MARVEL SNAPの野心的な試みは成功しているのか?

先日の記事でMARVEL SNAPがいかに既存のデジタルカードゲーム(DCG)の課題に対して野心的なアプローチを取ろうとしているのかを紹介した。

MARVEL SNAPがリリースされてからおよそ2週間が経過し、最初のシーズンが終わろうとしている今、これらの野心的な試みがどの程度上手くいっているのか、おぼろげながらも見えてきたように思う。そこで今回は見えてきた問題点などにも触れながら、MARVEL SNAPの現状を見てみたい。ところで、本稿を書こうと思ったきっかけがある。それは下記の2つのブログ記事だ。

どちらもMARVEL SNAPに対して、批判的な目線で問題点が書かれている。正直に言ってインタビュー記事も、ゲームそのものも、「すごい!画期的だ!」と感動して遊んでいたし、twitterでのMARVEL SNAPの感想も概ね好意的だったので、この記事には驚いた。書かれたNORANEKO氏は、カードゲームを色々遊んでおられる方で、MARVEL SNAPについてもランク150以上までガッツリ遊んだ上で書かれている。なので、良くアプリストアの評価で☆1のコメントにあるような、ろくに遊びもしないで批判する意見でも、負けて「確率が操作されている!くそげー」みたいな意見ではなく、しっかり遊んだ上で問題点を指摘しているのだ。この意見は傾聴に値する。そこで本稿はNORANEKO氏が指摘されている問題点にも触れながら考察を進めたい。

環境の固定化に対する対策は機能しているか?

MARVEL SNAPは、DCGが陥りがちな短期間での環境の固定化を強く懸念し、対策しようとしていることが伺える。大きな対策としては、新カードの入手スピードを運営側が制限し、課金したとしても一定以上の速度でカード資産を入手することを困難にしていることが1つ目。さらにカードを選んで入手することをできなくし、ランダム入手とすることで、人によって入手順が異なることにより多様な環境を実現しようとしている。そして2つ目の対策は、ランクマッチで特定のロケーションを登場しやすくすることで、環境の固定化にゆさぶりをかけるというものだ。それぞれの対策の現状を見ていこう。

カード入手制限の現状

カード入手のシステムについては、前回記事以降プールが3つに分かれていることがわかった。最初はカードプール1から入手し、プール1を全て入手するとプール2に入り、プール2を全て入手するとプール3に入る。後になるほどカード入手の間隔が長くなり、プール3のカードを全て入手するのはかなり大変だ。もう1つ、マッチングは原則同一のカードプールにいる人同士で組まれるという重要な仕様がある。これにより、後からゲームを始めた人や無課金の人が、最初からやり込んでいる人や課金勢に強カードでぼこぼこにされることを防ぐことができるという利点がある。このシステム上手く回っているように見えるが問題もないわけではない。

1つ目の問題は、あえて次のプールに進まない戦略が出てきたことだ。例えばプール1の間は、1コストのカードを並べてカイ・ザーやブルーマーベルで永続バフするデッキが強いが、プール2に入るとキルモンガーという強烈なメタカードが登場してメタが多様化するように設計されている。だが、ランクを上げるだけならプール1に留まり永続デッキで勝ち星を重ねるのが有利と考え、プール1に留まる人が出てきた。プール2と3の間でも同じことが起きている。カードプールはゲーム内クレジットを消費してコレクションレベルと呼ばれるものを上げることで進んでいくが、クレジットを消費しないことでステイしているわけだ。プレイヤーは、仕様の中で自分にベストな行動を取っているわけで何ら問題はないが、仕様の裏を突かれている現状はあまり望ましい状況ではないだろう。この問題は、カードプールの進行をある程度強制的に進めるなどして解決すべきではないかと思う。(現状のクレジット上限はもしかしてそのためにあるのかもしれないが、もっと直接的に強制してもよいと思う)

2つ目の問題は、特にプール3においてカード入手に時間がかかり過ぎて、どうしても自分が欲しいカードや組みたいデッキがあっても、どうにもならないことがある点だ。ただ、こちらの問題については意図的に設計されたものだろう。昨今のDCGではクラフトが当たり前だが、ランダム入手のカードパックを向いて手に入ったカードでデッキを組む。カードゲームのこの原体験を楽しいと思えるか、ストレスと感じるかはこのゲームが向いているかどうかの1つのポイントかもしれない。私がハースストーンを始めたとき、wikiなどの攻略サイトには、「まずドクター・ブームをクラフトしよう」と書いてあって初期の頃からシークレットパラディンと呼ばれるtier1デッキを使っていた。今、プール3でドクター・ドゥームはまだ入手できていないし、相手に出されて負けたことが何回もある。でもそれでいいと思っている。

ドクター・ブームはクラフトできるが、ドクター・ドゥームはできない

注目・頻出ロケーションの現状

MARVEL SNAPでは、ランク戦の中で特定のロケーションが出現しやすくなるイベントが頻繁に開催される。ゲーム性への影響が大きいのでイベントに合わせてデッキを調整する必要があり、環境の固定化対策として機能している。注目ロケーションと頻出ロケーションの2つがあるのだが、1週間の7日間のうちトータルで3日間はどちらかのイベントが開催されるようなので、今後も機能していくのではないかと思う。ゲーム性として大味になる面もあるので、そのあたりのさじ加減が上手くできるのかが気になるところではある。

プロジェクト・ペガサス頻出は大味なゲームとなった

SNAPシステムの問題点は?

SNAPシステムについては、NORANEKO氏はかなり批判的であるが、私は今でも優れたシステムだと思っている。理不尽な負けのストレスを緩和し、勝負に行くタイミングや程度を自分でコントロールできる。これはDCGにおいては画期的と言って差し支えないだろう。キルモンガーのような初見殺しのカードで8点取られるとムカつくこともあるが、このあたりは他のDCGでもある話で、カードを覚えるまでの話だ。一方で、NORANEKO氏が指摘している問題点もまた1つの見方として正しい。順に見ていこう。

撤退が安定行動すぎる

正直このゲーム、ヤバイと思ったらすぐ撤退が安定だ。相手がやりたいことできてそうだったら撤退で、6ターン目に意表を突けるときに勝ち星を稼げばランクを上げていける。恐らく、後述するbotの存在もこれに影響しているのだろう。今は4点の勝負にすらそれほどならないし、8点の勝負は20戦に1回くらいだろうか。1点、2点のちょぼちょぼした地味なやり取りは、個人的には大振りで決めにいくタイミングをはかるジャブの打ち合いみたいで好きなのだが、寒いと感じる人もいるだろう。

答え合わせができない

撤退が安定行動なのだけど、6ターン目に撤退の判断が正しかったのか気になることは多い。答え合わせがしたいけど、答え合わせのために勝ち星を捨てるのも嫌なので撤退する。結果、消化不良感が残る。例えば麻雀ではベタ降りして流局したときに、降りた判断が正しかったのか開示される。MARVEL SNAPでもゲーム終了時に相手の手札が見えるとかしても良いかも。

やりたいことをやる前にゲームが終わる

NORANEKO氏はミスター・ネガティブを例に挙げているけれど、このゲーム下準備をしてからブン回るデッキは基本消化不良に終わる宿命にある。この後、ブン回ることが目に見えているなら、付き合う義理はなく撤退するからだ。単体で相手を奇襲して刺せるキルモンガーやシャンチーのようなカードを組み込んだデッキの方が読み合い含めてこのゲームを楽しむには向いていると思う。カードゲーマーには、一人回しとかソリティアと時に揶揄されるようなコンボデッキが好きな人が少なくないが、そういう人にはあまりゲーム性が向いていないんじゃないかと思う。

ミスター・ネガティブ。これからブン回る宣言するようなカード

少ないデッキ枚数がゲーム体験に及ぼす影響は?

前回記事では触れなかったけれど、MARVEL SNAPの特徴の1つにデッキ枚数が他のDCGに比べてかなり少ないことがある。代表的なところでMtGのスタンダードルールだと60枚、ハースストーンで30枚が基本枚数だが、MARVEL SNAPは12枚だ。同一カードを複数枚入れることもできない。これはゲーム体験にどのような影響を及ぼすのだろうか?

デッキ構築への影響

デッキ構築への影響としてまず挙げられるのは、枚数が少ない方がデッキ構築のハードルが下がるということだ。私もかなりカードゲームをプレイしてきたけれど、MtGのデッキをゼロから構築しろと言われたらまともなものが組める気がしない。ハースストーンでギリギリ戦えるデッキが組めるかなというレベルで、マナカーブ、ドローや除去をどの程度積むか、シナジーをどの程度組み込むか、フィニッシャーは何かなど考えることが多すぎてハードルが高い。MARVEL SNAPの12枚というのは、その点でかなりハードルを下げることに成功しているだろう。フィニッシャ-はだいたい6マナカードで決まるし、それに合わせて採用すべきカードがある程度見えてくる。あと、カードプールの中に構築で採用できないレベルの弱いカードが非常に少なく、1コスト2コスト当たりはシナジー考えずに、好きなカード採用してもほとんど問題ない。

一方、NORANEKO氏が指摘しているようにデッキ枚数が少ないことで、特にコンセプトデッキを組んだ場合のデッキ構築の自由度が下がっている弊害は否めないだろう。移動・破壊などのシナジーありきのデッキでは、自由枠はせいぜい1~2枚程度になることがある。まあ、そうは言ってもハースストーンなんかでもHSReplayなどの情報サイトからコピーしたデッキ使っている人が大半なんだけど。

ゲームプレイへの影響

デッキ枚数が少ないことは、ゲームプレイにも大きな影響を及ぼす。1つ目の影響は、1回のゲームでデッキに入れたほとんどのカードを引けるということだ。追加のドローや妨害などがない場合、12枚のカードのうち9枚は必ず引くことができる。だから、基本的には6ターン目にフィニッシャーはお互いに引けていることがほとんどで、お互いにやりたいことができている前提での読み合いが必要だ。デッキ枚数が多い場合、引けてるか引けてないかの運要素が強くなり、「キーカード引けなかったから負けた」、「相手がピン刺しのメタカード運よく引いて負けた」みたいな体験が増える。2つ目の影響は、相手のデッキ妨害効果の相対的な強化だ。相手のデッキからカードを引いたり、相手のデッキにゴミを混ぜるカードは、デッキ枚数が少ない場合影響は誤差だが、1桁枚数の残りデッキなら影響はかなり大きい。

たった12枚のデッキなら手札事故はめったに起きないようにできる

マッチングとランク戦の問題点

bot是か非か

実はNORANEKO氏の記事で一番驚いたのがこれ。NORANEKO氏によると、ランクが上がってもbotとのマッチングが非常に多いらしい。私も最初のシーズンを一応最高ランクのインフィニティまでプレイしたのだが、全然気づいていなかった・・(アホですみません)。ただ、言われてみると思い当たる節が結構あり、どう考えてもこっちが勝ち確定でSNAPもしているのに、「お前はサウザーか!」ってくらい退かない人がそこそこいた(相手がやけになって捨てゲーしてると思ってた)。あと、冷静に考えるとこのゲームって勝った側が得るものと、負けた側が失うものが同じで、なおかつこれ以上下がらないっていうセーフティネットがほとんどない(ランク100に何故かセーフティネットがあるが)。そうすると、ゼロサムなのでそんなに簡単にランクは上がらないはずだが、twitterみてるとみんな順調にランク上げていて停滞している人はほとんど見ない。これも裏でbotが勝ち星を大量に供給していると考えると説明がつく(中央銀行が市場に大量に資金を投入することで、インフレが起きているようなものだ)。
さて、本題のbotが是か非かだ。bot導入のメリットデメリットは下記だろうか。

botのメリット

  • マッチングに時間がかかり過ぎることがなくなる

  • 程よくbotが負けることによるプレイヤーストレス軽減

  • 勝ち星供給により全体のランクを緩やかに上昇

botのデメリット

  • 対人戦のつもりがbotと対戦させられることによる虚無感

  • ランク戦の形骸化

正直、私のようにbotが導入されているのに気づいていないという状態が理想だろう。対戦ゲームでほどほどに勝ったり負けたりして楽しいと感じるのは7割くらい勝っているときと聞いたことがある。ガチの対戦ゲームで同程度のレベルの相手とばかりマッチすると、イライラを募らせるプレイヤーが相当数出てくる。だからプレイヤー同士は勝ち負け5分で2割分くらい、気づかないようにbotが入るのが理想なのかもしれない。ただ、接待丸出しのbot戦ほど虚しいものはない。別ゲームの話で恐縮だが、ポケモンユナイトというゲームで、連敗すると接待丸出しのbotチームと当たるという仕様があった(今もあるか知らないが)。確かに負けっぱなしということはなくなるのだが、botチームと戦う虚しさは相当なものだった記憶がある。そういう意味ではMARVEL SNAPはかなり上手くやっているように思う。NORANEKO氏以外で「botばっかりじゃねえか」って言ってる人を見たことがないので。

現実問題としては、カードプール+ランクでマッチング範囲を絞って、これだけ快適なマッチングを成立するにはbotが必要なのだろう。ただ、気づかれなかったとしても、駆け引き重視の対戦ゲームを気づかせずにbotとさせること自体が不誠実な印象はあるし、ランクの意味が形骸化する問題には何らかの解決策が必要だ。

連続マッチの問題点

ある程度ランクが上がってくると、同じ相手と3回、4回と連戦することが少なくない。負けた相手に再戦で読み勝ってリベンジできたり熱い展開になることもあるのだが、これはこれで問題をはらんでいる。それはカウンターキューが狙えることだ。カウンターキューとは相手のデッキに有利なデッキに切り替えて再戦を狙うことである。実際に相手の盤面をロックして勝つデッキを使っていて勝ったら、再戦時に自分の盤面を破壊して強化するデッキに持ち替えられたことがある。ハースストーンでも、連続マッチとカウンターキューが問題になった時期があったので、ランキングなどが本格的に稼働したらMARVEL SNAPでもいずれ解決していく必要が出てくるかもしれない。

ランク戦の問題点

現状のランク戦は最高ランクのインフィニティに到達した先は完全に趣味の世界になっている。ランクを上げても何の報酬もないし、ランキングもないのでSNSで自慢できるのはランクの数字だけ。世界で何位かもわからない。これではインフィニティ到達後のモチベーションを維持するのは難しい。せめて、10ランクごとのランダムトレジャーボックスと、ランキングのリーダーボードくらいは欲しいところだ。ランキングについては、近い将来実装されそうだが、今度はbotとカードプールが問題になる可能性がある。botが多い時間に勝ち星積んだり、キルモンガーのいないプール1の世界で勝ち星積むのがランクを上げる最適解ならランキングに意味などない。高ランクスタートの人が次のシーズンから増えるし、このあたりのシステムの整備は急務だろう。

まとめ

これだけ画期的な試みを多数導入しているにしては、ここまでのところMARVEL SNAPはかなり上手くやっていると思う。もちろん、カードプール制によって生じたひずみや、マッチングとランキングの問題点など早急に改善が求められる点も見えてきている。このあたりは、今後の運営に期待したい。2022/11/4のアップデートでもかなりの改善・変更が入っており、今後に期待できると感じている。あと、やはりこのゲームが今までのDCGと一線を画するがゆえに、特に従来型のDCGが好きな人で合わない人も少なくないのだと思う。下記が私が考える、向いている人と向いていない人だ。

MARVEL SNAPが向いている人

  • カジュアルに遊びたい人

  • 入手できたカードの制約の中でデッキ組むのを楽しめる人

  • 読み合い・駆け引きを楽しみたい人

MARVEL SNAPが向いていない人

  • ランク戦で上位を取るのが好きな人・競技志向の人(今のところ)

  • 欲しいカードが入手できないとストレスを感じる人

  • 強いカードでベストなデッキを組んで対戦したい人

  • コンボデッキなどでブン回る動きが好きな人

最後に現状のまとめとして、googleのアプリストアでの評価を主要なDCGで比較して締めとしたい。(2022/11/5現在)

MARVEL SNAP:    ☆4.2 (レビュー数80,349件)
Hearthstone:     ☆3.8 (レビュー数1,625,529件)
Shadowverse:      ☆3.2 (レビュー数60,443件)
MtGA   :       ☆4.0 (レビュー数119,174件)
Legend of Runeterra:☆4.6 (レビュー数582,449件)

So far, So good!






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