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観劇メモ:花組『NICE WORK IF YOU CAN GET IT』

どうしても観たくて、見た過ぎて、国際フォーラムで取れなかった時点で諦めたはずの「NICE WORK IF YOU CAN GET IT」を、諦めきれずに梅芸まで観に行った。

ということについて書いていなかったなぁ、と思ったので遡って思い起こしつつ、観劇メモ。ネタバレへの配慮は一切ありません。


国際フォーラムで確保できなかった時点で諦めるべきだったのだけれど、一般に挑戦してみたら取れたので、これはもう運命だ!などと勝手なことを言いながら行ってきた。最高だった。日帰り遠征できる場所で良かった。元気出たし、免疫力が上がった。ウイルスなんて寄せ付けないし、あといま現在、例年に比べると花粉症がものすごく楽です。観劇免疫療法。

観終わって以降、あのシーンこのシーンを思い出してはずーーーっとニヤニヤニヤニヤニヤニヤしていた。あまりにもニヤニヤしすぎて、しかしこのクソデカ感情をぶつけるところがなくて(ヅカにわたしを引き込んだ友は、アナスタシアにドハマり中だった)、Twitterで通常アカウントとは別にアカウントを作って「はー好き好き」って呟くだけbotをやっていたくらいにはニヤニヤしていた。はぁ、好き。

同時に、どうしよう次の作品でれい華終わっちゃうの?!という動揺が全力で激突してくるので、情緒が不安定気味になる。そしてその動揺に、さらなる激震。え、瀬戸さんもいなくなるの……?無理。ヤダ。

でも楽しかったのは事実で、好き好きbotとしてTwitterに書き散らしても書き足りなかったので、ナイワがいかに楽しかったかという個人の感想を書き散らします。絶賛思い出迷子中。



「NICE WORK IF YOU CAN GET IT」。禁酒法時代のNY、金持ちのプレイボーイで4度目の結婚が目前のジミーが、もぐりの酒場でバチェラーパーティーをし、しこたま酔った夜から始まる物語。法の網を潜り抜ける密売組織のメンバーであるビリーと出会い、そこからはじまるドタバタのコメディだ。ガーシュウィンの名曲たちにのせて、キャストが歌い、踊る。軽快にタップを踏み、しっとりと情感を歌い上げる。


宝塚と相性良すぎない??が最初の感想。キャストの画力(えぢからと読みたい)と設定に説得力がありすぎる。その代表格が柚香光さんだ。

柚香光さんは顔面ツヨツヨだ、間違いない。美しさと独特の色気を持っている。立ち姿も美しい。モデルとしてのお写真も、男性のお役を演じている時のお写真も美しい。君こそスターだ、って感じがする。

けど、わたしの好みではない。異性としても同性としても昭和の男前/美人顔が好きで、ついでにもうちょっと筋肉質な人が好きなので。柚香さんはちょっとモダンすぎる。ということで、単純な好みの話にするならば、「はぁ綺麗ですなー」で終わる。

それなのにひとたび舞台に立たれると、目が引き寄せられるし、普通に恋に落ちる。凄まじい吸引力。ダイソンもびっくりだ。おかしい、好みじゃないはずなのに。好みじゃないとか全然嘘ですごめんなさい、ってなる。なんなん。演技と素の境目が見えない。どこまでも自然体に見える、ように演じていらっしゃる。

そして「こんなん、柚香光じゃなかったら許されん所業」という話になる。ジミーというキャラクターがイコール柚香光で、あの人だからなんだか許せてしまうよね、というジミーの性質に、異常なまでの説得力が出てくる。あんな性格の男とか絶対嫌いだろう自分、って思うのに、友達と「ジミーと重婚したい」「わかる」という話を繰り返すことになる。したいじゃないですか。正妻は華ビリーでお願いします。

で、ナイワのブロードウェイ版のトレーラーを見る。歌が素晴らしい、ダンスがカッコイイ。でも、うちの(勝手に「うちの」とか言い出した)も、これは一つの解なんじゃないでしょうか??としみじみ思った次第。歩き方、話し方、するりと入る歌、軽快な足取り、伸ばした指先。どれにも表情があって、どれもがジミーだ。最初にこのパターンを見せられたら、これが正解にしか思えないほどにジミーだ。

思えばはいからさんでも、予想以上に少尉が少尉で、「あー、決して好みのお顔ではないのに」と言いながら、恋に落ちる疑似体験をしたものだった。マジで凄い吸引力……。本人の特性と反するような、例えば『羊たちの沈黙』のレクター博士みたいな、あるいは『ゴッドファーザー』のマイケル・コルレオーネのような、圧倒的な悪を演じているようなところも観てみたいなぁ、それでも魅力的になるんだろうな。


わたしは宝塚にはいからさんから落ちた人間なので、この目で柚香光さんの演技を見ることができている作品はわずかに2作。そしてその2作品とも、柚香さんはトップであり、お隣には華優希さんが立たれていた。柚香さんを素敵なスターさんだな、と感じるわたしの感情を増幅させているのは、隣に立つ彼女の目線が凄まじく説得力があるからだ、と思う。

はいからさんを見た際、「ああこの子すごく好き、素敵!」と思ったのは、誰よりも華紅緒だった。あまりにも彼女の演じる紅緒にピントが合いすぎ、追加のチケットを探し出したし、二度目に見に行って「やっぱりどうしても気になる!とても素敵!」と、感じた衝撃を、お手紙を書いて整理したくらいだ。ファンレターなんてものを出したのは人生でほとんど初めてのことだった。

その数日後、退団を発表されて衝撃に崩れ落ちたのだけれど。マジかよ。未だに信じられないよ。でも最後までやり切って、やり切った感情でご卒業の後、自身の思う幸せに向かって突き進んでください。それが演技の道なら嬉しいな。またどこかで見られるのであれば、幸せだなぁ。

いや、華ちゃんも、決して好みのお顔ではない。ない、はずなのに、紅緒さんにもビリーにも恋しちゃう。わかるー、みんな彼女を好きになるよね、わかるー。

紅緒を観た時の衝撃の強さは、同時に、たまたまこの子のキャラクター性にハマる役だっただけなのかも、とも思った。芯があってお転婆なキャラクターに似通ったなにかを持っているだけかも、と。でもナイワを観て感じたのは、違う、この人、化け物みたいに役の中に入り込んで、役そのものになってるんだ、というものだ。

そして、なんなら、日頃から「娘役」という役すらも、演じているんじゃないのかしら。柚香さんが圧倒的な個性に役を引き寄せているのと、ちょうど真逆にあるように思う。

あと若いのになんなのあの包容力。凄くない??可愛がられて、愛でられて、なんにもできないマスコット的存在、みたいな感じすらするのに。ニコニコ微笑んで、照れて、緊張して、「かわいー」って言われている姿があまりにもピッタリなのに、ステージの上で感じる母性のようなもの。もはや聖母かよ。

裏の世界でなめられぬよう、利用されぬよう、少年のようなナリでことさらに粗雑な言葉遣いをして、心に鎧を着て生きてきたビリー。そんなビリーが、ジミーのどうしようもないのに憎めないさまを、セリフを、歌を聞きながら、心のガードがほどけていくさまを、表情や肩の動きで表現してくるのが本当に凄まじい。二人の喧嘩のシーンの、二人のそれぞれが浮かべる表情を観たいのに、目が1組しかないからどっちかに焦点を当てざるを得ないんですよね……あのシーンを観たいがために、ナイワの円盤は買います。


れい華コンビの演じる生の感情感(でも演技!)を、さらに凄まじい勢いで動かしてくるのが瀬戸かずやさん。冬星も「紅緒、冬星はいい男だよ……。冬星エンドもありじゃないかな……」ってなるお役だったけど、今回のクッキーが好きすぎる。

コメディとしてのドタバタしと進む舞台で、それをまとめる柱役を担ってるのは瀬戸さんだなぁとしみじみ思う。瀬戸さんが狂言回しとなることで、コメディが滑らず、空気感をひとつにまとめながら間が整えられていく。それでいて、自身もコミカルな役回りを演じたかと思えば、シリアスなシーンを、その背中だけで語る。立ち姿、指の先まで男役でいらして、凄まじくカッコイイ。柚香さんとの掛け合いが、とてつもなくキュート。そしてそのご本人のもつ雰囲気、包容力などがクッキーというキャラクターにぴたりと馴染んでいる。めちゃくちゃ素敵。

セリフの一語一語が伝わりやすく、怒る姿で愉快に思わせる、その間が完璧だった。それでいてダンスとなると力強く美しく、ああええもん見てる、という気持ちに満たされるヤツでした。


音くり寿さんは、はいからさんでもそうだったけれど、ハッと目を惹く女優さん。娘役さん、というよりは女優さんだなぁとしみじみ思う。歌声も美しく、ヒロイン以外は背景になりがちな娘役さんの中でも、存在感が凄い。

はいからさんの環の上品さと強さを持つ感じ、は、元々の音さんがお持ちの要素のように思うのだけれど、ジェニー・マルドゥーンのフラッパーな感じ、というかフラッパー通り過ぎてミーハーなパーティーガールというか、をはすっぱなしゃべり方やポーズで表現されていて、めっちゃキュートだった。彼女とビリーが語り合う場面の、優しいトーンの声がきっと彼女(ジェニー)の本質なんだろうな、と思わせるその演技。素敵。

これからもきっと、彼女のお役はつい目が行ってしまうと思う。バブルガールズでも、永久輝さんと同じくらい、音さんを目で追ってしまっていたもの。なんとなく目を惹く存在。


と、正直、このペースで全員について触れていきたいくらい、この舞台は人物がとてつもなく魅力的でした。物語の筋、というよりは、各々の際立ったキャラクターと、それを存分に発揮する演者のジェンヌさんの魅力について書きたくなる類。それぞれが際立っていて、それでいてかみ合っているからこそ、結果、舞台全体が「ああ面白かった最高に」となるんだな、と思った次第。

おもちゃ箱をひっくり返したような、との原田先生の表現。納められているおもちゃが、どれもこれもひとつずつがキラッキラに発光していて、よくこの1箱におさまっていたな!という感動が味わえて、ああ、楽しかった。