見出し画像

後から入居したのだから仕方がないけれど

 いま住んでいるアパートは騒音がひどくて、頻繁に頭がおかしくなっている。原因は隣にある修理工場だ。ふだんは静かなのだけど、たまに修理した機械を外で試運転させている。朝から晩まで、平日に限らず、土日や祝日も修理工場は元気に稼働している。

 朝8時すぎ、チェーンソーの音で起こされる。チェーンソーの音は嫌な振動を鼓膜に発生させ、寝起きの悪い私をさらに不機嫌にさせる。家で仕事をしていると、定期的に色々な音が部屋の中に入ってくる。ガタンガタン、バタッ、ゴオオオオ、ぶいいぃぃん。まるで私も工場の中で働いているみたい。窓を閉めていても十分に聞こえてくるのに、窓を開けたときなどは悲惨だ。直接音が入ってくるのに加え、エンジンの臭いも風に乗ってやってくる。

 一度どれくらいの騒音なのか計測してみたけれど、どうやら「かなりうるさい」レベルらしい。そうだよな、だって窓を開けていたら部屋のテレビの音が聞こえなくなるくらいだから。取引先とスカイプで打ち合わせしていたときにも「今どこにいるんですか!?」とめちゃくちゃびっくりされたし。うるさいのは嫌だ。私はうるさいのがすごく苦手だ。

 やられっぱなしは嫌なので、何度か対抗したことがある。最初は窓からその工場をずっと見つめていた。なるべく無表情に、幽霊みたいに。もし見られていることに気づいてくれたら、少しは音を出すのも注意してくれるのではないかと思ったから。でも、どれだけ見つめてもこっちを見てくれなかった。音があまりにも長く続くせいで全く仕事にならなかったときには、やけになって部屋の窓を開け閉めしまくって、私からも騒音を発生させたこともあった。ただ、私が発生させる音は簡単にチェーンソーの音にかき消されてしまった。最終的にどうしようもなくなったときには、部屋の中でバタバタしていた。もちろん音は鳴りやまなかった。

 工場の人だって、生きるために音を出しているから、たちが悪い。だから何も言えない。音を出さないでもらうというのは、働くなと言っているようなものなので。優しい気持ちが大切。たとえ日本が資本主義社会であっても、私はなるべく優しくありたいと思っている。

 これを書いているとき(平日の午後、春、天気は晴れ、窓を開けたくなってしまうくらいにとてもよい気温)にも音は出続けている。もう1年以上、この音と付きあってきたけれど、全く慣れない。本当に、音だけは無理なんだ。いつ音が発生するかわからないのも恐ろしい。ずっとおびえている。

 本当は引っ越しをしたい。防音だけに全振りしたこのアパートは、古いし虫もすごく出るし、1人で住むには広すぎる。冬は寒いし、隣の部屋の犬はずっと吠えている。肝心の防音設計だって、外からの騒音には意味ない。ただ、引っ越しをする余裕はないので、騒音問題にこれからどう向き合っていくかが当面の課題となる。ちなみにこのまえ人に相談したら、イヤホンか耳栓をしたらと言われたけど、それはなんか負けたみたいで嫌だな。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?