『ペンタゴン・ペーパーズ』の豪華キャスト
スティーブン・スピルバーグ監督の新作『ペンタゴン・ペーパーズ』は立法府の信頼が揺らぐ日米にとってクリティカルな内容だが、この作品を支えるキャストをみて、良い意味で露骨すぎて苦笑してしまう人もいたのではないだろうか。どうみても近年のドラマで活躍した俳優を集めているのである。
ボブ・オデンカーク
キャストをみてドラマ通がまず反応するのはこの人であろう。2008年から2013年まで放映された傑作『ブレイキング・バッド』で小賢しい悪徳弁護士ソウル・グッドマンを演じた彼は、そのスピンオフ『ベター・コール・ソウル』で主演を務めている。
ソウル・グッドマンになる前、ジミー・マクギルを描くこのシリーズは軽い作風かと思いきや、過去を払拭したいジミーと兄チャックの確執、気の合う同僚キム・ウェクスラーとの苦い恋もある渋いドラマだ。遂に「ソウル・グッドマン」の由来が明らかになるシーズン3は、その重苦しさから胃を痛める視聴者が続出したほど。この作品での演技が評価され、ボブ・オデンカークはエミー賞やゴールデングローブ賞の常連となっている。
ジェシー・プレモンス
馴染みのない人は「マット・デイモンに似ている俳優」で覚えられてるジェシー・プレモンスは、ボブ・オデンカークとともに『ブレイキング・バッド』に出演して知名度をあげた。シリーズ後半での登場ながら強烈な印象を残した彼は、後にノア・ホーリーに抜擢されて怪物級の出来映えである『ファーゴ』シーズン2の主役になり、共演のキルスティン・ダンストと"ファーゴ的な"夫婦を演じ、これが縁となってふたりは婚約している。
キャリー・クーン
ドラマを追っているならば、デイモン・リンデロフ×HBOの『LEFTOVERS』が気になっているのではないか。2014年から2017年まで全3シーズンは放映され、批評家から支持を得ながらも賞レースでは無視されていた作品だ。別のエントリで簡単な感想を書いたように、キャリー・クーンとジャスティン・セローの演技は忘れがたい。2017年には『ファーゴ』シーズン3の主役も務め、映画版のフランシス・マクドーマンドと同じ田舎の警官を好演した。
サラ・ポールソン
Netflixへの電撃移籍で話題になったライアン・マーフィー作品のミューズであるサラ・ポールソンの代表作は、なんといっても『アメリカン・クライム・ストーリー／O・J・シンプソン事件』のマーシャ・クラーク役だろう。ロサンゼルスを中心に全米が注目したシンプソン裁判は、社会にとってどんな事件だったのかを抉り出す傑作ドラマは既に多層的だが、サラ・ポールソンは熱意ある検察官と人間の脆さを完璧に表現し、2016年の主演女優賞をほぼ独占した。私自身も、この役はドラマ黄金期のなかでも最高の演技だと思っている。
アリソン・ブリー
『マッドメン』のトゥルーディ役や一部から熱狂的な支持を集める馬のアニメ『ボージャック・ホースマン』のダイアン役で知られるアリソン・ブリーは、Netflixのドラメディ『GLOW』でゴールデングローブ賞コメディ・ミュージカル部門主演女優賞にノミネートされた。落ち目の映画監督のもと女子プロ番組を成功させようと奮闘するこの作品で、売れない女優がプロレスラーの"役作り"をしていくスポ根ドラマと1980年代のステレオタイプを吹き飛ばすキャラクターを快活に演じている。私生活ではデイヴ・フランコとパートナーになり、公私ともに邁進している今後が楽しみな女優だ。
マシュー・リス
2016年の米大統領選挙に伴うロシアゲート事件や、最近の英国スパイ暗殺で思い浮かべるのが彼とケリー・ラッセルだ。2013年から続くポリティカル・スリラー『ジ・アメリカンズ』で、冷戦期に米国に潜入しているソビエトKGBスパイ夫婦を演じる両人は、私生活でもパートナーになっている。
スパイといえばジェームズ・ボンドやイーサン・ハント...ではなく、敵国内での地道な調査や人員の勧誘、仮初めの家族生活が崩れていく悲哀、米ソデタントが進むなかで国の行く末を憂うパトリオットたちを描く、地味だが骨太のドラマだ。
日本では2016年からNetflixで配信され、少しずつファンが増えているこのシリーズは、今月末からはじまるファイナルシーズンが楽しみでならない。
マイケル・スタールバーグ
『シェイプ・オブ・ウォーター』『君の名前で僕を呼んで』など注目作への出演が続くマイケル・スタールバークはドラマでも活躍している。『ファーゴ』シーズン3ではユアン・マグレガーが演じるエミット・スタッシーの右腕サイ・フェルツ役で"ファーゴ的な"災難に苦しめられ、『倒壊する巨塔』ではFBIとCIAの板挟みになる役を演じている。そういえば『シェイプ・オブ・ウォーター』でもマイケル・シャノンとソ連当局に挟まれて苦労していたので、カメレオンのような存在の彼をみかけたら労ってあげるのがいいかもしれない。
なお、紹介した作品のほとんどはNetflixで観賞できる。
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