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虎に翼 第39話

えっ、辞表!?産休・育休じゃないの…?と思った瞬間、今更ながら気がついた。

登場人物の誰もが、何もかも初めて経験することだったのだ。

仕事を抱えた身で妊娠することも、そんな女性を雇うことも、そうした女性から相談を受けることも。女性が働きながら出産育児するための社会システムは整っておらず、子どもは母親が自分の手で育てるものだという考えが大勢を占める世の中。保育園すらない。

「弁護士の資格は持っているのだから、仕事への復帰は(子育て後の)いつだってできるんじゃないのかね」

育児がひと段落して職場に復帰できた女性も、まだいないのにだ。

「私はどうすればよかったの?」

必死で勉強して、やっと掴んだ資格と仕事。これが正しい道だと思い結婚して子を授かって、でも体はいうことを聞かず、無事に産むためには立ち止まるしかない……どうすればよかったのか。100年後を生きる私も、寅子(伊藤沙莉)に正解は示せない。だって彼女の涙は、多くの女性が悩み苦しんで流した涙と同じだもの。

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よね(土居志央梨)の怒りは、弁護士として働くことをいったん諦める寅子に対してではなく、「お前は一人じゃない」と伝えたのに頼ってくれなかったこと、妊娠を話してくれなかったことへの怒りだ。そして、頼ってもらうには必要だった、弁護士資格を持っていない自分への怒り……

よね「ちょっと男どもに優しくされたらホッとした顔しやがって」「男に守ってもらう、そっちの道がお似合いだよ」

よねは寅子が穂高先生に「なんじゃそりゃ」と怒りを露わにした、あの現場に居合わせていない。もどかしさと情けなさ……今は激情に駆られていても、落ち着いたら寅子に手を差し伸べてほしい。よねと寅子の関係は、これで終わりじゃないはずだ。

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明律大学の教室で、寅子の辞表を読む穂高先生(小林薫)。寅子に
「世の中、そう簡単には変わらんよ」と言った先生は、この女子部開設、女学生たちを法曹界に送り込むまでに幾度挫かれ、どれほど回り道を強いられたのだろう。彼もまた、私はどうすればよかったのか?と己に問うている背中に見えた。

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神宮外苑で行われた、学徒動員出陣式を報じるラジオにギョッとする。大河ドラマ『いだてん』で、仲野太賀は学徒の一人として行進していたことが忘れられないからだ。

戦地の直道(上川周作)から届く便りが「直道さんらしくなくてつまんない」と笑う花江ちゃん(森田望智)……戦地からの手紙類には検閲がある。それを警戒して、家族に迷惑がかからないように当たり障りのない内容しか書けないのだろう。

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昭和19年春、サラッとなんの説明もなく、寅子と優三さんの間の子が産まれている。母子ともに健やかでよかった!
劇的な出産シーンがない朝ドラは他にもあったが、この作品においては、妊娠出産が100%の喜びと感動のみで構成されているわけではない、リアルな女性のドラマであるというメッセージとして受け取った。

寅子のところに、いったい誰が訪ねてきたのか。明日は金曜日、この重苦しい一週間をしめくくる回である。

(つづく)



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