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誰がそこまで見せろて言うた

テレビを14年ぶりに買い替えた。
14年前にアナログテレビからデジタルに買い替えた時は、その映像の鮮やかさに驚いたものだったが、人間は慣れるから毎日見ていれば当然驚きはなくなる。
新鮮な感動は失せたものの、映像には特に不満なく過ごしてきた。

しかし近ごろ少々テレビの調子が悪くなり、そして毎週楽しみに視聴してきたNHKBSプレミアムの大河ドラマ再放送がBS4Kにお引越しとなって、仕方なく4Kテレビに買い替えることにしたのだ。

噂には聞いていたし家電量販店の店頭でも確認したが、新型テレビの映像は素晴らしい。野生動物の生態を追ったドキュメントなどは、森林の木々の枝と生い茂る葉、それらが作り出す緑の影。
うっそうとした密林の香りまで漂ってくるような臨場感だ。
違いを確認したくて、今まで何度も繰り返し観た映画作品を再生してみた。

おお、すごい迫力と奥行きだ。少し明るすぎるきらいはあるが、色調などの設定で調整できる。満足満足…と思ったが、物語が進むにつれて気になる点が出てきた。私の大好きな俳優の顔がアップになるたびに、口の中の歯一本いっぽんまで鮮明に映る。当然、彼の歯は綺麗に磨かれている。が、なんと言ったらいいのだろう。いわゆる着色汚れというのか、くすんでいるのが大画面ではっきりと見える。
別にくすんでいたっていいのだ、人間だもの。
歯のホワイトニングケアが普及する前の時代の作品である。俳優の歯にちょっと色みがあるからといって、面白さが損なわれるなんてこたぁある筈がない、気にするほうがおかしいのだ。

そう自分に言い聞かせながら視聴していたが、一度気になり始めたら止まらない。今まで見えていなかった歯の色が見えてしまったら、毛穴やら吹き出物の跡やらにまで目に留まってしまう。そこに目を留める自分自身に腹が立つ。
誰がそこまで見せろて言うた。

技術の進歩と革新は人類を必ずしも幸せにしないのだ…と、よく見聞きする文句を呟きながらテレビを消そうとしてリモコンを手に取ると、また設定ボタンが目に入った。そこから「シネマモード」を選択してみたら、見慣れた画質、見慣れた彼の顔に若干だが近づいた。
そうか…最先端技術で全てあけすけな画面を見るか、最先端技術がありながら敢えてかつての画面を見るか。選択肢が増えたということか。

私みたいな旧タイプの人間にとって、宝の持ち腐れなのは間違いない。
テレビを消した。

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