「響け!ユーフォニアム」が怖くて仕方なかった、あの頃について

「響け!ユーフォニアム」第三期の放送が2024年4月から始まりました。このnoteを執筆しているのはGWに差し掛かろうという頃(私にとってGWとは5月の連休のことです)であり、既に四話が公開されています。

俺も、北宇治が好き

第一話では星野源「恋」の吹奏楽アレンジが新入生勧誘目的に演奏され、日本中で恋ダンスが一大ブームを起こしたあの頃のことを鮮明に思い出していました。
ガッキーが恋ダンスを踊ったあの頃、私は高校生でした。


「響け!ユーフォニアム」の頃

「響け!ユーフォニアム」の第一期〜二期は久美子たちが1年生の頃を描いていました。
その年のコンクールで課題曲に選んだのはⅣ番の「プロヴァンスの風」です。この曲が課題曲に選ばれたのは2015年度であり、ちょうど第一期の放送されていたのもその年でした。
放送タイミングに合った、非常にライブ感のあるアニメだったように思います。

この楽器を「ユーフォニ"ア"ム」ではなく
「ユーフォニ"ウ"ム」と呼んでいた


ちょうどその頃、私は高校ニ年生でした。
私は高校の吹奏楽部に所属し、高坂麗奈と同じトランペットパートを担当していました。
私の高校も課題曲Ⅳ番「プロヴァンスの風」を課題曲に選び、コンクールでの高成績獲得を目標に、日々練習に励んでいました。

私の高校は、全国入賞には程遠いものの、その地域ではそこそこ優秀な成績をおさめており、都道府県大会を突破して地方大会へ進むこともしばしばでした。青春部活モノを観ていると全国に進めない学校など大したことはない印象かもしれませんが、やはり都道府県内でベスト4に入るような高校というのは、その地域においては強豪校の扱いを受けるのです。
そういう高校ですから、部員数もそこそこの数を抱えていました。トランペットパートに関して言えば、各学年に3〜5人程度が所属していました。

久美子たちは生きていた。俺たちも生きていた。

「響け!ユーフォニアム」は、吹奏楽部員だった私に衝撃的なリアリティをぶつけます。
あの、京都を、そのまま切り取ったかのような風景の中に、高校吹奏楽部の世界を立体的に生み出したのです。

特に理由も根拠も覚悟もなく掲げられた目標。
馴れ合う部員たち。
下手な先輩に苛立つ実力のある後輩。
部員同士の諍い。
オーディション。
本番が近づくにつれて加熱していく練習。

当時の自分には、「まさにお前のことだぞ」と言われている気分になる描写ばかりだったように思います。

特に印象的なのはオーディションです。
高校吹奏楽の大編成では、一度に出場できるのは55名までと決まっていました。すなわち、全員で百名の部員を抱えていたとすれば、出場できるのはその半分ということになります。そこで、部員数の多い高校ではオーディションをしてメンバーを決めていくわけです。
野球やサッカーでもポジションの被った先輩後輩の関係性というのは難しいものがあると思いますが、吹奏楽は特にポジション変更が難しい競技のため、オーディションが近づくと部員たちは非常にぴりぴりとした空気を生み出します。

私の場合、ちょうど一年生だった頃に同期入部したトランペット吹きが物凄く上手でした。そして二年生を押しのけてコンクールメンバーに選ばれました。
面白いのは、ユーフォニアム吹きにも上手な同期がいて、一年生の頃からコンクールメンバーとして活躍していました。
まるで久美子と麗奈のようでした。

アニメ放送時期の二年生、その二人は当然のようにコンクールメンバーに選ばれました。

そして私は、選ばれませんでした。

あの時ほど「うまくなりたい」と感じたことは無かった。


うまくなりたい。

くやしい。
くやしいという気持ちで一杯でした。

久美子は私の気持ちを代弁してくれました。

本当に?
久美子が私の気持ちを本当に代弁してくれていたのか、その答えはのちに知ることになります。

そしてトラウマに。

第一期は府大会突破によって締めくくられます。努力はうそをつかないことをこの物語は証明してくれたのです。

一方、私の高校は、その数年間において最も悪い評価を取りました。
大会突破どころか、ダメ金ですらない。銀賞止まりでした。
私は、ステージに立たずして負けたのでした。

私は、久美子たちに嫉妬しました。
自分の立てなかったステージに立ち、そして目標を達成した彼女たちに。

同時に、恐ろしく自分を恥じました。
彼女たちにはあれだけの努力描写があったにも関わらず、同じだけの努力をすることなく嫉妬している自分を。

アニメが私に「お前は馬鹿で愚かで怠惰だ」と宣告しているような気分になりました。
見ていると責められるアニメ。それが「響け!ユーフォニアム」だったのです。

怖い。
見るのが怖い。
責められるのが怖い。

そのアニメはトラウマになったのです。

二期、二年生編、アンサンブル、そして三期へ

でも二期は見ました。しょうがないオタクだもの。
二期も熱い青春モノでしたが、目標の違いにもめることやオーディションによるぎすぎすした描写がないことから、安心してみることができました。

物語のヤマがあすか先輩にクローズアップされたことも救いでした。もちろん彼女の物語は印象的で感動的でした。
しかし、リアリティには欠けます。だって、身の回りにはあれだけハイスペックだけど飄々としていて、たまに暗躍していて、そして突然部活動を辞めちゃう先輩なんていませんでしたから。二期は次第に、ぎすぎすとしたリアルな吹奏楽の現場から、全国大会出場は決まってるんだし、部内のぎすぎすよりもドラマチックな青春を描こうぜって感じに満ちていたような気がします。

物語を批判したいわけじゃありません。
また、久美子たちが本気じゃなかったと言いたいわけでもありません。

ただ、「私の物語」から「久美子たちの物語」へと移った気がしたのです。


銅賞でも笑顔なのが全国大会なのかも

ちなみに二期は高三の秋に視聴しました。
受験生でした。もう吹奏楽部員ではなかったのです。


低音の後輩たちカワヨス


二年生編の映画は大学生の頃に上映されました。
私は医学生で、大学の部活動でトランペットを続けていました。コンクールとかそんなのは無い部活でした。

映画は、連続アニメと比べれば短編だからでしょうか。あまりぎすぎすとした雰囲気は見られなかったように思います。

雨に濡れた久美子が神々しく、うまくなりたいから練習していると言うシーンや、この年の北宇治が地方大会を突破できずに敗れるシーン、そして悔しがる奏を久美子が大人な雰囲気で慰めるシーン。どれも当時の私の心を揺り動かしました。

そうだ、当時の自分はうまくなりたいから(楽しいから)やっていたんだ。
俺も昔はコンクールで敗れた。
それに悔しがる俺もいた(3年生はダメ金で号泣しました)。
でも、今の俺はそんな青春全開高校生を見て慰める立場なんだ。大人として高校生を見守り、時に慰める立場なんだ。

本気で練習しろ。結果を残せ。
そう言われている気がした一期と比べると変化を感じた気がしました。

高校生じゃない。
大人としての楽しもう。
あの日の輝きを思い出しながら。

そんな気持ちになりました。
そして暗い映画館の中で一人涙をこぼしました。

研修医一年目にみました

アンコン編ともなれば、もう彼女たちが可愛くて仕方ありません。
かつての自分の面影をみる少女たちが、必死こいて頑張っているわけですから。
部活のOB・OGの気持ち。あるいは親戚のおじさんの気持ちです。
高校生ってホントおいしそうですよね。

そして同時に、アニオタとして、こんなにも久美子や麗奈や他の部員たちが可愛かったんだということを、数年越しに知ったのです。
萌えです。萌え。
あ、この子達ってアニメキャラなんだ。
そんな気づきがありました。

青春のトラウマは過去になる

「響け!ユーフォニアム」が第一期に放送されて、もう9年目になります。
やっと私は25歳(+数か月)。
私の青春をともに歩み、そして私を社会へと送り出したアニメも三期を迎えます。
ヒヨッコ社会人とは言え、もう大人です。

「響けユーフォニアム」に対する気持ちの変化は、青春をすごしたすべての大人が同様の体験をしているような気がします

なぜあれほどまでに、大会や部活が世界のすべてだったのか。
まったくわからない。
だけどなぜか、そのときのことを思い出すだけで、輝きに満ちたあの頃を思い出す。
そして同様に世界のすべてに対峙する高校生を見て、その輝きを喜ばしく感じる。

そんな面白さが、人生にはあります。

三期も、受験も、社会も、乗り越えろ久美子。

映画とは違い、連続アニメです。全12話くらいあります。
いったいどんなドラマがあるのでしょうか。
もしかしたらぎすぎすした展開があるかもしれません。
トラウマをほじくり返されるかもしれません。
少し心配です。

でも久美子たちなら大丈夫だと思います。
たくましい子たちですから。

いつか、大人になった久美子たちがいたら、今の私のように青春のトラウマに少し心を痛めているかも。でも、青春の輝きを遠い目で見つめているのかも。

そんな久美子と、お酒が飲みたいな、なんて。

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