カニクリームコロッケ

カニクリームコロッケが好きだ。

カニは別に好きではない。
むしろ、カニよりカニカマの方が好きだ。

クリームコロッケも好きという程好きではない。
もし普通のクリームコロッケやコーンクリームコロッケをじゃがいものコロッケと並べられたら、ノータイムで迷うこともなくじゃがいもを選ぶ。

でも、カニクリームコロッケは好きだ。
何故かはまったくわからない。
実家で作ってもらったこともない。
もし仮に「作って」と言ってみたところで、「めんどくさい」の一言で断じられるのがオチだし。

それでも、何故か年に一度のペースで猛烈にカニクリームコロッケが食べたくなる。
作りたくはならない。めんどくさいから。

しかし、冷凍食品のを食べても、スーパーの惣菜コーナーのあげたてのを食べても、この欲は何故か完全には満たされることはなかった。どれもうまいのに。

まるで砂漠で水を求める旅人のような渇望をカニクリームコロッケに抱きながら生活していたある日の事だった。

仕事場の近くに、なんだかいい感じの喫茶店がある。
赤や緑やイエローのクリームソーダ、ハンバーグやエビフライの食品サンプルが店頭に並んでいて、もうそれだけでたまらない。チョークで書かれているメニュー看板には、日替わりランチのおかず欄だけ異様に白く汚れていて、それもまたうずうずとしてしまうような、そういう感じ。

ここのランチは美味しい、と職場の先輩が言っていた。
昼時にやっているお弁当の販売列はいつも長蛇の列で、多分本当に美味しいのだろう。
行ってみたいなぁ、と思いながら結局行くタイミングを掴めずに前を通り過ぎるのみだったのだが、ある日メニューの看板に1枚の張り紙が貼ってあった。
底には赤色のゴシック体で「カニクリームコロッケ」とあった。
いや、ほかにも別のことが書いてあったが、とにかく、「カニクリームコロッケ」の文字と、手書きで付け足された値段だけが私の目に飛び込んできた。
12月に入ったばかりの頃だった。

カニクリームコロッケ、カニクリームコロッケ。
カニの、クリームコロッケ。
カニの、クリームコロッケの、ランチの、セット。
値段は、1000円と、ちょっと。
カニクリームコロッケランチセット!?

私は思わず店の中に飛び込むことはなかっ

ᆢᆢᆢᆢᆢᆢᆢᆢ

とここまで書いて数年経ったが今ではこの店の店員さんにしっかり顔と名前を覚えられるくらいにはになった。

冬限定で食べれるカニクリームコロッケはもちろん美味しく、他のメニューも捨てがたいほど美味い。弁当も、ちょっと値は張るがボリューム満点で、月に何度かのご褒美として愛食させてもらっている。

身バレになるから店の詳細の話はできない。

はやく冬になってほしいと思うこの頃。


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