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「Chat Online」 - 仮想音楽家レジデンス作品

この作品は第二回仮想音楽家レジデンスの講習のために作曲しました。仮想音楽家レジデンスとは、現代音楽作曲家のわたなべゆきこさんが主宰するオンライン講習会で、「オンライン上で奏者とやりとりして作曲すること」を条件に作曲するという主旨のものでした。他にも映像編集の講習会などの様々な講習会もありました。

新型コロナウイルスの影響下で、生演奏や集まりそのものに大きな制限がかけられてる時代、オンライン上で様々な試みが行われております。石川も作曲家として、またこのレジデンスは現代音楽なのでその文脈上で何か実験的な試みができないものかと考えながらこの作品を完成させました。

尺八:黒田鈴尊
箏:木村麻耶

石川はオンライン演奏の可能性を探究すべく、ウェブ会議アプリとして普及している「Zoom.us」で即興セッションなどを何度か行っていました。
その結果、音楽のアンサンブルをする上で致命的な障害といえるものがいくつか発見しました。
ひとつは必ずラグが発生する事。0.2秒程度必ず遅れが生じます。
もう一つは同時発音がほぼ不可能であること。音を大きく発した方が優先される傾向があるため和音を鳴らすというのが厳しい。

上記障害はすなわち、音楽の基礎要素である拍とハーモニーが成立しないことを意味するわけです。

このZoom等会議アプリの特性に対して、たとえば無テンポであること、アンサンブルを試みないことなどの様々なアプローチが考えられますが、
石川は会議アプリの設計思想面から考える試みをしました。
というのもこれら上記障害も会議アプリの本来の目的が音楽演奏ではなく会議が目的だから、と考えられるからです。
逆説的に、会話においては、同時に発音することはありえず、そして多少のラグなどはさほど気にならない特性を持つということが言えます。
なのであえて、「音楽らしさ」を完全にかなぐり捨て、「会話らしい音楽」をしてみるのが良いのではないかという結論となりました。

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発表会ではいくつかのご感想と指摘をいただきました。

評価されたのは「狙い通りに設計されている」ということでした。

指摘は要約すれば「説明的すぎる点」でした。
私の作品「音楽のためのエチュード」を聞いてくださった方より、この抽象性が好きだったので、この「Chat Online」という作品でももっと抽象的にやってもよかったのではないか、この音楽に侵食される内容を、意味のない会話などで行ってもよかったのではないか、という指摘でした。

こちらの指摘は概ね同意です。具象性に走った理由としては、3分で何も起きないのはちょっと・・・みたいな我欲が入ったのと、インターネットのアートの受容をみるに、比較的言葉のキャッチが優位だったりするので、オンラインという時代に合わせようとするとそうなったりするのかな、という普及を視座に置いたアプローチがあったから、というのはあります。(ある意味このレジデンスでアートとは何を求めるのかというのを思い出し直した側面はあります。)

ただこのコンセプトで15分くらい延々と、ぐだぐだ会話して言葉が崩壊していくという方がアートとしては透明性が高く美しいかもしれません。その場合はアルヴィンルシエの「I'm Sitting A Room」みたいなシステマティックな劣化を考えてみたいですね。(この作品はスピーチの録音をひたすら再録音することで劣化させ美しいノイズになっていく作品です。)

そもそもこのコンセプトはもっと多くの広がりが感じられるので、この作品に限らず何か考えてみたいですね。

ともかく、オンラインで音楽を作曲するのは面白いかも!という興味を抱くきっかけとなりいい機会でありました。ありがとうございました。

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