素直にかぶってみた~フルウィッグ事始め~
45歳を過ぎたあたりから、なんだか気になり始めてはいた。
なにがって、髪の話である。
最初におや?となったのは朝のヘアセットの時であったと思う。なんとなく、前髪の形がつけにくくなっている。いつものブローでうまくいかない。なぜだろうなと首を傾げていた当時の私は、これが老化現象などとは夢にも考えていなかったのだ。
そこからはじまって年々薄々気づいてはいたが、完全に思い知らされたのは今年。忙しくて美容院に行けず、前髪が長くなったので昔と同じようにオールバックにした時点で。……もともと顔は大きいほうだったけれど、私こんなにもオデコ広かったかしら…?というか、生え際が若い頃の父そっくりだ。父は私が幼い頃から頭髪が薄く、50代ではオデコから頭頂部にかけてツルツルであった。兄は父に似たので早い段階で坊主頭にして、薄毛が目立たぬよう対策を取っていた。私は生来頭髪がひとよりも多いほうであったこともあり、男性は大変だなあと他人事に感じていたのだが、そうか。父の薄毛の遺伝は異性である自分にも影響するのか。
強いね遺伝子!そしてこれが老化!!
今後の選択肢
はっきりと悟ったところで、この先を思案した。
①諦める
②育毛に努める
③ウィッグ
①、諦めてもいいっちゃいいけれども、私はお出かけもお洒落も好きなのだ。いざ出かけるとなった際に髪がいまいち決まらない、思い通りのスタイルにならないのは嫌だ。QOLが著しく下がる。
②、これについては、若き日の父の努力を散々目にしている。ありとあらゆる育毛剤が洗面所の棚にならび、朝夕に頭皮をブラシでトントンして刺激していたし、微弱な電気を頭に流して発毛を促すというサービスも利用していた。が、結果はあの通りである。いくらか効果はあったかもしれないが、脱毛のスピードには抗いようがなかった。それを知っているからこそ、兄も早々に諦めて坊主にしたのかもしれない。
③、①と②を鑑みるとこれが一番手っ取り早い気がする。身近な高齢のご婦人では愛用している方が何人かいらして、そうした姿は見慣れている。デビューが少々早いくらいなんでもなかろう。もう素直にかぶってみることにした。
初・ウィッグを注文する
そうと決めたら善は急げと、百貨店内にあるウィッグ専門店に予約を取った。今までCMや雑誌の広告などでちらちら目にしていたが、ウィッグとじっくり向き合って見るのは初めてだ。なるほど、前髪のみのもの、トップにボリュームを作るもの、頭全体を覆うフルウィッグ、ユーザーのお悩みや希望に合わせて種類さまざま。
ここに来るまでに私はなりたい姿を決めておいた。それに沿い、店員さんにオーダーをする。
「自然にとか、目立たずとかでなくて結構です。イメージとしてはタレントのIKKOさん。ウィッグを被っていると見てわかる、しかしメイクやファッション全体でバランスが取れるようにしたい。私は着物を着ますので、その時にも使えるようなものがいいです」
このオーダーをするために、メイクも服も選んで装ってきた。これに似合う髪にしたいのだと。店員さんは頷き、それならばやはりフルウィッグですよねと幾つか出してきてくれた。カーテンで仕切られ外からは見えないブースの中で鏡の前に座り、次々とかぶせてもらう。これが一番お似合いになると思いますと店員さんが仰るものは、実際自分でもよく似合うと頷けた。
決めたあとは私の頭にきちんとフィットするよう、留め具を増やしたりアジャスターを伸ばしたり、そして前髪やサイドの髪を切って形を整えたりの微調整をしてくれる。できあがりまで1時間くらいかかるとのことなので、百貨店をぶらぶらして過ごした。
調整後のウィッグはまさに私にぴったりで、大満足である。その後、装着練習を何度かしてみる。かぶる為に要する時間はその時点で3分程度。慣れればもっと早くなるそうだ。お手入れは10回使用に1度、自宅でシャンプー。お店で数か月に一度チェックをしてもらいメンテナンス。購入後半年は無料メンテンスサービスがつくという。そして、毎日使うかどうかで変わってくるが、耐用年数は3年程度とのことだった。
価格は25万円弱だ。ウィッグがあればヘアカラーやパーマを施す頻度は低くなるであろうから、それに満足感というプラスアルファ、この金額は見合う気がする。
かぶってみたあとの周囲の反応
夫は私の外見については全く言及しない配偶者で、ウィッグを作ったこともそれを被って一緒に出掛けることについてもノーコメント、普段通りである。とても気が楽。
友人たちの反応がとにかく面白かった。待ち合わせ場所に現れても、こちらから声をかけるまでは私と気づかないのである。そして気づいた後は「えーっ!?」と驚き、大喜び大笑いし、フルウィッグだと告げると興味津々で色々と訊ねる。お世辞を言わない、そして褒めるときは思い切り褒めるという点で信頼できる友人が「10歳は若返って見える、それ以上に綺麗になった」とべた褒めしてくれるので大変嬉しい。
それにしても親しい友人さえ、一瞬誰だかわからないくらいなのだ。私は普段着の時はウィッグを着けていないので、挨拶程度のご近所の人では装った時の私を見ても別人だと思い込むのではないか。過去、指名手配された女が美容整形を繰り返して逃げ続けた事件があったが、案外ウィッグを次々と変える、或いは外して過ごすなりすれば別人になりすませるのではないだろうかと、ちょっと物騒なことを考えたりする。
それも含めて、ウィッグを着けて外出する時は高揚するのだ。
デメリット
デメリットはやはり価格であろうか。経年劣化で買い替えるのもおおごとである。大切に使う、私のようにお出かけ時のみ使用ならある程度は先延ばしにできるだろうが、プロによる定期的なメンテナンスは必要だ。
そのメンテナンス、購入した近くの店が閉店してしまったので同じ系列の別の店に電車を乗り継いで通っているという人の話も聞く。
そして頭をすっぽり覆うので、通気性のよいメッシュ素材であるとはいえ、夏場は暑い。そして帽子が被れない。春と秋が消えつつあり、やたらと高温多湿で強烈な日差しの季節が長くなった昨今、空調が効いた屋内のみのお洒落に限定されるアイテムだ。
しかしやっぱり買ってよかった
結論はこれだ。フルウィッグ、買ってよかった(この記事、そういった会社からはPR依頼を受けていない、個人の感想だ)お洒落の楽しさが再燃している。変身の喜びまでついてくるとは思わなかった。
装着も慣れて、1分以内にヘアセット完了だ。
同居の義母は近所の店でトップのボリュームを出すタイプの部分ウィッグを購入し、毎日着けている。お値打ちなものだそうだが、気楽な普段着に似合う自然な髪型。あれはあれで、とてもよい。ウィッグは我々年齢を重ねた女性の強い味方、魔法のアイテムである。
了