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虎に翼 第54話

「その名前で呼ばないで」

ヒャンちゃん(ハ・ヨンス)に寅子(伊藤沙莉)との再会の喜びはなく、はっきりとした拒絶が返ってきた。はるさん(石田ゆり子)は、ヒャンちゃん……いや、香子の態度に理解を示した。

「ご結婚されたんでしょう。あなたの同僚(汐見/平埜生成)と」「私も直言さん(岡部たかし)と一緒になるとき、故郷の友人と縁を切りました。生きていれば色々ありますよ」

直言との結婚は、実家の旅館の利となる結婚相手をというはるさんの親の願いとは、かけ離れたものだったから……当時の感覚では、周囲からはとんでもない親不孝と映ったかもしれない。友人と絶好してしまう事態はありうる。
生きていれば色々ある……それがしみじみわかるのは、ある程度年を取ってからだ。

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汐見から香子とのこれまでの話を、寅子と共に聞く。日本人の汐見と朝鮮人の香子との結婚が、双方の家族から猛反対を受けた理由は想像に難くない。
そして、ヒャンちゃんが「汐見香子」を名乗り生きていくと決めたわけも。

「とやかく言う人もいるからね」

情けないが、今でもそんな人はいる。だから想像がついてしまうのだ。

「香子ちゃん、お醤油貸してくれる?」と訪ねてくる隣人と話す香子は明るい笑顔で、法科女子部の頃と変わらないように見える。
汐見香子と名乗ることで昔通り振舞えるのなら、その選択は非難されるようなものではないのだろう。

ただ、いち視聴者としては、まだわからないことがある。寅子へのそっけない態度……というよりも、冒頭に述べたとおり接触自体を拒絶しているような振る舞いは、寅子がチェ・ヒャンスクとしての過去を知っているからというだけなのか。名前と過去については旧友として頼めば、寅子は尊重してくれると思うのだが。

もしかしたら香子は、寅子に「それは逃げだ、偏見と戦うべきだ」と説得されることを恐れているのだろうか。

まだわからない。これから物語が進めば、香子の口から語られるのかもしれない。

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「どうするか決める権利は、すべて香子ちゃんにある」
「この国に沁みついている香子ちゃんへの偏見を糺す力が、佐田君にあるのか。ないだろ。だったら黙っていろ」

多岐川(滝藤賢一)の言葉は間違ってはいない。寅子には今やるべきことがある。
ただ、友人のために何かできることはないかという気持ちを持ち続け、求められたらすぐに動けるように備えること自体は否定されるものではない。

「助けてほしくても、そう言えない人もいるんじゃないでしょうか」

弁護士時代にそんな経験をした寅子だから、友人が同じように苦しんでいるのではと案じるのだ。

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亡き花岡(岩田剛典)の妻・奈津子さん(古畑奈和)に

「花岡さんが苦しんでいることに気づけなくて、ごめんなさい。気づいていたら、なにか変わったかもしれないのに」

と頭を下げる寅子にギョッとした。自分の夫と、もしかしたら結婚していたかもという女性にこう言われたら、おこがましいにも程があると腹を立てるかもしれない。

「家族に何を言っても駄目だったの。もし周りが説得して折れていたら、妬いちゃうわ」

これで受け流す奈津子さん、とても素敵なレディだ。花岡、従順な良妻賢母的女性を選んだというわけではなかったのか……

「お互い頑張りましょうね。子どもたちのために」

お互い寡婦として、そして子どもたちが育つ社会を形作る大人として。二つの意味を持つ言葉だ。
一体、なにができるのだろう。

そして桂場(松山ケンイチ)の言う、純度の違い正論とは。

(つづく)


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