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虎に翼 第37話

寅子(伊藤沙莉)と優三さん(仲野太賀)の夫婦が並んで座り、ちいさなピクニック。自分のハンカチを広げて、そこに寅子を座らせる優三さん。
ああ、この紳士としての仕草。昭和の白黒映画や「サザエさん」の原作漫画などで見た……!

「すべてが正しい人間はいないから」「この世にみんな、いい面と悪い面があって。守りたいものがそれぞれ違うというか。だから法律があると思うんだよね」

家族みんなの分には足りない鳥肉を、ふたりでこっそり食べる。正しい行いではないだろう。でも、今の寅子には必要な行為なのだ。
「寅ちゃんも、ずーっと正しい人のまんまだと疲れちゃうから」

明るい陽射しの川辺。このドラマの第1話で、終戦後に寅子が座っていた場面を思い出す。でも、あのとき彼女は、独りで座っていた……
では優三さんは。もしや、という不吉な予感を振り払う。

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昭和18年、寅子の妊娠にわきたつ猪爪家。直言(岡部たかし)も優三さんも国民服を着ている……繊維が不足し、衣料品も配給制度が導入されているのだ。少しずつ少しずつ、戦争がそれまであった普通の生活を削り取ってゆく。

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久しぶりに会った久保田先輩(小林涼子)から、あのきびきびした口調が奪われていた。ぜ、ぜんぜん……似合ってない。久保田先輩の言葉を封じたやつらの唇にフエキのり塗りたくってやりたい。

「結婚しなければ半人前。結婚すれば弁護士の仕事も、家のことも、満点を求められる。絶対満点なんて取れないのに」

なかば悲鳴のような久保田先輩の声。仕事するなら家のことを……家事も育児も、場合によっては介護まで完璧にやれよと言われてきた、全ての女性たちの声のようだ。

第33話の感想 で、久保田先輩は「甚だ不条理だとは思いつつも、とにかくこの社会を変えるため、自分が変えられるポジションに就くため……膝を地に着ける必要があるなら跪くと決めたのだろう」と書いた。跪くなら居場所を与えてやってもいい。そのまま地に手を着け、額も地面につけろと圧され続け、先輩は折れてしまった。

「弁護士の仕事もやめると思う」
やめる、やめたと断言したわけではない。まだ一縷の望みはあると思いたい。今はいったん折れたとしても、また地面から体を引き剝がし立ち上がる日が来ると信じたい。

「もう私しかいないんだ」と立ち上がる寅子、久保田先輩との会話を隣の席でずっと聞いていた桂場(松山ケンイチ)。
八方塞がりになりつつある物語の空気を、今週どこかで変えてほしい。松山ケンイチの俳優としての力に縋りたい気持ちである。

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たった一人残された婦人弁護士・寅子に、沢山の女性たちからの助けを求める声が降りかかる。
寅子、はるさん(石田ゆり子)の「もうあなた一人の体じゃないんですからね。仕事、仕事じゃいけませんよ」この言葉を思い出してほしい……妊娠中なのに、過労と睡眠不足……
頼むよ神様。これ以上つらい目に遭わせないで。

(つづく)




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