水のない晴れた海ってどこ?
『水のない晴れた海へ』についてあれこれ考える日。
2000年3/29にメジャーデビューを果たしたGARNET CROW。
そんな彼女たちの記念すべきオリジナル1stアルバムが『first soundscope 〜水のない晴れた海へ〜』。
アルバムそのものについてのお話はまたいずれどこかで書きたいなぁとぼんやり考えているので今回詳しくは語らないが、りーぬはこの1stアルバムがとても大好き。
解散までに発売された全10作のオリジナルアルバムの中でもこれが一番好き。かも。
今日はそんな1stアルバムの開幕1曲目に収録されている『水のない晴れた海へ』の歌詞だけに着目してみることにする。
本当は途中まで曲レビューもどきを書いていて、 長くなりすぎたので仕切り直して今これを書いている。
曲の話をしてしまうと1stアルバムそのものについても語りたくなって収集がつかなくなってしまうので、それはまたいずれ……。
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『水のない晴れた海へ』はとても抽象的で不思議な歌詞が特徴なのだが、アンデルセン童話の『人魚姫』がモチーフとなっている。
まず『人魚姫』そのものについてのお話。童話としてとても有名な作品なので絵本等で大体のストーリーを知っている人も多いはず。
簡単なあらすじを箇条書きで整理してみる。(長いよ)
主人公の人魚姫は陸に住む人間の王子様を人目見て憧れ、自分も人間になりたいと思うようになる。
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王子は嵐の日に海で溺れ人魚姫に助けられたが、陸で目を覚ました王子の側にいた修道院の女性が自分を助けてくれたと勘違いして恋してしまう。
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人魚姫は悲しみ、どうしても王子の側にいたいと海の魔女に相談する。魔法で人間の足に変えてもらう代わりに自身の美しい声と交換することに。
しかし、王子と両想いになって結婚出来なければ人魚姫は死んで泡になってしまうという制約付き。
泡になれば死んでも天国には行けず海を彷徨い続けてしまう。
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人間になった人魚姫は王子に気に入られ妹のように連れ歩かれ一緒に暮らすが、王子は修道院の女性を忘れられない。
声を失った人魚姫は自分が助けた張本人だと伝えられない。
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王子は妥協で人魚姫と結婚しようとするが、ある日王子が別の国のお姫様と結婚することが決まる。
王子は興味は無かったが会ってみてビックリ、なんと相手のお姫様はあの女性だった。修道院で花嫁修業をしていたのだった。
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王子は喜んでお姫様と結婚を決めるが、人魚姫は結婚式の翌日には死んで泡となってしまうため途方に暮れる。
すると人魚姫の姉達が自分達の美しい髪と引き換えに魔女からナイフを授かる。
このナイフで王子を殺せばまた人魚に戻れるという。
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人魚姫は幸せの絶頂で眠っている王子を殺そうとするが、結局は愛する人を自らの手で殺すことは出来ず人魚姫は海に飛び込む。
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そのまま泡となって天国にも行けず海を彷徨う筈だったが、大気の精霊達に空へと引き上げられ大気の精霊へ生まれ変わった人魚姫。300年の間、大気の精霊としての使命を全うすると無事に天国へ行けることになる。
長くなってしまったが大体こんな感じ。
人魚姫のストーリー自体は何となく記憶にはあったが、ここまで悲惨な話だったっけ?とか、最後は大気の精霊になるんだっけ?とかそのあたりは結構曖昧だったので原作のアンデルセンの小説を読むことによって補完出来たのはプラスになった。
恐らく大衆に知れ渡っている人魚姫のストーリーってハッピーエンドで終わる子ども向けの絵本や、ディズニーアニメの『リトルマーメイド』で上書きされているのだろうか。自分も原作読むまではそうだった。
あらすじを整理したところで、少しずつ歌詞に触れていってみる。
まず、私が初聴き時に抱いた
「水のない晴れた海」って一体何?どこ?
というシンプルな疑問。これは恐らく「海に住む人魚姫から見た陸」のことではないかという考えに至った。
(ここを読んでる人で、そんなもんとっくにみんな知っとるわ!と突っ込む人もいるかもしれない。
たぶんいるだろうし恥ずかしいんだけど続ける)
暗くて海水で満たされている海に当たり前に住んでいる人魚姫から見た陸って「水のない晴れた海」っていう表現になるのではないかと思う。
人間達が住む"海"は水がなくて晴れている、みたいな。
水のない晴れた海へ
たどり着いたwhite mermaid
夢にまで見ていた
地上の天国はsilence
⬆人間になって陸へたどり着いた人魚姫。
夢にまで見ていた天国のような場所のはずなのにsilence(声を失い沈黙)
水のない晴れた海へ
たどり着いたwhite mermaid
たった一つの願いを
叶える為だけのtrading
⬆陸へたどり着いた人魚姫
たった一つの願い(人間になること)を叶える為だけのtrading(トレード=魔女との交換)
ねぇ誰よりも愛しているよ今も
いつか思い出してね君が聴くレクイエムの中
⬆ここは王子様への人魚姫の想いだろうか。
何もない晴れた空へ
昇りゆく嘆きのmermaid
風を送るために
差し出した両手silence
⬆死んで大気の精霊となり空へ昇った人魚姫。
大気の精霊の使命は暑い国で苦しむ人々へ涼しい風を送ること。
君を連れてゆく哀れみの天使達はそのまま大気の精霊のことかな。
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偶然にもつい最近Twitterの有識者ツイートで知ったことなのだが、AZUKI七さんが影響を受けたオスカー・ワイルドはアンデルセンにも影響を受けているらしい。
以前note記事でも紹介したオスカー・ワイルドの童話集の中に『漁師とその魂』という短編がある。
『漁師とその魂』の中にも人魚が登場するのだが、こちらはアンデルセンの人魚姫とは逆で、人間が人魚に恋をして海の中で暮らすために魂を捨てるというもの。
また、男性であるアンデルセンはバイ・セクシャルであり親友の男性に恋をしていたが、女性と結婚してしまった親友への抑えきれない想いと失恋を『人魚姫』の物語として昇華しているのだという。
物語の中で最も美しい歌声を持つ人魚姫が人間の足と引き換えに声を失ってしまうというのは、同性愛というものが社会から疎外されてしまうことを恐れるマイノリティが声を上げられないことを揶揄しているのだとか。
令和になっても有識者によって新しい情報得られるツイッターありがとう。(諸説あるかも)
話がちょっと脱線したけど、
まとめ
・水のない晴れた海=人魚姫の視点から見た陸かな?
・抽象的に見える歌詞もわりと人魚姫そのまんま。
・人魚姫が死んだ後に風の精霊になって暑い国に風を送る使命を果たすことになるというのはあまり知られていない。
・AZUKI七さんが影響を受けたオスカー・ワイルドはアンデルセンに影響を受けているという芋づる式。
ファーストアルバムの1曲目にまぁまぁ聴く人を選びそうな曲を持ってくるあたり、最初から振るいにかけてるのか、大衆受けも媚びも狙わない心積りの現れなのか、溢れ出る自信なのか、これら全部なのか。
好きだなァって思っちゃった!
おわり🧜♀️𓇼𓆡𓆉 ⋆
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