「奴隷の騎士」

こんばんは。numaです。

連投失礼いたします。

今回の記事ではファンタジー超大作を書いてみました。

お時間ある方は是非ご一読ください。


「奴隷の騎士」

 今からずっと昔のこと、世界中で国同士の戦乱が繰り広げられていた時代。その時代の戦士たちは「騎士」と呼ばれていた。騎士とは、騎乗して闘う者のことである。騎乗する対象の動物は様々で、何に騎乗するかによって、その騎士の身分が決まっていた。
 最も階級が高い騎士は竜騎士。次に黒馬の騎士、その下に白馬の騎士、そして茶馬の騎士と続く。その他には狼の騎士、猛犬の騎士、大狐の騎士、大ガマの騎士、なども存在し、さらに身分が低くなると、牛の騎士や豚の騎士、羊の騎士などがいた。
 そんな騎士たちの中で、最も身分が低いとされていたのが、奴隷の騎士である。彼らは、人間の奴隷に騎乗し闘う戦士だった。他の動物に比べ身体的能力が低い人間に騎乗して戦う彼らが、大きな戦果を挙げられるはずもなく、国同士の争いの際には単なる数合わせくらいにしか思われていなかった。
 グラン公国には、この奴隷の騎士たちが計2000人暮らしていた。彼らは集団で村を形成し、戦がない時はその村で鍛錬を怠らずに行っていた。しかし、いくら鍛錬を積んだところで、他の騎士たちには敵わない。それは村の全員が感じている現実であった。
 ある時、グラン公国は隣国との大きな戦を行うことになった。当日は国中から騎士たちが集められる。もちろん、奴隷の騎士たちにも声がかかった。召集されたのは500人。奴隷も含めると1000人の人間が戦に赴くことになった。
 戦当日、村長と共に1000人の村人が戦地に到着した。しかし、戦闘準備を開始した段階で、明らかにおかしなことが起きた。500ペアのうち150ペアで、奴隷と騎士の立場が交換されていたのである。今まで騎士として奴隷に騎乗していたはずの戦士が、どういうわけか騎乗される側に回っている。
「おい! お前たち! 何をやって…」
「開戦じゃー!!」
 村長の言葉も虚しく、その状態で戦が始まってしまった。村長は思った。「奴隷たちの反乱だ」と。そういえば最近、奴隷たちが集まって何かを相談しているような様子を見たことがある。管理を怠った、と、村長は自分を責めるしかできなかった。
 戦はそのまま進行していく。例によって奴隷の騎士たちは盾役として、戦の前線に立ち、敵軍に突っ込んでいく。いつもここで敵軍の奴隷の騎士と潰し合い、ほとんどの騎士が命を落とすことになる。
 しかし、ここでまたおかしなことが起きた。なぜかグラン公国の奴隷の騎士たちが圧倒的に強いのである。バンバンと相手の奴隷の騎士を斬り倒していく。そして、その圧倒的強さを誇る騎士たちは、先ほど奴隷と騎士の立場を交換した者たちであることに、村長は気づいた。
 その後、戦の終わりまで奴隷の騎士の活躍が途切れることはなく、戦に勝利。なんと、500ペア中300ペアが生き残るという、今までならあり得ないことが起こった。しかも、今回の戦では、奴隷の騎士が敵軍大将の首を落とすという戦果をあげ、竜騎士以上の活躍を見せのである。
 村に帰り、村長はすぐにその600人を集めた。
「戦果をあげたことは褒める。だが一体どういうことだ! なぜ奴隷たちが騎士になっている!」
「……」
「いくら戦果をあげたからと言って、奴隷の反乱は許せるものではない! お前たちには相応の処分を……」
「違うんです! 村長様!」
 騎士と奴隷の立場を交換し、今回の戦で奴隷役をしていた男が発言した。
「何が違うというんだ?」
「私たちが望んでこういう形を取ったんです」
「なぜそんなことを?」
「性癖です」
「せ……は?」
「私はドMなんです」
「お前は一体何を言ってるんだ?」
「ずっと羨ましかったんです、奴隷たちが。戦場で首輪をつけられ、重い人間を背中に乗せて戦う。Mからしたら最高の仕打ちです! だから奴隷に命令したんです。立場を交換しようって」
「私たちもです」
「僕たちもです」
 1人の戦士の告白がきっかけとなり、その後もどんどんドMを自称する者たちが現れた。
「なんと情けない……お前たちはそれでも戦士か!」
「いえ! 今日からは戦士ではありません! 私たちが奴隷です!」
「なんと……」
「実際の戦果を見てください。私たちは恐ろしいまでの活躍を見せました。ひとえに性癖の力です。実は私と立場を交換した奴隷も、性癖はドSでした。ドMの私は相手の攻撃に怯むことなく前進し、ドSの彼は、相手を斬り倒すことに快感を感じます。今回の形が、我々にとって1番適材適所だったんです」
「しかし、奴隷と騎士の立場を崩すというのは……」
「我々は最下層の存在として、グラン公国で虐げられてきました。ドMの私にとってはそれもある意味恍惚ですが、この村の一員としては、やはりもっと認められたいという思いがあります。適材適所で戦えば、今日のような戦果をあげることができる。そうすれば私たちは認められ、身分も向上するかもしれません」
「……うむ」
 村長はその場で立ち尽くし、じっと目を瞑ったまましばらく沈黙した。そして沈黙の後、パッと目を開いた村長は大きな声で叫んだ。
「村人を全員集めよ! 今からMの選別を行う!!」
 その日から、グラン公国の奴隷の騎士たちは、他国が恐れる地獄の騎士との異名を持つ戦士となった。めでたしめでたし。

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