観劇感想メモ:『フランケンシュタイン-cry for the moon』

2022年初観劇は、色々あってこちらになりました。
悲しくも予定外に予定が飛んでしまったので、浮いたお金と時間でこちら公演の追いチケをするなどいたしました、うう。でもいいお舞台だったからラッキーなんだ、きっと。
それはそれとして、初見感想(主にキャスト関連)をペロッと書いておいておきます。

……と書きあげたところで、なんとなくいろんな理由でアップをせずにおりました。他記事に紛れてサクッと出します。


元々薄っすらと知っている古典モチーフの作品ですし、設定説明に多くを要しない、という意味でも分かりやすい作品でした。テーマもある意味単純明快。いろんな演者が違う立場と思惑を持って同じ言葉をリフレインさせていく辺りも、明快でわかりやすかったように思います。それに、解釈に必要な要素は大体セリフで語ってくれている。

1幕2時間(含むカテコ)でしたが、長く感じませんでした。中だるみを感じるシーンもなし。誰が出ている場面であっても、間が持たないということがない。テンポうんぬんが理由ではなく、物語の筋に十分な要素で構成されているからなんだろうな。

ステージセットはあまり大きく変えることなく、階段と樹木。そこに机・テーブルとついたて、ベンチ以外は持ち道具が入れ替わるくらいの変化。それでも後方のスクリーンに映像を投影し、場面が変化していることを十分に表現なされていたと思います。

縦に長いキャパ約1000、こめかみ部のマイクで音を拾いつつも、わりと地の声も届いてくるのも楽しませていただきました(ちなみに12列目でした)。滑舌のよい方が多くて、ストレス少ないお芝居でした。



<キャスト感想>

☆怪物:七海ひろき

ご卒業後にヅカ沼にジョインしたのもあり、完全に初見だったのですが、めっちゃ好みの演技をなさるお方と知りました……!

アガサとの交流を通じ、語彙や知識が増えていくのみならず、表情にも変化が表れていく様子であったり、目への光の入れ方さえも計算されている感じであったり、期待や諦めの感情をセリフにのせられている様であったり、を、ひたすら物語とともに堪能させて頂きました。

「化け物」というあり方、露出した右腕以外から客席距離では見た目で分かりにくく、キラキラとした衣装メイクこそしてないものの根本的に美しい人であるところを覆い隠せてはいない。なので、正直周囲の反応から探っていかねばならない感があるのだけれど、でも、特に冒頭、声と姿勢で明確に表現なさっていた感。というか、あんなに潰した声を出されていて、喉を傷めないんだろうか……。あの声があってこそ化け物感を感じることができたけれど、でもこの演技を続けるのは相当負担なのでは?!などと勝手に心配してしまいました。

冒頭のアガサとの出会い、チーズを奪って顔をしかめる際の表情が本能的(野性的)。野良猫みたいだなぁ、などと思わされる。これに対し、後半の悲しみ、喜び、孤独など、実に人間らしい感情を表す際の表情表現で、脳だけでなく心や情緒が成長していった様子を伝えてくる。

あんなにも悪意に晒され、庇護するものもなく生きてきた野生の動物が、急速に社会的存在になっていく過程。受け入れられないことに対する悲しみ。そしてなによりも欲していた存在を得ての変化が、言葉の流暢さだけでなく歩き方や姿勢に至るにまで見えるようで、時間の経過を感じさせてくれました。


★アガサ/女怪物:彩凪翔

くっっっそ!かわいい!!

女怪物を演じている時に男役の彩凪さんを想起させる凄みを見せつつ、でもやっぱりアガサは大変に可愛い。

家族を愛し愛される純粋さと、目が見えないことによる様々なことへの諦念が、ごくごく自然に同居している感じ。手を引かれるばかりの自分が、けれど裸足さん(仮)に対してはできることがある、というところから始まる二人の関係は、そこに愛が生まれても不自然さはないよなー、って思わされました。

ざっくばらんな口調で、「女の子」らしさはなくて、でもどこからどうみても可愛い女の子。そうなんだよな、この人、美しくて愛らしい女性なんだよな……と、本筋と関係ないことをつい考えるなどしてしまう場面もありました。だってアガサがかわいいからさ……。でも女怪物も好きだな……。


☆ビクター・フランケンシュタイン:岐洲匠

幕開けから怒涛の一人芝居、作品世界を印象付ける存在。で、その10分間を長いとは思わせなかったのがすごいなぁと思う。戦隊ヒーロー出身、と知ってなるほど納得感もあり。特に冒頭のそのシーンは、表情のつくり方やセリフ回しがそんな感じがあったので。

感情を昂らせたお芝居が、そんなマッドサイエンティストな場面とそれ以外で明確に異なっていて、どちらも彼(ビクター)の本質なんだな、ときちんと受け止められる感じ。怪物に名を付けなかった理由を、セリフだけでなくきちんとその後のシーンの性格表現でああわかるなー、と思わせられた感じ。なので、ちゃんとラストのシーンの行動も考え方にも納得が行くなぁ、ってなりました。


★リズ:横山結衣

メインも脇も舞台を戦場にする人たちだらけの中で、よく頑張ってらしたなぁという印象。メインのお役となるリズのキャラクターは、アイドルとして生きる中では表に出すことがない面だろうに。いい意味で「女って怖いね……」ってなる。透明感のある愛くるしいお顔と、その裏でズルくて自分の欲望のために生きて人をだますことを悪と思わぬ女としての存在感は、純粋でまっすぐな裸足さんやアガサとの対比存在としてガッツリ立っていらっしゃった。

一方、このお芝居が演者を非常に絞っていて複数のお役を演じる必要があり、ちょっとそこは荷が重かったのでは……と思うことも。リズ自体が大きく異なる二面性を持つお役なので、余計に。見ながら、「ん?フラメンコダンサーとリズは別人?」「あ、サフィか、コレ」などとストーリーと関係のないところで引っかかってしまうことがしばしばあって、もったいなかった気がします。


☆ウィル:佐藤信長

いくつか演じていらしたけれど、主にウィルについて。

ウィルのシーンになると、自然と客席から笑いが起こる感じ。それも、明るい優しい笑い。

ビクターは弟を可哀そうに思っているけれど、ウィル自体は自分を可哀そうだなんて思っていなさそう。それでも学校に行きたい、働きたいという言葉への反応は、そのあとの怪物との出会いで見えてくる友人が欲しい、ということにあったのかなぁと思わせるような作り方。

時代背景を無視して現代の目線から見てしまうと、ウィルという存在は社会からそんなにも受け入れられないのか、としんどくなってしまう。ビクターも、弟だからこそ愛し、でも本質的には受け入れていないから怪物を作ったんだろうから。一方でアガサが、盲目という身体的なハンデを背負いながらも、家族にまるっと愛されている感じと比せば、その差は歴然すぎて。

でもウィル自身には可哀そうという言葉を使いたくならない。そんな空気感をまとって演じていらしたようで、現代的ポリコレ棒叩きが発動しにくくなる感じが何よりも良かったです。かわいいんだよ、ウィル。素直に笑いたくなるくらいには。


★他のみなさま、まとめて

蒼木陣さん。
ふっとぶ場面の吹っ飛びぶりが見事で、終わってからプロフを確認。なるほどー! 人前では清廉潔白な好人物を演じつつリズに利用される小悪党判事、好きです。

北山由海さん。
あ、舞台の人だ、とすぐにわかる空気感と発声。この方の演技があってこそ、破綻なくいい舞台になるのがわかる。ウィルとのやり取りのコミカルさと、最後に追い込まれる場面の切なさ苦しさ。出番は決して多くはないと思うのですが、印象深い役者さん。

永田耕一さん。
この舞台を少人数が演じるもの、と感じさせなかった一番の立役者の方だなぁとしみじみ思う方。永田さんのおじいちゃんのお芝居に泣かされた。


以上です!