃からストレスになってる上司からのいびり、満員電車の窮屈さ、これ以上は無理と言ってるのに更に値切ろうとする取引先、光らないパチスロの大当たりランプ、こっちが大金を掛けてるのにも関わらずヤル気がなさそうにノロノロと走る競馬場の駄馬等々、そんな嫌な物々もすっかり脳裏から消え去ってしまうので、是非お試しいただきたい。

 ちなみにご紹介した「ご飯のおかず」以外にもお米を使ったチキンの食べ方がある。ジャンクフード喰いのトッププレイヤーたちの中でも更に超一流と呼ばれる一部の人たちだけがやっている最高難易度の美技。それが「ケンタッキー・フライド・チキンの炊き込みご飯」だ。お米とチキンを一緒に炊くなんて、何てテクニカルな食べ方だろう。詳しいレシピは全国の猛者が料理系のサイトにUPしているので、興味がある方は探してみて欲しい。
 私も何度か挑戦しようと思ったのだが、いつだって朝ご飯のおかずとして消費してしまう。何という罪深い食べ物だろう。こんな素晴らしいレシピを編み出したのに、カーネルさんがノーベル賞を受賞出来なかったのは残念としか言いようがない。私がノーベル財団の偉い人なら「ノーベル鶏肉賞」を新設し、おまけとして「ノーベル平和賞」も抱き合わせてカーネルさんに進呈するのに。もちろんこれは私の心を穏やかにしてくれ・・・


 ・・・とんでもない事を思い付いた。5ピースじゃなくて7ピース頼めばチキンの炊き込みご飯も作れるでは?夕食に3ピース、翌朝に2ピース食べ、さすがにチキンが続き過ぎると塩梅が悪いので昼食は間を置き、夕食に2ピース使った炊き込みご飯。これは凄い、凄いなんてもんじゃない。私はひょっとしたら天才かもしれない。ノーベル鶏肉賞も夢じゃない。

 そう言うわけで読者の皆様、突然で恐縮だが注文法を変更したい。「3個はキツい、けど2個だと足りないかも」このケースに最適な注文法はズバリこうだ。

「チキン7ピースお願いします」
各人、メモしておくように。

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