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虎に翼 第57~60話

※57話から60話まで一気見したので、一気見まとめ感想です。

福祉に繋がるべき人の議論で、よく揶揄として上がる声
「そんなこと言うなら、あなたの家でその人を引き取ったらどうですか?」
それを本当にやっちゃったら……というのを描いた週だったと思う。
朝ドラなので、最終的には上手くいく。しかし、そこに至るまでに綺麗ごとでは収まらないあれこれを随所に差し挟んでいた。

大人の男性である小橋(名村辰)さえ、彼に脅しつけられたら怯えてしまうくらい力強い体躯を持つ少年・道男(和田庵)を、寅子(伊藤沙莉)は自分の家に寝起きさせることに。上野に集まった戦災孤児の中では年長者、16、17歳くらいだろうか。
そして家に入れた初日に、道男から花江ちゃん(森田望智)に向かって発せられた

「おばさん、よく見たら綺麗な顔してんな」。

強烈な台詞だった。この一言だけで、道男が保護するにはかなり難しい存在ということが浮き彫りになる。寅子が出勤し直明(三山凌輝)が大学に行ったら、この家には、はるさん(石田ゆり子)と花江ちゃん、子ども達だけ……。ご飯が少なくなるとか金品を盗まれるとか、そういったこと以外に危惧すべきことがあったとは。

ただこの場面、この台詞が出るまでの流れと道男の表情からは、そうした危機とはかけ離れたものを感じる。
花江ちゃんに「君ね、それが泊めてもらうって人の態度?」と軽く叱られて道男は「おばさんは俺がひれ伏せば満足?」と返してしまった。その後、はるさんにテキパキと面倒を見る方向で話をまとめてもらい、すまなかったなと反省モードに。で、彼なりにさっきのフォローのつもりで容姿を褒めた……道男としては、その程度の言葉だったように見えるのだ。

はるさんは道男に「慣れてないのよね。優しくされることに」と語りかけたが、殺伐とした環境で育った彼は優しさだけでなく、一般的な会話や人との関係修復の仕方にも慣れていないのだろう。

道男が「いい奴なら助けてるやるって?じゃあ、悪い奴なら助けないってこと?あんた、自分がいいやつだって気持ちよくなりたいだけなんじゃないの?」と、直明に食ってかかったのは「追い出してくれてもいいんだぜ」と照らし合わせると、子どもがわざと扱いにくい言動をして大人の愛情を試す……所謂試し行動なのだが、助ける対象を選別するのかという問いかけにはドキッとした。選別にはいい奴・悪い奴という以外に「本当に困っている人、そうでもない人」というものがあり、その線引きは現実世界で、しばしば悲劇を生んでいる。

道男個人の問題は、はるさんの臨終を経て猪爪家との信頼関係構築、突然舞い降りた傍聴マニアの寿司屋のおっちゃん(田中要次)によって解決した。
が、第60話ラストのナレーション通り、戦災孤児の問題はこの後20年続く……つまり、孤児たちが大人になるまで。

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多岐川(滝藤賢一)が
「自分の身だけでおさまらん善意は身内がしんどいだけだ」と寅子を諫めつつ「ただ、理想のためにもがく人間にやいのやいの口だけ出す人間は、いささか軽率だと俺は思う」と小橋にも釘を刺す。
轟法律事務所での
よね(土居志央梨)「お前になにができる」
寅子「私だけでは無理よ。でも、轟さん、よねさんにも無理よ。何万人もの孤児達は救えない」
これに黙ってしまったよね、轟(戸塚純貴)に対して多岐川が「地域に根ざした支援。素晴らしいじゃないか」と語りかけたことといい、彼は常に対立する意見の間でバランスを取っているように見える。第11週での少年審判所の家事審判所担当者同士の対立は、ただの諍いであったために無視を決め込んでいたが。
多岐川のバランス感覚は、これまで理想と現実の狭間で苦しみ続けてきたからこそ生まれたものではないか。

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第12週は、はるさんが臨終を迎え退場した週。寅子の言うように急すぎるが、愛しい人のとの別れはいつも突然だ。
道男・家族と最期の言葉を交わすはるさんを見て、朝ドラ史上というか、ドラマ史上稀に見る可憐な臨終シーンだなあ……と思った。
長年綴っていた日記を燃やしてほしいという願いにどうしてと問われて
「それは……はずかしいです」
という言葉に、悲しい場面なのに思わず笑ってしまった。可愛い。

やだやだ、やだ、しんじゃやだと幼子のように泣き叫ぶ寅子にもらい泣きしてしまったものの、個人的には最期の瞬間まで「母」を求められるということに「かなわんなあ」という思いがないではない。私自身も母親であるので、学業を修めて働いて、伴侶を得るくらい大人になったら、後は自力で歩いてほしいものだ。もう私はここまでだから先のことはよろしくねと遺言されたら「任せてください、安心してください」と言ってくれ。
「はいと言いなさい、はいと」「もう……この子は……」という、はるさんに同意である。

子に徹底的に甘えられてしまう母という存在を、ここから先このドラマは、どう描いてくれるのだろう。

地獄だろうが私が選んだのだから!と爆走する寅子をうしろから支え続けたはるさん。お疲れ様でした。

(つづく)





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