展示物を観るいま

わたしは美術館や博物館で古いものを観るのが好きだ。「博物館レベル」という言葉が、ときに旧さのネガティヴな譬えとして用いられる。現代美術ならともかく、たしかに美術館や博物館の展示物の多くは、すでに死んでしまった、今は過去となった人たちによって作られたものである。その一方で、美術館や博物館に行って展示物のあいだを歩き回り、疲れて休憩コーナーの椅子に座りこむわたしは、今を生きている。

旧いものが製作された当時の人々とわたしとはちがう。もちろんわたしは展示物の解説を読むし、想像を膨らませて作品が生まれた当時のことを想う。知識を増やし、想像を膨らませることによって、わたしは展示物が生みだされた当時の人々、ことにその作品の制作者と繋がっていることを感じる。とはいえ、わたしはその時代の人ではない。わたしの作品の受けとめは旧くない。わたしの受容はいつもつねに今この瞬間であり、新しいのである。

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