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とあるスポーツアパレル企業における、カスタマーサクセスの美学

RxLを知らないランナーはいない。

このアパレルブランドを展開しているのは、武田レッグウェアー株式会社という埼玉県の会社だ。ランニングや自転車競技をはじめとしたスポーツジャンルにおいて、アパレルウェアブランド RxL を中心に、ありきたりじゃなく "気の利いた" 製品を展開している。

とりわけスポーツソックスについては、日本のシリアスランナーでいえば 1/4 ぐらいは履いていそうな印象(私の推定)で、圧倒的なシェアがある。ロードバイクに乗り始めてから知ったのだが、自転車用のラインナップもあり、ローディー達にも支持されている。

2019年の3月と8月に、個人的なわがままを発端とした RxL との "ちょっとしたやりとり" 通じて、いちランナーとして、またいち起業家として『うおぉ』と声を出さずにはいられないカスタマーサクセスの体現を魅せつけられたので、この出来事を紹介したい。

とあるクレーマーからのメール

クレーマーとは、私である(笑)。

私がすこぶる気に入っている RxL のランニング・ギアに「シームレスアームカバー」がある。


※写真は公式オンラインショップより

特徴としては下記だ。

・完全無縫製(つまり縫い目がない、なぜこんなことが可能なのか...)
・ソフトな着圧。しかし走っていても落ちてこず、絶妙
・シルクのような肌触りの良さ

過去に買った他社スポーツブランドのアームカバーでは、どうにも着圧が強くて窮屈であるとか、いかにもナイロンで肌触り悪いなど、身につけるのが苦痛に感じるようなものしかなかった。

一方この RxL のシームレスアームカバーはというと、「強すぎる日差しと紫外線を遮りたい」であったり、「少し肌寒い日の防寒をしたい」といった、ランナーがアームカバーに求めているごくシンプルな希望を、過不足無く満たしている。個人的には、このジャンルにおけるパーフェクトな商品だと思う。

しかし、私的には恨み節がひとつあった。カラーバリエーションとして、白が無かったのだ。白のTシャツに合わせたいし、白はもっとも日差しを反射する(なお紫外線は透過するが、許容する)。

このアームカバーと出会ってから二年。白カラーも発売されるかなと期待して、ちょくちょくWebサイトや、ランニングショップの店頭を覗いていたのだが、発売されないことにしびれを切らしてしまい、ついに2019年3月、見方によってはクレームめいた問い合わせメールを武田レッグウェアー社へ送ってしまった。要約すると以下の通り。

- このアームカバーは傑作だと思っている。水色を購入して以来、愛用している
- ところで、白を作って販売して頂けないか
- 晴れた日に使うアームカバーとしては、太陽の光を吸収しづらい白がもっとも使い勝手が良い。ファッションコーディネート的にもそうしたい
- 水色を入手して以来まもなく2年だが、白は未だラインナップに並ばないので、我慢できずメールした

...今読み返してもまるで身勝手。しかし言い訳をさせてもらいたい。このアームカバー愛を抑えることはできなかったのだ!いや、ちょっと飲んでた🍺夜だったかも。

さて、このメールを送った二日後。返信すら期待していなかったのだが、ちゃんと返信が来たのでまず驚いた。こちらは原文のまま載せたい。

平素よりアールエル商品をご愛用いただき誠にありがとうございます。
この度は弊社商品へのご要望をお送りいただきありがとうございます。
タケベ様のご要望に対しましてご回答させていただきます。

ご愛用いただいておりますシームレスアームカバー(TSA-11)はナイロン素材で生産されております。
こちらのナイロンという素材は、空気中の様々なものに反応をして黄色く変化する特徴がございます。(黄変と呼びます)
実際のところ、ご愛用のスカイブルーやブラックなどのカラーでも黄変自体は発生しておりますが、生地自体に色があるため見えることはございません。
しかし、白の場合はこの黄変が大変目立ってしまいます。
また、この黄変は全体的に黄色くなるのではなく、部分的にシミのような形になって現れることが多い現象です。
現状ではこの黄変という現象を抑える技術は発見・発明されておりません。

その為、タケベ様からご要望いただきましたホワイトカラーの販売については現状予定をしていない状況でございます。
タケベ様だけでなく、他のお客様からもホワイトのご要望はいただいておりますので、他素材での展開の可能性を社内で検討しております。
また、ご愛用のTSA-11ではライトグレーなどのカラーの展開も検討中です。

すぐにご要望にお応えできず申し訳ございませんが、何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます。
今後ともアールエル製品をお引き立ていただきますよう、お願い致します。
この度は貴重なご意見を頂戴し、誠にありがとうございました。

なんと懇切丁寧なメール!何一つ反論の余地もなく、明解とはまさにこのこと。無知だった。「黄変」という現象を知らなかった。

また、変に期待を持たせるわけでもなく「ホワイトカラーの販売については現状予定をしていない状況でございます」、これがいい。自分達の決断と、揺るぎない意志を見て取れる。

このあとクレーマー(つまり私)は、

- よく理解できました、丁寧な説明ありがとうございます
- ライトグレーのアームカバーについては、他社のものを手に取って気になっていた
- RxLからライトグレーが発売されたらきっと購入する

と返信したところ、RxLからは再度下記の往信があった。

今回の武部様のご意見は今後の開発に役立ててまいります。
また何かご意見やご要望がございましたら、いつでもご連絡ください。
この度は誠にありがとうございました。

さて、本編はここからです。

8月のある日

3月のやりとりですっかり納得した自分は、仕事とランニングに明け暮れており、このやりとりはすっかり忘却の彼方へ。

しかし8月22日、突然RxLからメールが届いた。こちらも原文ママである。

平素よりRxL(アールエル)をご愛用頂き誠に有難うございます。
RxL(アールエル)武田レッグウェアー株式会社です。
以前、ご要望頂いておりました「シームレスアームカバー/TSA-11」の
ホワイトカラーについて黄変の説明をさせて頂きました際に
「ライトグレー」を検討中とお伝えしておりました。
この度、新色「ライトグレー」と「ネイビー」が発売になりましたのでご案内させて頂きます。
【 シームレスアームカバー/TSA-11 】
 https://shop.rxl.jp/shop/item_detail?category_id=404243&item_id=2176324
ご覧になっている画面環境、照明などの関係上
実際の色味と多少異なります事、ご容赦ください。
今後ともRxLをご愛顧頂けましたら幸いです。

ええええ!と心底驚いた。いや、こんな顧客対応、普通できる?!

シリアスランナーの 1/4 がランニングソックスを履いているような、年間何千足とランニングソックスを売っている規模の企業で。能動的に、テンプレじゃないメールで。

すぐさま公式オンラインショップにてライトグレーを購入し(はい、買いましたw)、次に以下のように連絡した。

- 半年近く前の私の不躾な問い合わせに対して、このようにご連絡頂いたことに、とても感激している
- どうしてこのような顧客対応が可能なのか?何か、問い合わせを管理しているツールで、リマインドできる仕組みを構築されているのか?
- 自分自身経営者で、このようなユーザーファーストな経営を目指しており、ノウハウをご教示頂きたい

まもなく当日中に、回答があった。またも原文ママ。

ご多忙にもかかわらずご丁寧な返信を頂戴し誠に有難うございます。
シームレスアームカバーの新色につきましてはご購入を促すようなご案内になり大変失礼とは存じましたがご連絡させて頂きました。

ご質問頂きました「問い合わせ管理」につきましてはお客様のお問い合わせなどを扱う部署がございます。
お客様からご連絡頂きました日時や内容、弊社からの対応内容を一覧で管理しております。
お客様へ再度返信が必要な保留案件(再入荷日を確認中、お客様からの返信を待っているなど)は一目で分かるようになっており簡単なエクセルデータ管理でノウハウといった程でもないアナログです。

弊社の理念は「完成の無いモノ作り」でありますのでアナログではございますがユーザーの方々にご満足頂けるよう尽力しております。

恐れ入った👏という他ない。ツールで手際良くというわけでもなく、アナログ管理を駆使してでも、顧客からの問い合わせを記録し、製品開発・販売の進捗状況に合わせて、顧客ひとりずつへのアクションも抜かりなく行っているわけだ。

カスタマーサクセスを体現するということ

この出来事で、武田レッグウェアー社が大事にしている価値観を垣間見た。

製品自体、どの製品も使用者の観点で工夫されていて、どれも気が利いているなとは思っていたが、ユーザー視点の考え方は、顧客対応に至るまで適用されている。

3月のやりとりでは丁寧なカスタマーサポートだなと感心し、8月のやりとりでは、それを超えたカスタマーサクセスの姿勢に感激した。

ファンを増やすブランド/企業というのは、こうやって形成されてゆくのだろう。

自身、現在企画中のITサービスにおいて、「半年後にはPMFをクリアして、β製品のファンになってくれているユーザがいるはず。その頃にはカスタマーサクセス部門を設置したいけど、どんな体制を構築してゆくべきなのかな...」と考えはじめていたところに、パンチをもらった。

同時に、業界に関係なくカスタマーサクセスの考え方と仕組みは導入できるものなのだと教えられる出来事であった。

ライトグレーのアームカバーで走るのが、今から楽しみで仕方ない!


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