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明るい光へ一緒に歩いて行く~IZ*ONE「SOMEDAY」について

IZONEが『BLOOM*IZ』で復活して1年が経った。

発表された当時は活動曲の「FIESTA」の昂揚感に大いに惹きつけられた。

『BLOOM*IZ』全体については、相変わらずのクオリティの高さは感じたものの、前作の『HEART*IZ』が全曲素晴らしいアルバムだったため、それに比べるとそこまで強い印象は感じなかった。


しかしここ1年、ことあるごとに『BLOOM*IZ』の色んなを楽曲を聴き込んでいくうちにだんだんこのアルバムに引き込まれていき、この作品が最高傑作だと思うようになってきた。

ここ最近も『BLOOM*IZ』の価値は自分の中でさらに上がってきている。


『BLOOM*IZ』の中で注目したいのが、チョ・ユリが作詞・作曲に参加している「SOMEDAY」(原題は「언젠가 우리의 밤도 지나가겠죠 」いつか私たちの夜も過ぎるでしょう)だ。

下記のサイトや動画を見ながら訳詞を書き出してみた。

https://ameblo.jp/0kuuuuuumi0/entry-12582301645.html

https://www.youtube.com/watch?v=uZf0x-qS3zQ

https://pezz2.hatenablog.com/entry/2021/01/04/022436


IZ*ONE「언젠가 우리의 밤도 지나가겠죠」(SOMEDAY/いつか私たちの夜も過ぎるでしょう)

作詞:チョ・ユリ

作曲:チョ・ユリ, Nmore(PRISMFILTER), Building Owner(PRISMFILTER)

【訳詞】

深い夢の中 そのどこかにある

終わりのない暗闇の中で 

濃く立ち込める霧に 

しばらく道に迷って少しずつ遠ざかって

手をのばして届くように願ってみたけど 

私は何度も回り道をして また迷うのかな

いつか私たちの夜も 全て過ぎるでしょう
終わりのない暗闇が押し寄せても私は二度と 

怖がらないように

私たちは両手をぎゅっと握って 

暗闇の果てまで一緒に歩いて行くのよ


長かった夜を輝かせた 夜空の星明かりを眺めて

私たちが一緒に願ってきた夢が 

あの空を明るくするの

ちりばめられた星 その光が私たちを照らしたら
また一歩ずつ 前に進むの

いつか私たちの夜も 全て過ぎるでしょう

終わりのない暗闇が押し寄せても私は二度と 

怖がらないように

私たちは両手をぎゅっと握って 

暗闇の果てまで一緒に歩いて行くのよ


遠い道だとしても私たちは終わりまで

合わせた両手をぎゅっと握って 

終わりない道を一緒に


いつか見つめあった時  

私たちは微笑むでしょう

終わりまで一緒にいる私たちだからこそ二度と

怖がらないように

私たちは両手をぎゅっと握って
明るい光へ一緒に歩いて行くのよ


普段ENOZIなどで見るユリの印象は、アイドル的な愛らしいルックスを持つ天真爛漫な子。でありながらも従順な感じではなく、自分の主張はしっかりしそうだし、一筋縄ではいかない曲者的なイメージもある。しかし基本的にはいつも明るさを絶やさず、周囲を笑わせているタイプの子だと思う。


それだけに「SOMEDAY」の歌詞の世界観はかなり意外なものに感じられた。

この詞の語り手は、深く終わりのない暗闇の中にいて、その夜の闇の世界から抜け出すことを願いながら、自分以外の他者と光を求めて少しずつ歩き出そうとしている。


あくまで僕なりの推測では、アイドルとしてデビューすることを夢見ながらそれを叶えることができず闇の中にいるような心境だったかつてのユリが、IZONEのメンバーたちと出会い、どんな困難があっても共に歩いていくことを願っている、という解釈である。

「SOMEDAY」はユリの驚くほど繊細な感性が炸裂した楽曲だと思う。

僕も韓国語は分からないし、訳詞を見るまではどんなことが歌われているのかは分からなかったけど、言葉が分からない人たちにもこの曲の繊細なムードは一発で伝わるのではないだろうか。

思春期から大人に移り変わる、人生で一度しか訪れない貴重な時期の感情がこの曲に刻まれているようにも感じられる。

「SOMEDAY」はユリ、イェナ、チェウォンの3人のユニット曲だ。

この曲に合う声質のメンバーが選ばれており、3人のコンビネーションも非常に良い。 

チェウォンが良いのは言うまでもないが、イェナの繊細かつエモーショナルな歌が素晴らしい。活動曲などではイェナのボーカルがここまでフューチャーされることは少ないだけに、改めてボーカリストとしても凄い能力を持っていると感じた。

そして何よりユリのボーカルが良い。

ユリはIZONEの中でメインボーカルであり、ハイトーンで声量もあるので活動曲などではその特質がよく活かされている。

それだけに曲の終盤になるとユリにシャウトのようなボーカルをさせるのが定番になっており、やや表現が一本調子な印象もあった。

しかし「SOMEDAY」を聴いてみると、こういう繊細な楽曲でこそボーカリストとしてのユリの魅力は最も引き出されるのではないかと感じた。


今のK-POPにおいては、アイドル自身が楽曲制作に関わることも多くなっている。

アイドル自身が作る曲というと可愛らしい曲であったり、ピュアなラブソングなんかがまず思い浮かぶ。

またファンに感謝を捧げるような曲も多いと感じる。

あるいは、例えばガールクラッシュ系であれば強さを主張するような自分たちのグループとしてのプライドを打ち出していく曲もある。


しかし「SOMEDAY」のようにシンガーソングライター的なアプローチをとり、自分の内面のナイーブな部分をさらけ出すような曲はなかなか珍しいと思う。


『BLOOM*IZ』にはリーダーのウンビが制作に関わった「SPACESHIP」もあるが、こちらは作曲家チームと組んで作られたコンセプチュアルな楽曲で、クオリティの高さに驚かされるが、「SOMEDAY」とは対照的な指向の曲である。

「SOMEDAY」はユリが単独で作詞しているだけに、通常の職業作家が作った曲には生み出せない生々しさを感じる。

ユリは幼いころから習っていたピアノ演奏も達者で、音楽的な素養は恐らくIZONEの中でもトップクラスだと思う。

恐らく原案になる詞と曲はユリが作り、それをもとにプロの作曲家たちが整えていく、というプロセスではないかと推測している。

アイドル自身のリアルな感情が刻み込まれた曲を採用し、多くの人が聴けるものに仕上げたハン・ソンスというプロデューサーの度量の大きさと巧みな仕事ぶりには改めて感服させられる。


YouTubeのこの曲についてのコメントを見ると、IZONEの活動休止期間について歌った曲ではないかという声もある。

しかし『BLOOM*IZ』はそもそも活動休止前にリリースされるはずだった作品なのでそれはない。

しかしこの曲の訳詞を読むと、そう捉える人が出てきても不思議ではない内容に思える。

咲良は「SOMEDAY」をとても気に入っていたようで、ラジオでも繰り返しこの曲をオンエアーしていたし、「FIESTA」での活動期間中、収録に向かう時は必ずこの曲を聴いていたと「さくのき」でも語っていた。

またオンラインコンサートでは「SOMEDAY」をメンバー全員で歌っている。

もしかしたらこの曲が活動期間中のメンバーを支えていた大切な曲だったのかもしれない。

もしあのままIZONEが解散してしまっていたなら、「SOMEDAY」が日の目を見ることも無くなっていたわけで、そう考えると改めて活動再開できたことで救われたものの大きさを痛感せずにはいられない。


「SOMEDAY」はあくまでユリの個人的な感情を掘り下げて生み出された曲だと思う。

しかしそれが凄いタイミングでグループの活動休止という状況ともリンクするような曲になった。

さらにはこの曲のタイトルの「いつか私たちの夜も過ぎるでしょう」は、意訳すれば「明けない夜はない」ということになるだろうし、歌詞の内容を含め、コロナ以降の世界でよりリアルに響く曲になっていると感じる。

個人の感情の深い部分を突き詰めて創作をすると、周囲の状況と不思議にリンクしさらには世界の状況とも思いがけずリンクしてしまうというのは、優れた表現の真髄を目の当たりにした思いになる。


オンラインコンサートで12人で歌われた「SOMEDAY」は感動的だったが、個人的には本来の3人で歌ったバージョンも体験してみたいと思っている。

またユリはグループアイドルのメインボーカリストでありながら、ソングライターとしても個性的な感覚を持っていると感じる。

何よりアイドルグループの楽曲であるにも関わらず、こういう曲を制作して提出した彼女には、アイドルには収まりきらない何かがあるのではないかと思わずにいられない。

今後他にはいないタイプの表現者として、チョ・ユリの才能に光が当たる時が来ることを期待している。











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