『愛するには短すぎる』がツボ過ぎて背景や未来を勝手に夢想しているという話。

走り書き。
そのうち頭と後半をつけます。

あまりにも『愛するには短すぎる』が刺さって仕方がないので、脳内でひたすら展開されてしまう登場人物についてのあれこれを書きます。演者についてではなく、登場人物について。


■フレッド

一番背景が描かれていて、だからあまり単体で妄想の対象ではない存在。
フレッドの優しさ・鷹揚さは、自分に関心が低いからこそかなぁとも思う。関心を持ついとまがなかった、ともいえるかもしれないけれど。でも自己愛がないわけではないんだよな。

誰にでも発揮されるそれなりの優しさは無関心と紙一重。誰かに踏み込むことを恐れ、踏み込まれることも同時に恐れているのかな、と、思う。優雅な生活が、贅沢に金を使うことが、時に執事を雑に扱うことが当たり前になっていてもなお(もしまだ遠慮があったなら、最低でも執事に対してあんな風に気兼ねない対応をするとは思えない)。

すっかりなじんだ優雅さで過ごしてきたモラトリアム生活の終わりに、ふと差し込んだ懐かしい光。その光のためにすべてを捨てさる判断をしない程度には、自身の責務について理解している。「それが恋だ」とアンソニーは彼に教えたけれど、過去との決別、通過儀礼だったのかもしれない。もう会えない両親の代わりに、かつての恋ともいえない恋との別れ。

この後のフレッドの人生に差す影は少ないだろう。養父の元で仕事を学びつつ、いつかの引き継ぐ日に備える。心に恋したあの人を住まわせながらも、美しい妻との結婚生活も穏やかで順調。いつかの未来、船で出会ったエドワードみたいなラブアフェアもあるかもしれない。その時の相手は、きっとどこかバーバラに似てるんだろうな……

ケッ

とつい舌打ちしたくなるくらいには男のロマンチシズム!を感じさせる人物造形なのに(なんといっても左手薬指に光り続けるあの指輪!最初からそれを捨てる選択肢を一度も持っていなそう!しかもその指輪のついた方の手でバーバラに触れるってところが象徴的)、嫌な男にならないのは彩風さんのご本人の持ち味なんだろうなぁ。だってフレッドは本気で別れを悲しんでいる、彼も辛いんだ、仕方ないんだとなんとなく思わせる。誠実そうな顔をしながら、一番の裏切りを今後も抱えていくくせに。

寝ているところを起こされがちな彩風さんですが(蒼穹の昴、ライラックと寝起き幕開け、CHも香のベッドに寝ぼけてもぐりこんだところでベッドから落とされて目覚める)、たぶんきっと結婚式前夜にも夢見るね、バーバラとの。ケッ。

それはそれとして、たぶん留学時代もこうやってあちこちで関係ない騒動に薄っすら巻き込まれてきたんだろうな。主にアンソニーとか、アンソニーとかのせいで。居合わせちゃうタイミングの人、いるもんな。アンソニーは積極的に巻き込んできていると思うけど。



■アンソニー

ある程度の格と金がある家で生まれ育った三男坊、という印象。
愛情はちゃんと与えられたし、きちんと教育も与えられ、けれど跡継ぎやスペアとしての役目を求められる長男次男ではなく、緩やかに放任された三男枠。末っ子じゃない、たぶん弟か妹はいそう。愛されて育ったが故の自己肯定感と、放任されたが故に知る自由と寂しさを持ち合わせていそう。

上流階級育ちだろうな、と思わせるのは例えば食事のマナー。バーバラが中座しなくては行けなくなった時、そうと訓練されただろうフレッドが立ち上がるのは当然として、アンソニーも当たり前のようにスッと立ち上がって彼女を見送っている辺り。あとスープの楽しみ方ね(笑)
ブランドンがある種寄生しているアンソニーを容認しているのも、そういう背景があるからかなぁと思うなど(「踊り子風情」と、他人を立場階級で区分けしている彼だから、友人関係にも厳しそう。少なくとも一方的に寄生・搾取するばかりの存在だったら、なんとしても排除に走りそう)。
学資は支援されていて、でも無尽蔵に遊ぶ金までは与えられないくらい。または進路について反対され、最低限まで絞られているとかもあるかもなぁ。

ただの貧乏じゃないだろうなと思う理由のもうひとつが、アンソニーが明確に劇作家を目指していること。ドリーのマネージャーのデイブが貧しさを理由に「俺には夢もチャンスもなかった」と語るから。野心ではなく夢を持ち、そのために生きることができるアンソニーは、やっぱりお金持ちな子寄りに見える。

趣味、というより習い性のひとつが人間観察。周囲に常に人が集まるし、賑やかだし、クラスの中心グループにいるし、「アンソニーがいないとはじまらないよ!」って思われていそうで、でも本人はどこか一歩引いた目でその騒ぎを見ていそう。
フレッドとは学校でも絶対グループが違うんだよな。仲良くなったきっかけ話を教えてくれ、ワンセンテンスでいい、勝手に妄想を膨らませますから……
なんかこの人間像、どっか知っているものに重なるなと思っていたのだけれど『A-EN』のアーサーかもしれない。アーサーにとってのヴァイオラが、アンソニーにとってのフレッド(バーバラではない)なのかも。

人を茶化すけど傷つけない、無神経な言葉は決して発さない。万が一にも相手を傷つける時には、それ以上に大きな傷をつけないためのものでしかない。
どこまでも相手の感情を慮り計算して生きているアンソニーが、唯一その言葉をデコレーションせずに放り投げるの、フレッドだけよね。でもフレッドにナンシーを思い出させるかのように名を繰り返すのも、結局はフレッドのことを思ってなのだろうから、うーん。大変な気遣い屋さんだと思われるが、他人からはそう思われていなそう。

船を降りてからのアンソニーに、早々にエージェントから声がかかることはない気がする。モラトリアムは継続し、いつまでもフレッドにとっての自由の象徴。仲間を集めてフィルムを撮ってみたりして、でもどうにもならなくってフレッドに泣きついてみたり。でもその泣きつくタイミングも、なんやかんやでフレッドがどうにも行き詰った時のガス抜きになりえるような、そんな空気読みまくりは継続していそう。

ファン歴が浅いので観劇出来ていない『20世紀号に乗って』のエピソードは、GRAPHからの文字情報でしか知ることができない。面白い役なのにそういう部分が自分にまったくないと思い悩んで焦って、号泣したという朝美さんの実際の様子は知らない。
でもこの舞台での朝美さんは、ずっと軽やかに舞台の空気を楽しく緩ませていて、りんきらさんと一緒に客席からの自然な笑いを引き出していて、すっかりコメディ上手な印象で(でも過剰に「面白い」に振っている訳ではない点も同様)。ミックや総太郎も好きだったけれど、本当にこのお役の朝美さんが見られて良かったなぁ……としみじみしてしまうなどしました。



■バーバラ

彼女の人生を考えると、なんともしんどい気持ちになる。
病気の母の側にいてあげたい、って、どこまで本音なんだろう。何か「仕方がない」と誰しもが思えることを理由にして、今目の前のもの(女優への夢)を諦めようとしているようにも見えてしまう。
彼女の美しさ、能力を褒める男性たちはいる。真ん中を与えられているし、フランクも彼女の才能を前提に金を貸した(投資)のだろうと思う。けれど、彼女が目指す未来からは遠く離れた、「この程度の場所の真ん中に相応しい」と低く見積もられた見方だったんじゃないかな、とも思う。フレッドにとってはした金程度の金額で、フランクがどうこうできると思われる程度には。

アンソニーが彼女を褒めたたえた時に、「そこまで言ってくれた人は初めて」と応えているのがしみじみと切ない。彼女の舞台人としての才能(華とか)を真正面から認め、評価し、もっと上に引き上げたいと言葉にした最初の人がアンソニーが初だったってことでしょう? もう少し早くアンソニーと出会えていたら、彼女を大きく肯定する人がいたら、その選択は違うものになっていたんじゃないかな。

フランクが提示した未来(NYで母も一緒に面倒を見る)を否定するのが本当に母のためなのかがわからないなぁ、と思うくらいには、ちょっと後ろ向きな気配を感じる。そもそもフランクがそこまで嫌だったなら、最初から彼に金を借りないだろう。そこまで子どもじゃないと思うし、彼が「利用しなかったとは言わせないぞ」というのも当然だと思うの。

バーバラはフレッドと恋をしたけれど、その恋は「幸せに、好きなことを夢見るだけでいられたあの日が続いていたなら」という仮定の未来のひとつを手にしただけに見える。フレッドもそうだったけれど、彼女もある意味過去の中にしかこの恋は存在し得ない。ナンシーとの未来を捨てさせるだけの価値を自分に認めておらず、だからきっと最初から想像していない。諦めることはとっくに彼女の習い性で、相手の幸せは自分と歩む道の先にないとすぐに考えることができ、たった4日間での別れを選べたんだと思う。

船を降りた彼女は、どうやって生きていくんだろうな。
地元のドライブインでバイトしながら、時折パブとかで歌いながら、母を看病しながら送る静かな生活。ある日、店の新聞でフレッドの結婚式の写真とか見ちゃう。で、その日だけはほんの少し涙して。

でもたぶん直後にアンソニーがやってくるんじゃないかな。そんな気がするんだが?一度でも気にかけた人が傷ついているのを、アンソニーが放っておくと思えないんだが??
くだらない話をして、結婚式の話もちょっとして、「ある時払い」のほんの少しの金を預かって。また来るね、って去っていきそう。そしてその金にさらに少しだけお金をのせてからフレッドに「元気だったよ」って返しに行きそう。そうやって薄っすらとアンソニーとつながり、時に強引に引っ張り出されたりして過ごしていたらいい。
で、アンソニーの優しさが少しずつ染みて行って、子どもの頃の夢の延長ではない、大人の新たな出会いとして彼を認識して。そんで借金を返し終えた頃にでも二人で幸せになればいいけど、アンソニーが「親友が生涯一度きりの恋をささげた女」と認識しちゃっている以上、もう彼からは踏み込んでこなさそうだもんな、難しい。よし、バーバラから踏み込もう!!

あまりにもこの作品にハマりすぎて、とりあえず2006年星組版のルサンクを買い求めたんですが、夢白さん、白羽ゆりさんのバーバラに激似!舞台メイクを寄せたのかもしれないけれど、それにしても似ている。
男にとってある意味で都合の良いファムファタル役で、でも夢白さんのお役はその理由、その背景に彼女自身の人生の挫折を感じさせて良かったです。そこを狙っていたかはわからないけれど。



■ブランドン

これ、役の話じゃなくて中の人の話なんですけど。
初回観劇時にブランドンさんが盛大に噛んで、クスクス笑いが起きているのを見ながらああ、噛むことあるんだーって思ったのと同じ場所で、別の観劇回でも噛んでいなさることに気づいたときの衝撃。フレッドが「なな、なにも泣くことないじゃないか!」というのは、お芝居のキャラクター表現としての「噛み」なんだろうなってわかるけれど(その表現されたキャラクターが可愛さとおかしみになっていて好き)、りんきらさんのはマジでナチュラルが過ぎて、本気でビックリした。

間とか、軽妙さとか、「本人はいたって真面目なのに、その真面目さがおかしみを生む」の象徴みたいなブランドンさんのお役を演じるに当たって、そうか、これが正塚専科といわれるりんきらさんが登用されるお役なのか……となりました。

堅物、真面目、どこか狸、たぶんお調子者。大切なのはウォーバスク家と主人、そして家の未来を託すに相応しいと主人が見極めたフレッド。今後もフレッドに近づく甘い誘惑を一刀両断にしたり、慇懃無礼に交わしたりし続けるんだろうか。するんだろうな、時にフレッドに邪険にされながらもずっとそばにいてほしいもんな。で、アンソニーのことを軽く邪険にしていてくれ。



■オコーナー

ナウオンで正塚先生が「二枚目でエエ」って言った話が大変に納得感(笑)
ド真面目に立場に応じた振る舞いをしているからこそ、周囲にそれを利用されてきたんだろうなぁって(本人も当然利用しているだろうけれど)。

057号室でのドリーとの大騒ぎの際、意外と冷静にドリーの演技力について判じているのが面白かった。彼女の仕掛けに乗る程度には彼女の顔面スタイルを認めていて、でもせいぜい舞台に端役程度以上で立たせるつもりがないっていうプロデューサーとしての見る目。二人で過ごす時間の中で、舞台に立ちたい→ちょっと演技してみて→ダメだこりゃ!があったのかな。

でもだったらあの大騒ぎでさっさと「狂言だよ、まったく!」くらいのことを判じそうなものなのにただ慌てるばかりで、鵜の目鷹の目(笑)のショービズ界で名の知れた存在のわりに、その間抜けさがかわいくて憎まれ難そうでいいですね!(ちなみに脳内比較対象は、ワンスのダークなカリさまです。サクッとキッパリ簡単に切り捨てそう) 

でもたぶん、ショービズ本当に愛しているんだろうなって感じさせる空気感がいいです。船の上でフランク一座のアクトを実に満足げに見ている姿がとても良い。で、ドリーをヒロインにしなくては!となった後に、これにはサポートが必要だ、それにはあのショーのメインを張っていたバーバラが!と思わず声をかけるくらいには、楽しく興味深く見ていたんだろうな。

直近の舞台で興行の成功率と自分への評価ががダダ下がるであろう困難を抱えているけれど、頑張れ、オコーナーさん!!




たぶんそのうち、フランク、ドリーあたりについては書き足す。まだ脳内であの人たちはこの先どうやって生きるのかなー、って思っているので。