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名古屋旅行記(一部訂正)

1.第2回風来坊納会とはなんなのか

「ぬえさんも来る?」
一言発せられたその言葉はぼくへ向けられたものだ。聞けば名古屋でオフ会をするという。これだけ伝えるとまるでぼくという人間がしょっちゅうオフ会に行ってるように思われるかもしれないが、マストドンというSNSでは一度も行ったことがない。人生では数回あるものの、家庭を持つことでそこからは遠のいていた。

前述の言葉をかけられたのは某discordサーバーだ。普段から夜な夜な皆でゲームをしながらダラダラするサーバー。少し迷ったが妻に確認を取って行くことにした。

いつのまにかサーバーにはスレッドが立てられ、「第2回風来坊納会」と題されたそのオフ会は少しずつではあるが形を成していく。そして、初めこそ4人であったが、蓋を開けてみれば11人まで参加者は膨らんだのであった。

ぼくはあまりマストドンというコミュニティを知らない。正確には誰がどうであるとか、誰と誰がなんであるとか、そういうものに興味がないのでいまいちピンと来なかったが、メンツがメンツだけに少し不安という声も上がった。不安の種はユーザー間のトラブルだとかそういうことではない。単純に楽しすぎてはっちゃけた結果警察沙汰や救急沙汰になるのではないかという、ある面ではプラスとも取れる不安。

しかしこの一抹の不安はあることにより消滅する。

2.ぬえ、名古屋着弾

オフ会の前日。いそいそと支度をし、昼過ぎに高速バスのバス停へ向かう。北陸から東海へ。新幹線で行くと乗り換えも含め概ね5時間かかる。しかし高速バスで向かっても7時間だ。だったら安くて直通のバスにしようということで腰を労ることをせずバスにしたのだった。
バスへ乗り込もうとすると引き止められた。
「すみません、ご予約のお席を交換していただけますでしょうか。お隣のお客様と後ろのお客様がお知り合いのようで…」
こちらは1人だ。快く引き受けよう。交代した席の隣のは席からはみ出すほど豊満な身体をお持ちになったマダムだった。しかも変更した席の知り合いだという人物はその席の面を思いっきりカーテンで分断していた。替わらなくても何も変わらなかったのではないか、そんな風に思ったが、持ってきていたSwitchでメダロット3をすることにした。

気がつけば風景は流れ、昔この目でよく見た名古屋の雰囲気を纏っていた。

時刻は22時を回っていたが、ぼくは宿など取っているわけもなく、漫喫を満喫した。

着弾直後に撮ったツインタワーと思われる写真

3.約束の地 エスカ喫煙所

事前に取り決めたスケジュールでは11:45に金時計で11人が一堂に会するとのことだ。それまでは各自ホームのきしめんを啜ったりするそうだった。ぼくもきしめんを食べようと考え、なんの気なしに名駅へ向かう。これは過ちであった。

時は遡り、ぼくがまだ学生をしていた頃。模試を受けるために訪れた京都駅。ぼくは半泣きでトイレへ逃げ、イヤホンを耳に詰め、音量を最大にしてSlipknotのPsychosocialを聴いた。
友達と来れば平気だった人混みが、1人で来るだけでものすごく怖いものに変わっていた。そのあとからは友達と居ても当分の間人混みが苦手になった。

大人になった今そんなもの気にもかけなかったがダメだった。長期間田舎へ投じたこの身は耐性が薄くなっていた。気持ち悪くなってしまい、食欲が失せた。

フラフラと人の少ない方へ向かう。喫煙所がない。もうタバコへ逃げるしかないのに吸える場所がない。GoogleMapに助けを求めるとエスカにあるという。そういえばお昼はエスカの風来坊へ行くと言っていたな。じゃあその近くなら良いだろう。ペタペタと重くなった足で前へ前へ進むと150mほど先に喫煙所のマークが見えた。この時の視力はたぶん両目で4.0くらいあったように思う。

死に物狂いでたどり着いたそこでマストドンを開くと、数人が続々と到着しているという。そしてぼくのトゥートから居場所を特定された。ふと耳につけていたイヤホンを外すと明瞭な声がこう言っていた。

「あれじゃね?」

プライベートで職場の先輩や学校の友達に会った時、なんとなく気まずくなる。言ってしまえば職場の先輩でも学校の友達でもない、ネットの海で言葉の羅列を交わすだけの知らん他人に認知されているという恐怖に耐えかねて無視した。もちろん互いに気付いているし、なんなら3人のうちの1人にガン見されてた。3人はスタスタと通り過ぎ、角を曲がった。「風来坊ここかぁ」なんて言葉が聞こえた時、ぼくは荷物を担いで走って逃げた。

振り切ったぼくは水を買いに行った。落ち着いてSNSの投稿を確認するとコメダにいるとのことだった。心の準備が必要だった。突然目の前に現れた知らないのに知ってる奴に会うためには不可欠だった。

整理ができたのであとは大丈夫だった。いつも聞いている声や言葉選び、あぁ、知ってる奴だ。知らんのに知ってる奴に会うというこの感じを懐かしいとも思ったりした。

その後は続々と人は集まり、いわば"よくdiscordにいるやかましい奴"らが集まったのだ。この時点で6人と合流したが、残り4人は"金時計"の集合と伝えてある。名駅を知っている人ならわかると思うが、エスカと金時計は駅を跨ぐように真逆に存在する。ぼくが身を捩りながら喫煙所を求めたがために一度真反対へ歩かざるを得なかった。

金時計ではゴミゴミとした人の波の中であったが、ふざけていても意外とすんなり集合できてしまった。そしてぼくらはまたエスカへと戻って行くのだ。ごめん。

エスカの喫煙所

4.11人の風来坊

そもそもこのオフ会に題されたのは第2回風来坊納会であった。最も早く決まったそうだ。風来坊を食べるということが。スケジュールでは12:00に風来坊となっていた。ちなみに風来坊エスカ店は予約ができない。今から考えたら予約なしにお昼時に11人で押し寄せるってある意味暴力のような気がする。店員さんに11人で来たと伝えると「11人!?」と仰け反るような声を発していたのでやはり暴力だと思う。

結局4-4-3で分けて案内してもらえることになった。そらそうだ。

さて、ここ名古屋といえば手羽先であるが、手羽先というと「世界の山ちゃん」が先に挙がる人の方が多いかもしれない。その対を成すかのような人気を誇るのが風来坊だ。
山ちゃんはタレの効いたテリテリの手羽先だが、風来坊はカリカリの衣に塩胡椒がかかり、あっさりとした印象を残す。カラッと揚げられスパイスを振られたアッツアツの手羽先をチュルンと1本口に頬張り流し込むビールが格別なのだ。止まらねぇ、いや止まれねぇ。美味い肉と脂と衣が胃の壁に沁みていくのを身体が感じている。少し濃いめに染まった口の中はビールが洗い流してくれる。こんなの止まれねぇだろ。な?
また、メニューには鶏皮餃子や名古屋コーチンの卵かけご飯など名前だけで味を約束された強豪が控えているため飽きることなく胃袋を幸福で満たしてくれる。思い出したら腹減ってきた。
この時点で参加したことが間違いではなかったと確信した。

風来坊の手羽先

ちなみにこの時1人の人間の懐疑心を大いに深めてしまうトラップを仕込み、そしてそのトラップに見事に嵌めた。

タバコにアメリカンスピリットという銘柄がある。その中のペリックという種類は昨年製造が終了となり、敢えなくこの世から姿を消し行く存在となった。しかしぼくはそのうちの1箱を未開封のまま持っており、吸いたいというのでその人にあげる約束を交わしていた。
実はぼくはもう一つ同じ箱を持っていた。以前吸い尽くした空箱だ。この空箱にライトという種類を詰めて、さもそれがペリックかのように渡したのである。これがトラップ。
あげた直後、端から見てもわかる「なんか違う」という顔をしたので、これはバレたか?と思っていた。

「うめぇ……」

この一言を聞くためだけにこのめんどくさいトラップを仕掛けて良かったとすら思った。ひと足先に風来坊の席へ戻り、ニッコニコ待ってから「実はあれはライトでした」と打ち明けた時の彼の顔をぼくはたぶん忘れることができないと思う。

何も信用できなくなった人間の顔は一種の恐怖すら与える。悪いことをしたなとも思ったが、その後しこたまペリックをあげたのでチャラでいいと思う。
チャラでいい?

5.P.M.3:00 スポッチャにて

風来坊を後にした11人はこのフェーズで既にニコニコと満足気な面をしていたように思う。

さて、このオフ会、風来坊という目的1つのために集まったわけではない。サウナも1つの大きな目標だった。そのサウナを楽しむためにぼくらには何ができるのか。「身体を動かしたいね」幾度か今オフ会以前に話し合った中で誰かがそう言った。風来坊と晩ごはんの間の数時間の間、我々には暇つぶしも必要であった。

半分ボケ半分本気、そんな気持ちで言ったスポッチャが採用されていた。

名駅とスポッチャ間で無料のシャトルバスが出ていた。1時間間隔。微妙に遅れると厄介な時間だった。11人の笑顔のおっさんたちは小雨の中小走りで小型バスへ乗り込むのであった。

30分ほど走るとスポッチャへ到着する。悲しいかな若人の姿が大変に多かったがそらここスポッチャだもんななんて思ったりもした。

中に入ると楽しい楽しい遊び場が広がっていた。スポッチャも団体で予約をしていたのだが、予約の段階で団体名を記入せねばならず、なんとなく「ヤマダヒサシ歓迎会」にしてしまったため、以後このオフ会は「第2回風来坊納会」改め「ヤマダヒサシ歓迎会」となった。さて、この辺りはただ単に遊んでいただけなので内容は割愛するが、スケートリンクでわちゃわちゃしたり、3on3をして10分も経ってないのにゼーハー言ったり、キャッチボールで肩壊す人がいたり、すごい微妙に古いゲーセンでギャーギャー言ったりした。

中でも一番"効果"を発揮したのはロデオマシーンであった。何の効果かというと、序盤で記した「一抹の不安」に対する効果だ。誰かが言った「全員1回はやれよ」という言葉。このグループ、平均で言うと大体30歳くらいの漢のみ。これを断ったら漢が廃るというもの。律儀にみんな1回はやった。
ロデオというのはやってみるのも良いのだが、人がやってるのを見てるのが一番面白い。最年少が盛大に吹っ飛ばされてめちゃくちゃウケてMVPと評されたのだった。
そして某マストドンの有名人は素材を振り撒いてくれていた。

みんな終わる頃には風来坊の直後の柔和な顔付きから運動会の親子参加型競技で走らされたお父さんみたいな顔になっていた。この絶妙な疲れが「楽しすぎてはっちゃける」を制してくれたため、このオフ会が本当に1mmのトラブルもなく終始和やかな雰囲気で終わったのだと本気で思っている。

6.味仙という名の深い傷跡

名古屋には味仙がある。味仙は50年以上名古屋という土地で愛されてきた台湾料理屋だそうだ。この「地元の人が美味いって言ってるんだから美味いんだろう」という、とりあえず行っておこう感満載のチョイスが我々11人、引いてはマストドンの一部界隈に深い傷跡を残すことになるとは考えてもいなかった。

疲労感、というか本当に疲弊してヨボヨボの11人はまだまだ肌寒い春の曇り空の下、帰りのシャトルバスを待っていた。時間を読み誤っており想定より長く待っていたのだが、不思議なもので11人もいると案外短く感じた。

なんなく名駅へ戻り、そのまま第2の目的地のサウナがある栄へ向かう。電車に乗るのすら久しぶりであったが、ここまでの大所帯だともう怖いものもないように思えた。サウナは宿泊もできるため、皆でチェックインした後、荷物を置いて台湾料理屋を目指す。歩いて10分程度。矢場味仙が姿を現した。店内に入った瞬間に全てを悟った。ここは絶対に美味い。11人が2つのテーブルに分かれる。各々がビールやコーラを頼み、味仙経験者は「青菜とコブクロをとりあえず頼め」としか言わなかった。飲み物が運ばれてくる。なんだかふわっとした乾杯を終える。瞬間、青菜とコブクロが運ばれてきた。

既に食べ尽くされたコブクロと青菜とあと何かわからない

この後からの記憶はもしかしたら何かに操作されているかもしれないので、これが合っているのかはわからない。

「うまっ!!!!!!!」
「なんだこれうめぇ!!!!」
「うわぁぁぁああああああ!!!」

口々に半分悲鳴みたいな声で「美味い」という単語しか発せられないバカどもが誕生した。刹那、目の前の青菜とコブクロが消える。間髪入れずに「青菜4!!コブクロ4!!!」という声が飛ぶ。1分も待ってない気がする。「オラァ来た!!食え!!食わなきゃ消えるぞ!!!!」縦横無尽に箸を持った手が伸びてきた。戦だ。戦場と化してしまった。運ばれてくる料理を大の大人6人で取り合うテーブル。ここが戦場(いくさば)だったのだ。

振り返ると静かに5人分取り分けるテーブルが目に入った。

「あっちめっちゃ静かやぞ」
「有閑マダムかお前らは」
「おい食ってんのか」
「今日は食うんだよ、どんどん頼んでどんどん食え」
「どうしたお前らスポッチャに金玉落としてきたんか」

わんぱくクソガキテーブルから汚いヤジが飛んでいく。

「頼んでるけど来ないんだよね」
「大丈夫、いっぱい頼んだよ」
「こっちはお酒が多いかもね」

ヤジに対してバファリンみたいな言葉が返ってきた。

「食ってんならいい!!どんどん食え!!!」

もうめちゃくちゃだったが、店内もうるさかったし、何よりも美味しかったし、全てが"良かった"のだ。誰かが言った「天国は名古屋にあった」という言葉は正しいのかもしれない。店員のテキトーな接客、周りで騒いでる他の客、ベランダにとってつけたみたいな喫煙所、ただただ美味ぇ料理と酒、形容するなら天国が最適解だ。

このままでは味仙の料理の何がいいのか全く伝わらないので、覚えてる限りで書こう。
まず何がここまで人をおかしくさせたかというと、先ほども書いた青菜炒めとコブクロだ。この二つがとにかく美味い。青菜炒めは青菜とニンニクとたぶん中華出汁か何かで炒めたような料理だが、ニンニクをふんだんに使ってるくせに妙に軽い口当たりのせいで無限に食えてしまう。とあるユーザーが「青菜は飲み物」とすら表現していた。その勢いでみんな食べてたし、気がつくと青菜炒めは消えているし、気がつくと誰かが頼んだせいで運ばれてくる。とにかく美味すぎる。
そしてコブクロ。これはいわゆるホルモンで、豚の子宮にあたる。これを辛味と酸味を絶妙なバランスで絡めて炒めてある(調べたところ、炒めるではなく、タレに漬け込んでいるらしい)。酒が好きな人はたぶん嫌いになれない。そしてこのコブクロの部分を食ったとしてもタレを流用できるのだ。例えばここに青菜炒めを絡めて食うと脳が消し飛んで以後2分くらいは「美味い」しか言葉を発せられなくなるし、餃子をこれにつけて食べると絶頂した後に脱力して死ぬ。前述のユーザーはまたも見事な形容をすることになる。

「脱法餃子だ!!」

既にわかっていただけたかと思うが、青菜とコブクロと餃子とビールだけで無限にループできるのだ。

当然このほかにもニンニクチャーハンだの茄子メシだのレバニラだの台湾ラーメンだの美味すぎて危険なメニューは多数存在するし、なんなら美味くないものが一つもなかった。挙句「ハーブ麺」などという暴れ狂った海を明鏡止水に一変させるめちゃくちゃ爽やかな変化球も持ち合わせてるのでもはや味仙に死角が存在しない。何もかもが"良すぎた"。

そう、味仙が"良すぎた"のだ。

7.We will could WellBe stiff.

疲れ果てたはずの身体が味仙から出る頃にはギンギンになっていた。名古屋高速の下を歩いている時なんてバカクソデカい声で

「いやぁあ!!!!美味かったなぁ!!!!!」

と言って「声が大きいよ」と有閑マダムテーブルサイドの方にお叱りを受けたくらいだ。

ダラダラと戻る先はサウナ。WellBe 栄店だ。サウナをメインに押し出したカプセルホテル。スポッチャも元々はサウナ入るしちょっと身体動かしたいね、なんていうところから始まっている。

とてもシンプルな作りで、通常のカプセルホテルのように地下やら屋上に浴場があるわけではなく、どちらかといえば銭湯やサウナにカプセルホテルがくっついているような感じ。当然サウナだけの利用もできる。ちなみに男性のみが利用できる。

雨のWellBe栄店

帰ってきたらもう自由。みんなに合わせる必要もない。みんな自由だった。サウナでキマッては冷水を浴びを繰り返している者、サクッと疲れを癒してゆったりとする者、筋肉痛が始まり身体がこわばってジジイみたいになっている者、様々だったが、なんだかんだレストランで軽く飲み直してふわっと解散した。

WellBeには高温サウナ、森のサウナの2種類の熱いサウナがあり、冷感サウナ、アイスサウナの2種類の冷たいサウナがある。外気浴が楽しめる湖のほとりなんて場所があったり、冷水も冷たいもの、ぬるいものが準備されていて、疲れた身体を癒すには良い場所だ。

中には喫煙所もあったので、サウナから上がった時、トラップを仕掛けた彼にはペリックを振る舞ったが疑われてしまった。

そしてみんな泥のように眠り、健康的な朝食を食べ、またサウナに入り、3人がここで離脱することになった。

8.神の宮の宮きしめん

メンツは8人になった。ともあれ、2日目の予定は何にも考えておらず流れ解散を想定していたため、どうするかを短く話し合うことにした。

話し合うことにしたのにずっとチンチンの話をするので「わかったから早よ決めようよ」と言ったら「熱田神宮に観光に行きたかった」という1人の言葉に名古屋有識者が「あそこには名駅ホームに並ぶ美味いきしめんがある」というので参拝のついでにきしめんを食べに行くことになった。

昨日のようなスケジュールもないため、割とダラダラと歩いていたように思う。栄から熱田神宮へ向かう。地下鉄も何となくこっちへ行けば大丈夫なんて方向感覚すらついてきた。

言わずと知れた熱田神宮は初詣くらいでしか来たことがないのでここまで人が少ないのは初めてだった。

本当に特筆することもないくらいダラダラとお参りをしてダラダラと移動してダラダラと宮きしめんを食べた。

宮きしめん定食

「このあとどうする?」

昨日のスポッチャ、味仙、サウナの後に熱田神宮まで歩いた我々にはもう体力は残っていなかった。1人は用事のため帰ると言うのでとりあえずみんなで名駅へ向かったが、結局5人が帰ることになり残りは3人だった。

もう身体もボロボロだし、とりあえず座りたいから喫茶店に入ろう。残った3人と言うのは普段のdiscordでもやかましい方の3人だ。が、この3人が割と普通の話を落ち着いてしていたので、たぶん本当に疲れていたんだなと今となっては思う。

タバコの吸える喫茶店。タバコを吹かしながら3人の頭の中にモヤモヤと浮かんでいるひとつの答えを誰かが言葉にした。

「俺はあいつらが悔しがってるところを見たいからもう一回味仙に行きたい。」

9.疼く傷跡

味仙に行く前の会話と行った後の会話では大きな差があった。20分に1回くらい味仙に関するワードが出てくるようになってしまっていた。脳が味仙を欲している。今これを書いてる最中ですら口の中にちょっとだけ青菜とコブクロがいる。

みんな、あの"良すぎた"味仙を忘れられない身体になってしまっていた。心に大きな傷を負ってしまったのだ。

その傷を抉りたい。喫茶店の3人はもうそのことしか頭になかった。味仙に行く。早めに切り上げたあいつらが出来ないことを見せつけてやる。その気持ちだけでもう棒ですらなくなった足を前へと進めた。

タバコの吸える喫茶店

大名古屋ビルヂングを目指す。ここから一番近くて昼からやってる味仙があるビルだった。ここで少しふざけて1人のユーザーにイタズラを仕掛けたが、それはまた別の話。

3階に上がり、味仙を探すとこじんまりした店舗が目に入る。味仙だ。求めていたものがそこにあった。

味仙は5人の兄弟によって始まったそうで、流派のようなものがある。そもそも我々がいった矢場味仙は長女が始めたものらしい。ではこの大名古屋ビルヂングの店舗は誰が始めたものなのかというと系譜を辿ると長男が始めた今池本店の系列になるとのことだった。

つまりどういうことかというと味が異なるのだ。決してまずいということではないが、矢場味仙のメニューは全体的に旨味の成分が舌をダイレクトに攻撃してくるパンチ力で脳を破壊してきたのだが、ここはというと少し味は控えめで代わりに辛みが尋常ではなかった。

しかしそんなことよりも我々3人の目的は「今回のオフ会で他の奴よりもより多く味仙を食った」という優位性にあるため、目の前のただただ旨いものを「違う」という気概は持ち合わせていなかった。

大名古屋ビルヂングの味仙

10.名古屋にて ひとり

おなかも心も満たされた3人はトボトボと名駅へ向かう。いくら満たされたとはいえ、もう遊ぶような時間も体力もなかった。

最後にお土産を買いこみ、残りの2人の背中を見送った。最初に来て、最後に帰る。名古屋に一人。何をしよう。バスまでの時間はまだ4時間半も残されていた。

なんとなく、ただ名駅をふらつく。あぁ、随分久しぶりに満ち足りた遊びをしたなぁ。楽しかったなぁ。などと考えていると暇すぎて夜の栄に行ってみたくなった。いや昨日行ったんだけど。逆側へ。

栄行きの切符を買い、まだまだ人で溢れかえる東山線に乗り込む。若者の街とはいえ、日曜日の夜。もう閑散としていた。畜生。なんもやることねぇな。マストドンを覗くと集まっていたメンツは無事帰っているようだった。

夜の栄

瞬間、脳裏を過ったのは「もう一度矢場味仙へ行く」。裏切りをさらに裏切る。とも思ったが、もう本当に体力は残されておらず、ただ満喫に入って、ただ寝て、少し焦りながら名駅へ戻り、そしてまた約束の地へ入ってしまった。

入ろうとすると一人の金髪の女の子が出てきた。途端、吸気口から小気味良いリズムのラップと笑い声が聞こえてきた。先ほど出て行った女の子が舞い戻り「めっちゃ聞こえてんだけど」なんて言いながら喫煙所の扉を開けていた。

いいからどいてくれねぇかなと入ろうとすると、中からガタイの良いお兄ちゃんが出てきて「あっ、すんません」と言って出てきた。名古屋のヘッズだったのだろうか。B-Boyファッションの彼は律儀に会釈までして出て行ったかと思うと、190cmはあろうかというデカい躯体で無口そうなもう一人のヘッズが扉を中から押さえつけて「ありとぅっす」などと感謝の弁を述べてきた。何が「ありとぅっす」なのかわからなかったが、小心者のぼくはやっとの思いで「っっスぅぅぅ……」とだけ口からこぼして中へ入った。怖かった。

帰る前の最後の1本。

怖かった約束の地

限りなく限界に近い疲労感を全身に感じながら、大して酒も飲んでないのにほんの少しだけ千鳥足になりながら高速バスの乗り場へ向かう。何年ぶりかにレッドゾーンまで振り切ったメーターの針が緩やかに通常の数値へと戻っていく。またこんな楽しい思いをするために日々を楽しもうと思いながら、この旅行記を途中まで書いてバスの中で寝た。


11.第2回風来坊納会とはなんだったのか

元々「第2回風来坊納会」という名前で始まったこのオフ会はその名の通り風来坊を食うという大義の下組織されたようなものであった。ウェルビーで体を整えるという大義の下組織されたようなものであった。

しかし蓋を開けてみればどうだ。丸1日経過した今も、みんなの口から飛び出る言葉は「青菜」「コブクロ」「味仙」だ。あまりにも味仙がぼくらに与えた傷は深かった。味仙を失った者(主にぼく)がマストドンにて、味仙に向かったものに牙を向いてすらいる。

途中「ヤマダヒサシ歓迎会」に改められたこのオフ会の本当の名前は「味仙同好会」でしかなくなってしまったのだった。

大名古屋ビルヂングでこんな話が上がった。

「大阪にも味仙がある。次回は大阪だな。」

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