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虎に翼 第44話・第45話

先週の予告で、寅子(伊藤沙莉)が作ったお守り袋を拾い上げた人は、やはり優三さん(仲野太賀)ではなく、戦病死を確かに伝えに来てくれた帰還兵だった。戦友というわけではない、ただ隣のベッドに寝ていただけの人に
寅子が作った「五黄の寅の力が宿ったお守り」を渡してしまう。帰還兵の彼の言うように、どこまでも優しい人。
それが、まさに彼……優三さんが亡くなってしまったのだと裏付ける。
なんという苦しさだろう。

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はるさん(石田ゆり子)が

「これ以上、心が折れて粉々になる前に」「優三さんの死と、ゆっくり向き合いなさい」

と寅子に促す。その方法が、花江ちゃん(森田望智)も、はるさん自身も、家族に内緒で思いっきり贅沢を味わうこと。といっても、このご時世ゆえ、たった一杯の酒、たったひとつのおはぎを味わうだけ。

家族に内緒で、ひとりで……というところに、ホッとし涙するのだ。前回43話の直言の懺悔と併せて安心する。己の全てを家族に、集団の為に捧げるわけではない、個としての人間であることを肯定する作劇に。

誰にでも優しく、完璧な夫に見えた優三さんも、実は一人で何かを楽しんだり憂さ晴らししていたことが後々判明するといいなと思っている。

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いざ闇市に来ても、そして美味しそうな焼き鳥を前にしたところで、思い出すのは彼とのこと。これは大切な人を喪った経験があれば誰しも覚えがあるのではないか。

口をつけず立ち去ろうとする寅子を追いかけてくる焼き鳥屋の女将さんの

「しっかりするんだよ」。

本当に渡したかったのは、新聞紙に包んだ焼き鳥以上に、この言葉なんだろうなあ……。
この戦争で愛する人と死に別れた人を山ほど見てきたのだろうし、恐らくは彼女自身つらい経験をして、あの闇市にいるのだ。

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思い出の川辺に座り、涙と共に焼き鳥を頬張る。悲しみと、やり場のない怒りが湧きおこる彼女の膝の上で開かれた、焼き鳥の包み紙であった新聞紙。

ついに、寅子が新しい日本国憲法と出会う。

第一話のあの場面に帰ってきた……私は放送開始のあの日、ここでの寅子が流しているのは、嬉し涙だと思っていた。戦争を乗り越えて、日本はようやくこの憲法と出会うに至ったのだという法律家としての感動だと。

しかし違う。それよりも、もっと素朴で、もっと複雑な涙だった。押し殺してきた感情が出口を見つけて、夫の死に向き合い、ようやく泣けた。そして日本国憲法がまさに、夫・優三さんの言葉と重なるものだった。

あなたはあなたのままで、生きていい。

基本的人権の尊重とは、まさにこういう意味ではないか。
そして私は、寅子の回想の中の優三さんの

「僕の大好きな、あの……何かに無我夢中な寅ちゃんの顔をして」

この台詞の「あの……」の間が大好きなのだ。優三が寅子の姿を思い描いている、その間だ。とても人間らしい呼吸、すぐ隣に存在する人の距離感を感じさせる。

ほぼ一分間、泣く伊藤沙莉を流し続けた44話のラスト。慟哭から顔を上げたとき、取り返せないものを受け入れて、未来を見る表情となっている。
つくづく凄いな、伊藤沙莉。
そして、よくぞこの表情をつぶさに撮り、そのまま流してくれました制作陣。

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ついに、寅子が立ち上がる。かつての彼女のようにキビキビと動き、まず取り掛かったのは新聞から日本国憲法を書き写すこと……
外では子らが遊ぶ。
そう、子ども達の未来のために動き始める。

家族会議を始める寅子に「なにかいいことがあった?なにか嬉しそうだけど」という花江ちゃん、娘はもう大丈夫だと微笑むはるさんも嬉しそうだ。

「これから私たちは、みんな平等なの。男も女も、人種も家柄も、何も関係ないの」
この台詞と共に現れる、法科女子部の仲間たち……女性ゆえに屈するほかなく、人種(民族)ゆえに学びの道を取り上げられ、家柄ゆえに個人として生きられなかった彼女たち。みな救われる道ができた、否、これからできるはずなのだ。

寅子が新しい憲法を知って、まず最初に解放するのが、男である直明(三山凌輝)というのがいい。そう、この憲法に救われるのは女だけじゃないからね、勿論。大学に戻りなさい、大好きな勉強をしなさい。

「僕は猪爪家の男として、この家の大黒柱にならなきゃ」
「そんなものならなくてもいいッ!!」

久しぶりだ……久しぶりに寅子のきっぱりした物言いが帰ってきた!

「ぼく……べんきょうしていいの?」

重い荷を肩から下ろされて、少年のような口調になる直明に泣いた。無理をして懸命に大人になっていたんだね。子どもであることを諦めて。学びたい子が学べる、子どもが子どもでいられる平和な世でありますように。

そして、これも第一話で私は勘違いしていた……寅子が荷物を持って向かった先は法曹会館。
初の出勤かと思っていたが、まさか裁判官として採用してくださいという押しかけだったとは。そして、桂場(松山ケンイチ)が手にして、まさに食べようとしていたのが『竹もと』のふかし芋だったとは。

ヒロインついに起つ。行け、寅子!!

(つづく)










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