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虎に翼 第56話

昭和24年1月3日。
滝行がわりの水垢離。滝藤賢一を毎週一回脱がせて筋肉を見せつけるつもりだろうか。水を滝のように浴びながら家庭裁判所の五大基本性格を叫ぶ。

独立的性格
民主的性格
科学的性格
教育的性格
社会的性格

「寒い!」
でしょうね!
日課ということは毎日やってるんだろうけれども、ご近所から苦情は来ていないのか。来てるだろ絶対。

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この年から、ついに寅子(伊藤沙莉)は裁判官に就任ただし家庭局事務官と兼任。それにしても、星朋彦最高裁長官(平田満)の寅子への台詞

「穂高先生(小林薫)の希望の星だね」

恐らく寅子は「なんじゃそりゃ」の決別後と同じく「私は好きでここにいるんです!」の後、狭い法曹界でも穂高とは極力関わりを持たないようにしていると思われる。しかし穂高は寅子の宣言を受けて以来、ずっと周りに「女性判事候補・佐田寅子」について働きかけていたのだろうなと想像した。

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家庭局が当面解決に動かねばならないのは、戦災孤児問題。
朝ドラで戦災孤児といえば、近年では『なつぞら(2019年)』のヒロイン兄妹と『カムカムエヴリバディ(2021年)』のヒロイン夫・ジョーが思い出される。
昭和23年9月、浮浪児根絶緊急対策要綱が閣議決定したという。大人が起こした戦争で家族と住む家を奪われた子ども達を「浮浪児」呼ばわりとは、本当にふざけた話だ。

そして、小橋(名村辰)の財布をスった少年・タカシ(令旺)と道男(和田庵)を追いかけていった先で寅子が目にした『轟法律事務所』の看板……カフェ燈台だった場所に。
必ず寅子とよね(土居志央梨)、轟(戸塚純貴)はまた出会うはずだとは思っていたが、ついに会えるのかと胸が高鳴った。

寅子の顔を見てのよねの第一声が「こっちくんな」。しかし、画面が切り替わって映るその表情は(生きていた……!)と雄弁に語っている。次の瞬間、孤児たちに食べさせるための鍋を抱えて厨房から出てきた轟の

「佐田!?生きていたのか!よかったぁあああ!本当によかった!!」

本当に、このふたりの間に轟がいてくれてよかったよ。そうでなければ、秒速で袂を分かって終了だ。

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しかし、よねは寅子を許す気にはならないようで……そういえば、寅子はよねの怒りをどう解釈しているのだろう?と考えながら観ていた。

寅子「裏切ったのは私だから。何もかも、ごめんなさい。あの時は逃げることしかできなかったの」

ああ、そうか。寅子は誤解したままなんだ。弁護士の道を諦めたことに対して、よねが裏切りだと怒っていると。
そうではなくて

「私もやれるだけのことはするから。お前は独りじゃない」(38話)

こう話し、どんな状況になっても支えるつもりであったのに寅子が妊娠したことを黙っていた、頼ってもらえなかったことに深く傷ついたのだ。
そう、怒ったのではない。傷ついたのだ。
しかしそれは、語らなければ伝わらない。そして、よねは伝わらなくても構わないと思っている……せっかく生きて会えたのに、それでいいのか。

ところで、このあとの回想シーンを観て仰天したのだ。

「こっちの道には二度と戻ってくんな」
「言われなくてもそのつもりよ」

このあと!39話では、よねの表情は見えなかった。背中だけ。この56話で初めてそのカットが入る、寅子が立ち去ったあと大粒の涙が零れて止まらない、悲痛なよねの顔……39話のこの背中だけの演出はどういう意図だったのか。この表情があるとないとでは、かなり印象が変わってくるのでは……いや、あの「もう戻ってくんな」の震える声で想像はしたけれども、あの瞬間の俳優の気持ちのこもった芝居をカットし、ずっとあとになって56話で「実はよねはこうでした」を視聴者に見せることになんの意味があるのだ?と、何度も録画を繰り返して再生し、考えこんでしまった。
答えは結局出ず、諦めて物語の先を観ることにした。観れば答えが出るかもしれない。

タカシの声で事務所の外に出てみると、小橋と稲垣(松川尚瑠輝)が追いついてきていた。そして、轟との涙の再会……。
「生きていたのか!!」コメディ調で描かれたが、終戦直後はまさに、こういう思いであった人が多かったろうなと思う。この場面、脅しつける道男に対してドラえもんのスネ夫的怯え方をする小橋の芝居が秀逸であった。

なぜこういう演出なのだろう?と首を傾げることから始まった、第12週の初回。録画を一気見する。

(つづく)




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