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雪組公演『夢介千両みやげ』観劇メモ

(終わってしまって寂しい!でも楽しかった!でも寂しい!とご機嫌に書いていたのですが、この後、アップする前に朝月さんの退団のニュースを知り、あげ損ねていたものです。そのため、テンションが現在の心境にそぐいませんが、その時の感想として残します)


各組に複数人の推しをつくることで観劇をより楽しんでいるわたくしですが、現在、全体の最推し(あるいは贔屓)の朝美絢さんがいる組に、宙組での推しであり、全体的に見ても二番目に推しであるところの和希そらさんが合流してしまい、頭がパァン!となっている昨今です。こんにちは。

人間にはなんで目が二個ついてるのに、別々に見ることができないんでしょうねぇ?!あとレコード機能がいい加減欲しいです。自分が見たいところに自動ズームする機能も。それができるんなら、コンタクトという名の異物を目に入れることもやぶさかではない。



さて、とりあえず夢介。
終わってしまいました、……寂しい。
ラストスパートのタイミングにFLY WITH MEがインしてきたことにより、わぁわぁしている間に終わった感がなきにしもあらずですが、いや、一気にロスなるからやめよ??こういう日程やめてくれ??ときっと多くの人が思うよな気がします。やめよ?


「泣かせる小説なら造作なく書ける」とは山本周五郎の言ですが、事実、人の死だったり別れだったり、多数にとっての泣きポイントは共通してあって、だからこそカタルシスを得やすいと思っています。愛憎劇もわかりやすい。対して、笑いというのは結構難しいよなぁ。そういう意味で、夢介は刺さらない人には刺さらなかっただろうなと思うし、でもわたしはとても楽しく見られました。とっても娯楽。

いわゆる大衆娯楽小説だから、人物も物語も設定こそが面白い。「なぜそうせねばならないのか」などを深読みする必要はほとんどない。原作にあるそんなあり方を、さらに研ぎ澄ませたかのような舞台で、短くギュッとまとめた分を演出で分かりやすくしていて、ああ、面白いなぁ!ってなりました。

例えばお銀の恋。原作ではそこに至るまでの道筋がきちんと描かれている。一緒に泊まるところから始まるお銀の仕掛け。高いびきをかいて寝ている夢介を置いて先に逃げ出し、斎藤に捕まった後、夢介&斎藤との丁々発止。一度は見事100両をだまし取り逃げおおせたものの、自分を相手に手を出そうとしない昨夜のことを含め、どうにも相手の様子が気になって戻る。結果、騙したつもりで、実は夢介はすべてを見抜いていたことを見せつけられる。バカだ、間抜けだと見くびっていた男の予想外の一面と、そして自分になびかないところが気になり、一緒に行くことを一方的に決める。それからも世話を焼きながらなんとか自分に落としてやろうと画策するものの、一向になびかない。毎晩いびきの番をするばかり。以前の自分だったら色仕掛けで無理にも相手を落とすことをしただろうに、それで愛想をつかされたらと思えばできない、というところで、気づけばすっかり自分が夢中になり、夢介との将来を夢見るようになる、という流れ。

これをギュッと濃縮し、わかりやすい効果音と歌で「ああ、惚れちゃったんだね!」と伝えてくる。しかもそのわかりやすさがおかしみにもなっていて、クスっと笑える。本当に大衆娯楽的で、面白い。

からの、舞台にした面白さは「悪役」表現にもとても表れていたように思う。ただただ憎い敵役ではなく、みんなどこか間抜けなかわいらしさをもって描かれている。悪役が登場した際、基本的に憎しみのストレスが生じない。だから最後、成敗されて良かったね、ではなく、「これからは真人間になれよ~」と応援したくなる。そんなマスコットキャラみのあるデフォルメのされ方が実に好きでした。

引っかかるところはなくはないのだけれど(例えば夢さんの三太への説教。総太郎の改心のきっかけ、など)、でもなんというか、演者の皆さんの演技力と熱量、勢いで流せる程度の引っかかりだったので、まぁ、いっか!娯楽だし!となりました。


<夢介 キャスト別感想>

☆夢介/彩風咲奈

大変失礼ながら、わたしは彩風さんに「まず、ダンスの人」という印象を強く持っていて。ショースターなのだとずっと思っていて。それが夢介でいい意味でひっくり返されました。「この人スゲー」と、小学生以下の感想ですが。

圧倒的なスタイルの良さを、「牛のように」だの「山出し」だのと言われて「どこが?」と思わせない演技と技術。それでいて、夢介が持つ懐の大きさや優しさが次々と女を惚れさせていく説得力。いろんな経験をしてきて、「男なんて」と思っていそうな玄人女たちこそが、そこに陥落していくのは無理もないよなぁ、と、しみじみでした。ご本人の持つ魅力が、夢介にすごく合致していたように思います。

あと、前作まで声で時にひっかかることがあったのですが(ドスをきかせた感じの声表現をされる際の演技が、あまり自分の好みではなかったので……)、今作はなまり言葉も可愛らしくて、あんなになまっているのに聞き取りやすく、切り替わったモードの声も耳に心地よく、で驚きでした。
いやぁ、かわいかった、夢さん……。声繋がりで、開幕前のごあいさつがいつもより柔らかく感じて、しかもめちゃくちゃ可愛かった。なんですかね、アレ。ズルくないですか。

夢さんの道楽旅はいわば世直し旅みたいなもの。「牛みたいにヌボーッと」している夢さんは、実際にはものすごく見ているし、考えていそうに思える。一見するとお金バラまきおじさん的行動に見えるのだけれど、「生きた金」の使い方が明確。金を渡してその人がどう変わるか、見越しているっぽい。ちょっとしたお礼なんかを別にすれば、金がないために悪に走った人、根っからの悪人以外にだけ直接金を渡している(総太郎に金を使わされているのは別)(あれは別のルートで改心しているから……)。

ということを、一つ目御前との最後の乱闘で、三太に「いつものように金を払って」と言われてキッパリ断るその時まで気づかせない。そして始まる乱闘の瞬間、これまでのヌボーッとした様子を捨て、目も声も変わる。

あの変化する瞬間、急に夢介が得体のしれない存在になるところ含めて、彩風さんの表現が凄く好きです。一回見て、すぐにおかわりをしてその変貌ぶりを確認したくなる、そんなお芝居でした。あと3人の女たちの夢想の中の夢介うじが凄まじく色男に見えている感じ、を、立ち姿ひとつで思わせるのも凄いなぁ……。

あとお団子食べる演技が良すぎの介。あんなにモグモグ美味しそうに食べるの、お亀ともども可愛すぎ大賞。


★お銀/朝月希和

あのお化粧をしていてなお、クルクルかわる表情がかわいくて、我、お銀ちゃん応援隊です!!ってなり申した。

「肩書付き」なんて、確実に宝塚のトップ娘役に適したお役とはいえなそうに思うのだけれど、それでも間違いなくヒロインだった。負けん気が強くて、やきもち焼きで、考えなしに突っ走る鉄火肌。でもかわいい。好きな人のために変わろうと頑張っている女の子は、もうそれだけで応援したくなる可愛さだよね、の概念みたいな朝月お銀でした。

元気で意地っ張りみたいなお役が続き、本来の彼女の持ち味とは違そうだなと思うのですが(fffのロールヘンとか、ベネチアの紋章のリヴィアみたいなお役の方が本人の雰囲気にはあっているイメージ)、着物の着こなしが凄まじく美しく、立ち姿がきれい。江戸住まいの最初の方で来ていた雪輪文様の着物がまたお似合い。粋で素敵なお銀でした。

あと、「キーーーッ!」って文章的な、実際に口にすることのまずないだろう表現をセリフとして感情をのせて伝えるの、大変だっただろうけれどすごく良かった。総じて、この方も役者肌の方なんだな……としみじみさせて頂きました。

☆総太郎/朝美絢

夢介、大爆笑をする演目というより、ずっとクスクスと笑みを浮かべて見ている演目なんだと思うのですが、そのクスクスの多くの部分を朝美総太郎が担っていたように思います。鶴亀ちゃんはオチ担当的なところがあり、最初から笑いどころとして設定されていると思うのですが、総太郎は演じ方によっては全然笑えない、憎まれるお役。でもそれを笑いに変えたのは朝美さんの役作りの在り方も大きそう。

キャラクターとしては、実にクズ。アホボン過ぎて笑ってしまうほどにクズ。若旦那、というよりはバカ旦那。言っていることもやっていることもとにかく「コイツ……」ってなる案件だらけ。通人「気取り」という表現が見事にピッタリ。まっすぐ演じてしまえば、ただただイヤなヤツ。そこを愛嬌のあるクズに仕立てていて、「どーしようもないな!!笑」とあきれ笑われる対象へと持ち込んでいらした。

パパママが甘やかしちゃうの、わかるもの……。愛され育ち、苦労知らずの無神経。「勘当だ!」ってパパに叱られて部屋の布団にこもるの、完全にママがとりなしてくれるの待ちの行動だし。でも顔がいいし、恐らくこんなお馬鹿なところも含めて何人かにはちゃんと惚れられている(そういうお芝居をされている方がいた)のもわかるな、ってキャラとしての説得力が良かったです。

唯一、これはもう台本の問題なんですが、なんで改心場面のセリフは「お糸……」なんですかね!?そこは「お松……」でいいと思うんですけど!ってのと、あくまで総太郎の反省点は「自分の子が死ぬところであったこと」で、お松自身の命についてではない点が「アホボン」で済ましづらいところでした。こればっかりは演技でなんとかできる範疇を超えるので、もう1、2行補ってあげてほしかっただよ。

朝美さんは顔が美しいことが、時に損になっている気がするんですが(本人の努力も成長も演技力も二の次になってしまう感がある気がするので)、でも今回のお役はそれすらも逆手に取っていて良かったなー、と思います。あと初観劇な友人たちが沼への一歩を踏み出すきっかけになっていたので、次もご案内しておきました。
行こうぜ、沼の向こうへ。


★三太/和希そら

三番手になるとこうも目立ついいお役になるのか……!と初見でしみじみとした三太。狂言回し的な位置で、物語に大きく絡んでいる。それに十分見合う力を発揮なすっていて、さすが和希そら、と謎のスタンスで考える。

お銀さんとのやり取りの辺り、17歳設定よりも下に見える感じの役作りで、「比丘尼宿」なんて言ってても大人ぶってるだけ感がありましたが、でも考えてみたらお銀さんって「おしめを替えてやった」なんて言われちゃう関係なんだもんな。そりゃそうか。って、最後の最後、お糸ちゃんと二人でのいちゃこらを見たところでなるほど納得、となりました。意識して作られたものなのか、わたしが勝手に「なるほど」していただけかはわかりませんが、対人の関係性が浮かんで見えるお芝居だなぁ、などと。そういえば『夢千鳥』の時もそんなことを思ったのを思い出します。

お芝居がメインの演目を観る際、セリフの耳への届き方を割と重要視しているらしい自分。そういう意味で前トップ・望海さん時代の雪組は真ん中と別格的脇を固める方が耳に聞きやすく、すごくストレスフリーで好きでした。で、和希さんが加わった現在の雪組も好きです。さきあさそらの並び、見てて気持ちがいい。

ようこそ雪組へ!(でもハイローで活躍する和希さんも見たかった!)


☆悪七(七五郎)/綾凰華

私が実際にナマで拝見できた綾さんのお芝居は『fff』以降なので余計なのでしょうが、「良心」的な位置のお役を演じられているイメージが強くて。悪七、と呼ばれるようなお役のイメージがなさ過ぎて。でも蓋を開けてみれば、ああ、なるほど、となるお役でした。

綾さんの、優しさ、温かさを感じさせる表情のつくり方が本当に好きでした。女性性につながってしまうそれらの表現を持ったまま、それでも男役として立たれていることに疑問を持たせない佇まいが好きでした。そういう意味で悪七は、チンケなチンピラのコミカルかわいらしさと「悪」の色気のある感じを併せ持っていて、改心後のお姿含めて綾さんならではだったのだろうな、と思います。

ショーでのギラギラした感じとは別に、綾さんの他の路線男役さんとは違って見える、やわらかさやノーブルさを感じさせるお芝居での佇まいは、「綾さんだけの特別なもの」として拝見していたように思います。もっといろんなお役を観たかったけれど、でも宝塚を観ていて良かったな、と思える方のおひとりだったので、しみじみと悪七というお役を演じられるところを観られて良かったです。


★金の字/縣千(ついでに新公夢介)

立ち姿だけで圧倒的なスター性。思わず笑ってしまうほど、男役として華がある。金の字は演技というより本人のキャラクター性に寄せたお役だったと思うのだけれど、最後に締める(美味しいところを持っていく)説得力があるのはさすがだなあ!!となりました。カッコいいお役を当てたくなるの、わかりますもん。

新公での夢さんは、そういう意味でちょっと「カッコいい」が抜け切れていない風に感じたところがあったのだけれど、でもなんといっても「新人」なんだもんな。その経験のためにこそ、この場があるんだよなって思うなど。『CITY HUNTER』の時よりもお歌も堂々と歌っていらして、見た目や華やかさの先にグッと進まれた感が、本当にスターだなぁと思いました。

あと、新公の際、首をくくろうとしていたお松を助けた後。草履を履かせながら、自然とはだけていた裾をそっと直している場面があって、それが凄い心に残りました。ただ与えられた演技をするだけでなく、そこの場にあった振る舞いで出てきたその動作が、夢さんとして今生きていらっしゃるんだな、と思えたから(似たような感想を、月組新公の真弘蓮さんでも思ったのでした、そういえば)。

一作ごとにお芝居で成長を見せていらっしゃる縣さん。次、の大劇場は専科さんが多いからそこまで大きなお役にはならないのかな……。でもたくさんの学びを経て、また「すげーなあがちん」って思わせられるのが楽しみです。


☆一つ目の御前/真那春人

わたし、まなはるさんのお芝居が凄く好きで……。
正確にはまなはるさん、久城さん、あと今回から桜路さんのお芝居が好きになりました。いや、そんなん書くまでもなくみんな好きだよな、雪担(主語が大きい)。

総太郎同様、一つ目の御前の一行は、悪に振り切ってカッコ良く演じられる目があったし、そうすれば全然可愛げのない悪役でしかない。けど、こんなにもコミカルかわいいお役にしてなさる。動きも、セリフのいいかたも、声も、なにもかもにおかしみがある。この作品のコメディ部分を担保したおひとりだとしみじみ思う。

五明楼での猿芝居、演技が達者な人がやる「下手なお芝居」からしか得られない栄養素は確実にある……。それでいて夢介うじがガチモードになった時には、きちんと悪人の顔をなさる。そうだからこそ、部下がついてくるんだろうな。やる時にはやる。たとえ負けて最後に愉快な姿になろうとも。そして誰よりも率先して踊っているのに、部下たちが「お手を拝借」されて急に我に返る感じもまたかわいい。

八丈島あたりに流されるのかな……みんなで密造で焼酎でも作って毎夜酒盛りしながら楽しく暮らしていてくれ。
というような余白を感じさせるお芝居を観られて本当にありがたい。好きです。



このままだと役名付いている方全員にふれるペースになってしまうので、この辺でやめます。いや、片っ端から触れたいくらいの魅力でございました、本当に好き。

長くなりすぎたので、センセは別記事で書きます、たぶん。きっと。

追記:今回、他組担から「あの人だれ?」ってお芝居で一番問い合わせがあったのは、CHに続いて星加梨杏さんでした。あとは新公で一禾あおくん。