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観劇メモ:宙組『夢千鳥』配信

もう『夢千鳥』の感想ならば、初日見た際に書いたじゃないですか……と思いつつ、なんかもう改めて「良い作品だった……!」って気持ちがフツフツと湧いてきたのでもう一回書き散らしたい。主に各お役を通じて、物語について。


前に書いたのはこちら。

答え合わせしたら明らかに間違いだったところもありましたが(例:和希さんのごあいさつのタイミング。とか、設定は昭和だった、とか)、まぁ、それはそれでいっか!恥ずかしいけど!!

今回もネタバレへの配慮はありませんので、ご了承ください。


竹久夢二/白澤優二郎:和希そら

完全優勝。以上。

5000文字くらい使って、どう優勝だったか語りたい気持ちもありつつ、なんかこのままにしておきたい気持ちもありつつ。でもちょっと書く。

1回限りとなった観劇機会は、初見だけに全体を見たくて、オペラの使用を最小限にしていて(最後列でも全然見える、バウありがたい)。でもこうやって表情を大写しにされると、「あああ、このシーン、オペラでみておけばよかった!配信ありがとう!!」ってなる。馬鹿だから、予定通り追い千鳥できたとしても、「全体の中の和希さん」を見て、たぶん表情を見きることはできなかったから。

3人の女性が他の女性に対して思っていた、「この人はわたしこそを」という感じが、その表情に、仕草に、声に伝わってくる感じがとても良い。

他万喜との関係は、絵具の使い方を教えたのは彼女であった、彼女に惚れこんで夢二が口説き落とした、という作中説明からして、はじまりは圧倒的に他万喜が優位にあったのだろうな、と推察される。年上なのもあったから、彼女が言う「姉のように」という気持ちは、実際にどこかあったのだろうなとも思う。でも夢二にとっての姉は、もっと柔らかくて優しいものだからなぁ。苛烈さがなければ、たしかにただ一人の存在になれたかもしれない。けれど、苛烈さがなければ夢二は惚れなかっただろうし、因果な関係ですねぇ。

そんな他万喜に対し、これまでの彼女を作ってきたものすべてに勝ちたい、というような感情が夢二にはあったのかな、と、ふと考える。画壇にこそ認められたい、というのも、根っこのひとつくらいには他万喜の過去に勝つ、というところがありそう。嫉妬、自虐、そういう彼の中の汚いところを刺激する存在であり、だからこそ全て見せられる(見られてしまう)相手は他万喜だけだったのだろう。し、それは本人も知っていたんだろうな。

DVタンゴの際の、他の男に囲まれる彼女を見る時の目が、その究極でとても良かったです。その後の絵を描く姿も。誰の絵を描くときよりも、他万喜を描く時の遠慮のなさ、傲慢なまでに芸術家であるところが、他万喜を震えさせただろうな、と、その横顔の美しさを拝見しながらしみじみと思っておりました。

一方で彦乃、他万喜の後に選ぶ相手。他万喜と対照的な存在だからこそ、あの柔らかな表情。ただ、彦乃とあるときの夢二は、めちゃくちゃ存在感がわたしの中で消えている。バチバチに他万喜とやり合っている時と比べて、彼の平和で平穏なこの時間の印象の残らなさ。彦乃マジック。

彦乃を題材に絵を描く姿、って記憶にないのだけれど(ありましたっけ?)、きっと他万喜にしたようではなかっただろうな、と想像してしまう。そんな余韻のある二人の姿でした。そら彦乃も、「愛されているのは、わたし」という気持ちになりましょうぞ。

そう考えると、お葉ってハイブリッドだな。他万喜のような計算、駆け引きではないけれど、男との距離感が彼女を思い出させる。偏ったものしか知らぬ環境にあったからこそ持つ、「教え導かねば」となる無知さ。私を見ていない、と彼女が感じるのもわかる気がするあり方。でも、そんな彼女だからこそ、これまで叶わなかった情けなさ、行かないでくれと縋りつき許される、そんな関係性を築けたのかなぁ、とも思う。

どの相手を切り取っても、最終的にはダメな男なんだけれど。才能のある、実際に評価もされているダメな男。でもそのダメさが魅力的だった、ということに説得力がありすぎる和希さんのお芝居でした。

「うつら、うつら」というテーマ曲を歌う、その声と、伸ばした手先が美しくてずっとウットリと見ていたい。あとお葉との別れ&彦乃の死の後のダンスの美しさは、画面を通しても半減せず。

ショーの、「赤い鳥逃げた」がカットされるんでは、とビクビクしていたのですが、見られて良かったです。あの声と、舞台内容との相性の良さ!あと娘役全員抱いてやるダンスが良くてですね、もう一回観られて本当に良かった。でもさらに何度かみたいです。


他万喜/赤羽礼奈:天彩峰里

『アナスタシア』で「めっちゃキュートやな、可愛いな、少女らしい表情!」ってニコニコしながらオペラでガン見していた、少女時代のアナスタシア。彼女が持っていた、あの表情が一切出ない。嘘やろ……? 店の奥から出てきた瞬間、のれんをすっとくぐるその白い手の美しさ、凄まじい美の暴力。艶やか(つややか、でも、あでやか、でも)な色気。

着物フェチ気味で、黒系に赤を合わせたがる族なので、他万喜の着こなしが凄まじく好きでした。あと衿の抜きかた、立ち姿、歩き方。そして夢二に殴られた後、崩れた襟元を直す様子。どうあっても美しい。

実際の他万喜の美しさを表す言葉に、目の大きさを謳うものがあるのだけれど、舞台では他のどの女性のお役の方よりも他万喜の目の力が強かった。「お嬢さんはもう、……女です」の言い方と、目。あんなにも頭がおかしいことを言っていて、夢二本人にすらおかしいと言われていて、けれど彼女自身は一点も曇りなく、自分と夢二を守るためにはそれしかないと信じ切っている目。狂人の目。澄んでいるのに、光がない感じ。

タンゴで、他の男と踊っていてさえも、目が夢二に向くところが彼女の愛着を超えて執着となっているものを伝えてくる。相手を狂わせて、狂わせている間だけは独占できる視線を喜んでいる。消えかけた愛の火種を必死で煽って、その瞬間だけは火が大きくなって取り戻せたように思えて、でもそうして無理をして燃やしたら火種が早く燃え尽きちゃうよねぇ、という感じの仕掛けが凄い上手い。なんか、世のダメな男女の関係性の、ダメなところを煮詰めた感じがする二人だったなぁ……。

ところでDVタンゴ、阿呆な物言いをしてしまったものだ、怒られそうと思っていたのだけれど、世の他の人も同じことを言っていて一安心。みんなそう思うよねぇ??


彦乃:山吹ひばり

今回もまた、わたしにとって一番怖いのはこの方でした。ある世代から上はコレで通じることでしょう、「わざとだよ?」(by 幸子)感。

初々しく、生まれ育ちが良いとこのお嬢さんらしき品の良さがあり、まっすぐで、少し内気で、けれど気を許した人の前ではおきゃんなかわいいお嬢さん。が、声に、話し方に、表情に、立ち姿にあらわれている。

けれどその裏側には「オンナ」の面がきちんとあって、駆け引きだってしてみせる。その感じがどこまでも幸子感あって、マジでこえぇ女。アップでお顔が映った際、瞬きの仕方まで徹底されていて、え、これで研2なの……??という震えも来ます。

夢二が愛したまっすぐさは、彼女の幼さや、知識はあれど頭でっかちなモノ知らず(現実を知らない)なところにあったように思う。最終的に父の言葉に従って帰ったのも、例えば病の自分が夢二のそばにいる負担、などといった理由ではないだろうなぁ、という。きっとこの彦乃は、以降病院から抜け出すこともなかったんだろうし、死を前に最期に口にした言葉は両親に向けてだったろうな、などと考えさせてくる。

2つの意味で怖いお方。この先、どんなお役をやるんだろう?見てみたいです。


お葉:水音志保

この方の、表情の演技が素敵だった。夢二にすがられて、どこか諦めたような表情を浮かべる時や、夢二が眺めていたのが順天堂病院だった、と知った時の表情なんかが特に。

そして何よりも、見た目が夢二の美人画の人だった。水に濡れた色っぽい薔薇のような、そんな美しさ。彦乃とは対照的な存在で、だからこそ夢二は求めたんだろうなぁ。そしてそんな彼女だからこそ、自分で夢二を切り捨てることができたんだろうな。という説得力。

声もしゃべり方も綺麗。最初に彦乃の学友で出てきた時と、キッチリ雰囲気を変えていらっしゃるのも良かった。というか、女学生スタイルの初々しさはどこへ消えたの……?え、彼女も研2……?嘘でしょう??
(※水音志保さん、研7とお教えいただきました。申し訳ございません!!)


菊子:花宮沙羅

お葉と彦乃の、ちょうど間くらいの女性感。彦乃のような女学生になってみたかったと憧れを隠さず、でもお葉のような諦観を持っている。

夢二の店で買い物をしてみたかった、という時の弾んだ声。舞台を観たいと願い、玉代を払えないと困る夢二に冗談と紛らわせる時の声。いずれも明るい声で、それなのに込められている感情の違いが明確で、あー、この子売れっ子の芸妓さんなんだろうなぁ、としみじみ考えてしまった。ジェンヌさんですけどね。知ってますけどね。


恩地孝四郎/紺野陽平:留依蒔世

このお芝居全体を通しても好きだな、と思ったシーンのひとつが、腑抜けて飲んだくれる夢二を動かしたセリフ、そして歌でした。先生の絵がまだ見たい!という心からの声に、夢二がツッと涙を流す美しさ。自分を心から求めてくれる人を、夢二はつくづく求めていたんだなぁと思わされる(他例:彦乃)美しいシーンに、説得力がありすぎる歌声でした。

白澤がバーで寝てしまい、そのまま時代が大正へと移り変わるところ。演じる人は変わらず、時代が変化している、という表現も、大掛かりなセットチェンジがなくとも伝わる説得力があって、なんなんでしょうね??

あとダンスなー!幕が上がって、あの後ろ姿が見えた瞬間に「はい優勝!」ってなる美しさでした。夢千鳥、各種レースで優勝している。


東郷青児/西条湊:亜音有星

観劇後に「あのロケットは誰……」と亡霊のように検索し、解が得られた時の「ああああ!」感の気持ちよさよ。あれは見入る。立ち姿が美しい、お顔が美しい、そしてロケットのキラキラ感。凄い。凄い。

東郷ちゃんが彦乃に向ける軽蔑の混ざった眼差し。わかるー。彼女と俺とは違う、って思ってるんだよね。自分のためにじゃなくて、他万喜のために、他万喜を助けたくて、って。根っこは一緒なんだけどね……。ってところが、すごく演技として好き。あと西条とメイクさんの会話の時の、そっと漏らした本音、みたいな間が好き。


夢二役:秋音光

「あの踊りの綺麗な人、顔面もきれいだな」が、だいたい秋音さんだった件。どうなってるの???マジで言葉にならない。

映画の最後、お葉と語り合う時の声の優しさ。温かさ。そして顔面(まだいう)。美。


笠井宗重:若翔りつ

まともなことをまともに言って怒ってくれる「夢千鳥」の良心、圧倒的な「まっとうな人」感、安心感。え、99期?え??(こんなんばっかりやな??)。

夢二に愛とはなにか、を教えてくれる人。関係性を考慮するならば、教えた相手は「夢二役」だったのだとは思う。その辺の境界性は曖昧だけれど、でも彼以外、これを言える人はいなかったんだろうなぁ、という説得力。夢二とは異なる未来、白澤が赤羽の手を取り歩き出す未来への引導として、その安定感、正しさをにじませた演技は素敵でした。え、99期??嘘だよ絶対(二度目)。


竹久菊蔵:星月梨旺

そこにいる人物としての自然さ、というのを、どの年齢のお役をやっていても果たされている気がする。老け役も若い役も、そういう人がいる、という圧倒的な普遍性。なのに(?)顔がいいので、すぐ「あ、いた」ってなる。

夢二父の名前で書いているけれど、一番印象に残っているのはお葉を訪ねて菊富士ホテルへやってきたシーン。椅子に座っていた姿が妙に綺麗で、スッと目に残ってる。たたずまいの美しさ、違いはなんなんだろうなあ?


竹久松香:有愛きい

夢二のこじらせの発端である、心優しく、朗らかで、懐の大きいお姉さま。彼を愛し、守り、その心を育てて来たんだろうな、という佇まい。そしてなにより声がいい、声が、いい……!正確には声と話し方がとても良かった、です。

このお姉さんが「運命」を教えてしまったから、こじらせ夢二は生まれたとも思うけれど。短いお役だったのに、とても存在感があって終演後もしっかり記憶に残る方でした。


もう幾人か触れたい方がいるんですが、力尽きたので今日はこの辺で(そのうち追記していたらすみません)。


ナマで見ている時と配信で見るときの、最大の違いは「自分の推し定点カメラにならない」ということだとしみじみ感じる昨今。特に宝塚において、その体験を最大にしている気がします。「こんなシーンがあったんだ!」という驚き体験をもってするなどして。それが、今日は特に凄かったなぁ!と振り返っています。

例えば今日、「あ、ここからもう彼女の中では始まっていたんだ!」と感じたのが、1幕2場の港屋のシーン。夢二の姿を見た彦乃の表情を大写しにしたカメラワークに、ありがとうの気持ちでいっぱいです。初見ではひたすら「他万喜、うつくしいなぁあああ」と目が持って行かれてしまっていたので(男子学生たちと心はひとつ)。

そういう小さな驚きがあちこちにありつつも、初見時は夢二・他万喜定点カメラだったわたしの視界は、グッと広がりました。そうなると色んな人の表情にも目が行くようになりまして。「宙組、ちょっと層が厚すぎない??」問題勃発。いや、他の組でも言ってますが、今回、2班に分かれて、誰が誰かわたしのような新参者でも結構わかるレベルに出演者が抑えられていて、それでコレ。おかしい。

あと、カメラアングル。直近でいえば同じ宙組のスヴィッツラハウスと比べても、ぐっと表情にフォーカスが当たっていたような気がします。そして、それがこれだけ多くの人の感情が入り乱れるお芝居において、混乱することなく受け止められた理由なのかな?と(あと、表情とかがよくわかるメイクだった気がするんですが、バウだからとかあるんですかね?)。

もしかして、栗田先生がカメラワークも結構指示なされたのかな。そのくらい、物語に添った、主人公をフィーチャーするだけじゃないカメラワークで、それもまた良かったです。

いまこの瞬間、一番ファンレターをお送りしたい相手は栗田先生です。面白い作品をありがとうございました!ってお礼を20枚くらい便箋につづりたい、のをここに発散させて頂きました。いいものみたな!!