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虎に翼 第33話

冒頭、昭和15年9月。日独伊三国同盟が成ったことが、ラジオと新聞で示される。日本の立場としては、既に日中戦争で消耗しており更に中華民国を支援する米・英と対立するなか、独・伊と手を結んで米・英を牽制しつつ日中戦争を有利に運ぶ意図があった。何度も繰り返し描写されているが、日本は既に戦争真っただ中である。そしてまだ太平洋戦争は始まっていない。

32話では「御時世柄 品数を減らしてをります」の貼り紙をしていた『竹もと』が、今度は厨房から鍋類を出して風呂敷に包む支度をしている。
昭和13年施行の国家総動員法以降、金属類の任意供出が呼びかけられていたことは31話で猪爪家に流れるラジオからも示されていたが、昭和16年には改めて金属類回収令が独立して制定、公布された。
この時点で、既に世の中はギリギリ瀬戸際で回っている感がある。

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麦わらのルフィを喉に住まわせた女中、稲さん(田中真弓)が
「ご時世柄、これからは贅沢もできないようですし、私も年ですし……」と新潟に帰ることになり、お別れのご挨拶に来た。

「寅子(伊藤沙莉)さん、全ては手に入らないものですよ」「いまお抱えになっているものが、女の幸せより大事なものなのかどうか」

稲さんの考え方は、戦後も長く残っていたかと思う。職業に就く女性が当たり前になっても、全ては手に入らないものだという認識がそれまで一般的だったからこそ1980年代後半~90年代前半のトレンディドラマで「恋も、仕事も!」という女性の姿が新しい、かっこいいものとして描かれていたのだ。

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昭和16年の9月。前話から一年以上経って、まだ寅子は片っ端から依頼人に断られている。女性にすら断られる。32話の感想 でも触れたが、雲野先生(塚地武雅)は何故に新人の寅子に1人で当たらせようとするのか。最初は雲野先生あるいは岩居先生(趙珉和)がフォロー&サポートで横について、とはならないのか。そして、寅子も断る依頼人に「はて?」と出ないのはなぜだ。断られ続けてすっかり弱気、 自信喪失してしまっているのか。無理もないけど。

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日本で初めて法廷に立った久保田先輩(小林涼子)。法服姿の久保田先輩をチヤホヤする報道陣と、法廷での笑い声に「客寄せパンダ」という言葉が頭を過った。腹立たしいが、久保田先輩は口述試験に落ちた経験を活かし、合格した人である。甚だ不条理だとは思いつつも、とにかくこの社会を変えるため、自分が変えられるポジションに就くため……膝を地に着ける必要があるなら跪くと決めたのだろう。
今わたしたちが暮らす世の中は、そうして時に跪いてでも道を拓いた先達によって出来ている。

「男どもは徴兵されて、どんどん戦争に行く。社会機能を維持してゆくためには、これから女性がさまざまな役割を担わなければならなくなる。挙国一致の総動員体制。ハハハ」

と笑う新聞記者・竹中(高橋努)。その笑いは半ばヤケクソだ。国を回してゆくために駆り出される、男も女も。なんだか、供出の鍋や釜を連想する。

産めよ殖やせよの方針通り結婚して妊娠中、そして男性が足りない分を補う存在としての女性弁護士……久保田先輩のデビューを祝いたいのに、なんだこのしょっぱい気持ちは。くそっ。

ところで、中山先輩(安藤輪子)も久保田先輩も、同じ中山姓・久保田姓の男性と結婚したんだろうなと思ってるんだけど、どうなんでしょ。職場での旧姓使用って、戦前はあったんでしょうか。
(※追記)
中山先輩も久保田先輩も、婿養子を取ったのだ。
そりゃそうだ、失礼いたしました。

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観ている私と同じく、しょっぱい気分になっちゃったらしい寅子・轟・よね(土居志央梨)の前に現れた、花岡(岩田剛典)とその美しき婚約者・奈津子さん(古畑奈和)。

あーーーーーーーーーーー
そっかぁーーーーーーーー

とテレビの前で叫んだ。文字で大声出してしまって失礼。
彼が佐賀に帰ってから、1年以上経ってる。そして父の知り合いの紹介で……ということは、花岡のお父上は、息子が東京で立派に裁判官となり帰郷するということで、がっちり準備してらしたんでしょう。
「倅が戻って参ります。よいお嬢さんがいらしたらご紹介願えませんか」と、周りに頼んでいらしたんでしょう。息子から将来を約束した女性を連れて帰ります、という話が出なければ、そりゃそうだ。

伏し目がちなおしとやかそうな、寅子とは真逆の女性……。
花岡を責めるような視線の轟とよね、笑顔でようやく言葉をかけられた寅子の「花岡さん。ご婚約、おめでとうございます」。
それに安心したように立ち去るんじゃないよ、花岡。轟にも婚約を報せてなかったということは、絶対なにか言われると思ったんだろうよ、花岡。
それでいいのか、花岡。いや良いとせねば、この選択を最良のものとせねば、奈津子さんが気の毒だよな……。

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両親に見合い相手を探してほしいという寅子の

「心底くだらないとは思いますが、結婚しているかしていないかということを、人間の信頼度を測る物差しとお使いになる方々が非っっ常に多いということを」
「立派な弁護士になるために社会的信頼度、地位を上げる手段として、私は結婚がしたいんです」

これもまた、それでいいのか寅子……とは思うが、しかし、結局はそういうことである。男性も結婚していないと出世に響くなどは、結構最近まで……平成初期くらいまでは残っていたのではないか。
そしてその理由はともかく、生涯を支え合う相手は必要ですと力強く言う、はるさん(石田ゆり子)に安心する。彼女にとって子の結婚は、世間体云々じゃないんですよね。

心から愛してくれる両親……直言(岡部たかし)とはるさんがいるということは、本作のヒロインが一番恵まれている点だよなあ。

(つづく)




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