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散歩道

きみと歩く道でわたしは
それまで知らなかった植物のことを知って
風に吹かれ
空を見上げ
鳥の声を聴いて
花を摘んで
そして刺繍をしました


13年と10ヶ月
一緒に暮らした相棒 ドロップとの日々

きみが行こうと誘う
知らない道へ行ってみると
初めて出会う花や
そのあともずっとお気に入りの広場になる空き地を見つけました

季節の折々に
思いがけない拾い物をしたり
それまで気にも留めなかったものの美しさに気づいて
ひとつひとつがわたしの中に薄く積もって
直接刺繍に繋がらなくとも
繍 ぬいとりの世界をつくるおおきな元になってきたことは確かなことです

いろいろないきさつがあってできあがるさまざまなモチーフのなかで
この「散歩道」はそんなわたしとドロップとの日々から生まれたものでした

春の芽吹きの淡い黄緑や
雨上がりのきらきらと輝く枝の先や
夏の陽射しをさけて木陰に咲く花や
秋の色とりどりの足元は星の道のようだったり
震えながら歩くような冬の道では
枯れた姿の美しい植物たちに夢中になったり

教えてくれたもののなんと多かったことでしょう
遺してくれたもののなんと大きかったことでしょう

いろいろなかたちの鞄になって
ずいぶんとたくさんの散歩道を歩きました

すみれ
セイタカアワダチソウ
ノラニンジン
水仙
ニガナ

足元に咲くものから、遠くのどこかに咲いているものまで


ちいさな頃は真っ直ぐに歩くこともできず
狭い歩道でくるくると回るから
目が回りそうになったり
出会うよそのわんことはちっとも仲良くできないからごめんなさいと何度も恥ずかしい思いをしたり
食べられないものを食べてはお家で吐いてしまうからカーペットのあちこちには臭い跡がついちゃうし
もう毎日振り回されては大変な13年だったけれど、いつどんなふうに、どの部分を思い出してもまだ涙が出てきて、きっとこれはずっとそうで
それだけたくさん幸せだったということなんだけど、だからドロと歩いた日々に生まれたこのモチーフができてなんだかわたしがとても救われています

きみに会いたいよと、ずっと今も思っている

きみがくれたものを大切にしながら
こうして手を動かしているよと、思っている

わたしとドロが紡いだこの道が
遠くどこかのどなたかの日々と重なるといいなと
思っています


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