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【光る君へ】ドラマレビュー第26回公開されました

クロワッサンオンライン 連載中、大河ドラマ「光る君へ」ドラマレビュー第26回公開されました!こちらからお読みいただけます↓

クロワッサンオンライン光る君へドラマレビュー26回

レビュー内で触れましたが、長徳4年の朝廷内の様子は藤原行成(ドラマでは渡辺大知)の日記『権記』で読むと、疫病だの災害だので、しっちゃかめっちゃかであったことが伺えます。
『日本紀略』に記された、5月から発生した疫病ー赤疱瘡(あかもがさ/症状から麻疹、はしかとされる)が都全体、朝廷内にも蔓延っていました。25話で描かれた7月8日の女院・詮子(ドラマでは吉田羊)への病気見舞い以外に、行成はあちらこちらにお見舞いに行っています。その合間に帝と重臣たちとの伝達だのお使いだの。疫病によるものか、次々と亡くなる殿上人たち。
7月12日の朝には行成自身具合が悪いのに、帝からの仰せで左大臣・道長(ドラマでは柄本佑)をお見舞い。このとき道長も体調不良でした。

翌13日は、行成は完全に参ってしまい、それでも帝に奏上しなければならない案件をメモしています。……熱で苦しんでいるのに。ものすごく真面目な人柄が察せられ泣いちゃう。
そのなかで、病気が流行して帝の周りに仕える人たちが誰も出勤できていない状況が書かれています。

14日に寝込んでいる行成宅に内裏から使いが来て「誰も出勤してきていない(病気だから)」という連絡……行成が道長に事情を告げ「急遽、スタッフを補充せねば!」と人員配置を検討しました。
道長からは「この人とこの人は急に仕事を頼んでも大丈夫なはず。しかもこの疫病に罹って完治したようだから」などの返事があり、相談して内裏のピンチをなんとかしようと必死な様子が伝わる日記が残されているのです。

コロナ禍を経験した私たちとしては、いやそれでなくともインフルエンザ大流行期などで覚えがある、病欠でシフトが回らない状態……ますます泣いちゃう。行成自身は連日苦しんだ末、7月18日に熱が下がり回復したようです。よかった。

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で、ここで思うのが、ドラマと史実の違いについて。
大河ドラマ『光る君へ』25話では職御曹司(しきのみぞうし)にいる中宮・定子(高畑充希)のもとに、一条帝(塩野瑛久)が入り浸っているので政が滞り、鴨川の堤防が決壊した……という物語になっていましたが、実際には機能不全はそこが原因じゃないという点ですね。

なぜ敢えて史実を無視してまで、この描写を入れてきたのかなあとずっと考えていたのです。ヒロイン・まひろ(吉高由里子)の相手役、道長(柄本佑)を善人に描きたいからという意図ではない気がします。少なくとも、26話で「中宮様の出産に娘・彰子(見上愛)の入内をぶつけよう」という発想は、善人のものではありません。

それならば、なんのためか。ここで注目したのは、この作品の主人公が紫式部ということ。彼女は当然、いずれ『源氏物語』を書きます。第一章に当たる『桐壺』は「いずれの御時にか……(どの帝の御代とは、はっきりとは申せませんけれど)」帝が政治的後ろ盾のない更衣を深く寵愛する場面から始まることは、あまりにも有名ですよね。殿上人たちは「唐の国でも、こうしたことで国が乱れたそうだよ。ほら、楊貴妃の例があるからね」と噂しあった。そうした悪評のなかで、更衣は帝の深いご寵愛だけを頼みに日々を過ごしていた……と続きます。

26話で、倫子(黒木華)が中宮を「したたかな御方」といい実資(秋山竜次)は「傾国の中宮」と称した。傾国の妃、つまり楊貴妃ですね。これらの台詞は「いずれこの部分が『源氏物語』のエピソード1、『桐壺』となりますよ!」というメッセージのはずです。

まひろはいずれ紫式部となり『源氏物語』を書く。そのとき、だれがこの作品を読むのか。相手役の道長と紫式部の主人である彰子をのぞけば、一条帝でしょう。あきらかに自分と定子がモデルであろう『桐壺』を読んで、このドラマの帝が抱く感情は、怒りか。それとも、過ぎし愛の記憶がもたらす痛みか。
想像すると、ちょっとワクワクしてきませんか?
今回の『光る君へ』一条帝の「職御曹司入り浸り事件」は、フィクションである大河ドラマの中での、布石として打たれたものかと思います。

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しかし、こうしたフィクション上の人物像は、時に罪作りです。面白い作品には、これが本当のことだと信じ込ませてしまう力もある。司馬遼太郎の小説であるとか、古くは『平家物語』などでもそうしたイメージの刷り込みはありました。

ここからは映像作品としての大河ドラマの強みだと思っているのですけれど、では一条帝と定子は暗愚な帝と悪女に見えるかと言えば、必ずしもそうではない。もともと賢いのに、少年時代から愛した女性を守ろうと必死になるあまり誤った選択をした男性。両親を失い家を失い、頼みの兄弟は政治的実権を失い、帝の愛以外は何もない女性。
非常に魅力的です。

歴史上の事実としての、このふたりの行く先を知っているのに目が離せない。これが大河ドラマの魅力、そして『光る君へ』の巧さだと思っています。

27話ではどうなるのか。放送が楽しみです。

(つづく)



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