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撮影3日目

12月30日。一年の終わりがすぐそこに迫るなか、私は夜行バスで難波に到着した。

到着時刻は8時半。9時半には、撮影場所に着かなくてはならない。小走りで駅へ向かう途中、キャストから遅れる旨連絡があり、急遽、11時集合に変更した。

撮影まで余裕ができた。何しよう。

その時。主演のこんじゅりさんから、「夜行バスがいま着いたので、9時半集合には少し遅れる」という連絡が入った。私は、集合時間を11時に変更した旨を連絡した。

聞くと、こんじゅりさんも難波にいるという。私は一緒に朝食を食べることをお誘いした。

ネカフェでシャワーを浴びてから、合流します!とのご返答をいただいたので、私は難波駅構内にあるマクドナルドに腰を下ろし、コーヒーを飲みながら、撮影時の動きを再度確認していた。

確認しながら、しばし緊張していた。いや、緊張というより…申し訳ない、という感情かもしれない。

例えば、「この日に食事行きませんか?」と聞くと、断るか、行くかの選択ができるが、「いま、同じ場所にいる」という事前情報が知られた上で誘われると、断る、という選択肢がなくなる。まして、「集合時間が遅れたため時間に余裕ができている」ことも知られているわけだから、なおさらだ。

つまり、こんじゅりさんが断れない状況のなか、私は誘ってしまったのである。

もし、そんなに行きたくないけれど、断る理由がないから承諾していたのだとしたら。そう思うと、自分の誘いが浅はかだったと感じ始めた。

その後。こんじゅりさんが向かったネカフェのシャワーの待ち時間が想定以上に長引いたこともあり、朝食を一緒に食べる時間がなくなり、私は単身、撮影の集合場所へ向かった。

この日の撮影は、「追いかけっこ」。そう、ひたすら走る。こんじゅりさんが稲荷さんを、ユミがカナを、ひたすらに追う、という場面だ。

ジンバルとドローンを駆使し、撮影する。その機材を運んでくれるのは…

「お待たせ〜」

快活な声が響く。道路を見やると、爆速で風をきる車の姿。

ぎぎ、と停車し、車窓から、髙畑さんの笑顔。

髙畑さんは大阪芸大時代の先輩であり、今回の撮影では、カメラマン、そして制作応援として、機材を援助してくれている。

彼との出会いは下記記事に書いたので、ご興味ある方はぜひご一読くださいませ。

「久しぶりですね〜」

髙畑さんの声に、顔がほころぶ。

スタッフ勢で車から機材を降ろしていると、キャストのこんじゅりさん、稲荷さんが到着した。私たちは機材をセットし、追いかけっこシーンを撮り始めた。

30日は風が強く、吹き荒ぶ寒波に、時に抵抗し、時に身を任せながら、撮影を続けた。

「寒い!」という叫び声が巻き起こりながらも、なんとか撮影が終了。

スタッフキャストが解散したあと、私は髙畑さんを、夕食に誘った。

助手席に座り、髙畑さんの久方ぶりの怒りのデスロードを楽しみながら、この日の感想を尋ねた。

「良かったですよ」髙畑さんは顔をほころばせて、そういった。「正直、来る前は心配してたんですよ。でも全然必要なかったですね」

私は、現場での立ち回りがこれでいいのか不安であること、自身でも監督を務める髙畑さんからみて、私の今のカンジはどう思うか?尋ねた。

「自信持ってくださいよ!監督ウ〜!」

底抜けに明るい声に、私は思わず吹き出した。

私たちは車を止め、赤提灯がのぞく居酒屋に足を運んだ。

私たちはジンジャエールで乾杯し、そのまま、この日の撮影の話へ。

「めちゃくちゃ、ちゃんとしてましたよ。スタッフも率先して動いてくれてるし」

髙畑さんの言葉たちが、不安でざらついた私を包む。

19時半にお開きとなり、私は帰路に着いた。

(文・小池太郎)

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