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虎に翼 第42話

寅子(伊藤沙莉)と直明(三山凌輝)がマッチのラベル貼りと箱詰めの仕事。なんでもやって生きていかねばならないのは当然だけれど、優秀な若者が進学を諦めて勤しむのがこれか……という思いが強くなる。

年が明けても優三(仲野太賀)は帰ってこず。

「寅ちゃん。もっと優三さんの話をしてもいいのよ。写真も飾っていいの。すぐにこう言ってあげられなくてごめんね」

ああ。花江ちゃん(森田望智)……ずっと胸を痛めていたんだろうなあ。直道(上川周作)の戦死公報が届いてから、優三の話を寅子が控えているのも写真を片づけているのも気づいていても、気を遣わないでくれとは言えなくて。そんな自分の思いにも、悩んでいたんだろうな。
戦争さえなければ、抱えることのなかった思い煩い。それでも「ごめんね」と言える花江ちゃん、立派だよ。

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ラジオから帝大入学のニュース。昭和21年は東京帝国大学に初めて女子学生が入学した年だが、寅子はそこに関心を示す様子はない。あくまでも、弟・直明が入ることができなかったという大学という点にのみ反応する。

枯れちゃったのかい、寅子。優三さんが帰ってこないかぎり、君は君自身だけでなく、他の女性たちのために開かれる門戸についても見ないままなのかい。寂しく思うが、大切な人の安否がわからないまま待つ思い、そして困窮が彼女の目と耳を覆ってしまうのは理解できるのだ。

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岡山から東京への汽車賃のために本を売っても一冊だけは手元に残しておいた直明は、ただひたすらに学ぶことが好きな若者。

実家の旅館で隠れるようにして本を読んでいた、はるさん(石田ゆり子)の子だな……と思う。そして、寅子も同じなのだ。

学ぶ喜びを知っている。
そして同時に、その喜びを手放す悔しさと悲しみも知っている。

弟に自分と、そして仲間たちと同じ思いをさせてよいのか。
それが彼女に、復活への最初の一歩を踏み出させる。
いわば、あの日の仲間たちの涙が寅子の手を取り、立ち上がらせたのと同じなのだ。

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弟を大学に行かせるためには自分が持っている弁護士資格を使うしかないわけだが、かつての職場・雲野先生(塚地武雅)の事務所も人を雇う余裕はない。もともと、儲けとは縁遠い仕事ぶりであったとはいえ……日本全国、皆が貧しく誰も彼もが余裕はなかった時期である。

寅子復活まで、道は遠いなーーーーーと天を仰いだら、直言(岡部たかし)が倒れた拍子に、写真立の中から出てきた……

優三の戦死公報。直道の「戦死」とちがい「戦病死」。しかも亡くなったのは昭和21年4月23日、遼寧省……終戦後の引き揚げの進捗と現地での日本人の扱いは、各地で大きな差があった。旧満州はソ連軍が撤退するまで引き揚げについては全く手つかずで、本格的に始まったのはソ連軍がいなくなった後、昭和21年5月からだ。優三さんの戦病死は「間に合わなかった」という印象が強い。

いや、それよりも。
戦死公報の日付は4月30日だから、初夏から秋まで優三の戦病死を隠していた直言に、朝から一体どういう感情を抱いてよいのだ。こんな終わり方ある!?という42話だった。

(つづく)



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