No.17 平坂雅男氏〜帝人研究所からノマド・アカデミアに〜
フランス語必修という独特の校風で有名な暁星学園中高でフェンシングに熱中し、学業では物理化学に興味を持って早稲田大学で構造化学を学んだ平坂先生。卒業後の就職では当時も国立大派閥のあった帝人中央研究所に入り、構造解析の研究に没頭なされました。大学との共同研究で学位を取得後、産学連携のマネジメント、そして、知的財産の重要性から帝人の知財戦略をリードしてこられました。2013年に公益社団法人高分子学会 常務理事・事務局長に就任し、現在は、バイオミメティクス推進協議会の事務局長を務めていらっしゃいます。
ご縁をいただき、当社の強力な企画顧問でもあります。
ーー帝人研究室ではどのようなテーマを扱われたのですか
「ラマン分光による構造解析から研究所生活をはじめましたが、その後、オージェ電子分光や電子顕微鏡による薄膜材料の研究を行っていました。研究所から本社に異動すると、研究を事業につなげる仕事をすることになりました。新規事業では、バイオポリマー、再生医療、リチウムイオンバッテリーなど様々なテーマを担当してきました。また、オープンイノベーションとしての産学連携のために日本中の大学を巡回しましたし、MIT(マサチューセッツ工科大学)との共同研究も行いました。さらに、ベンチャー企業とのつながりも増え、ドイツ、フランス、オランダ、アメリカの企業とも共同開発を進めてきました。」
「研究では北海道大学と特に緊密となり、ここで学位を取得しました。宇宙飛行士の毛利衛さんともご一緒だったのが感慨深いです。帝人の研究チームはとにかく小規模人数だったので、活動予算の確保、契約交渉、出張手配など、何でも自分でする癖が身についたのは、ある意味では大変でしたけど良い経験でした」
――NTS吉田社長との出会いは
「高分子学会の事務局長をしていたときに、ある出版企画で吉田社長と出会いました。確かその時の話題は、バイオミメティクスだったと思います。実は私の専門分野でもあり、現在も講演会で海外動向や最新技術を紹介しています。高分子学会では様々な先生方との出会いも増え、そして、NTSから『繊維のスマート化技術体系』の編集の機会を頂きました。現在も、科学技術を広め、産業や社会の発展に役立てようとしているNTSの出版に携われることは楽しみでもあります。」
「NTSでの著作依頼も数点ありますが、それ以外にも吉田社長からデジタル化に伴う社内改革の相談や基幹システムの改修などの意見を求められることも多いです。ご信頼をいただけていること自体が嬉しいことですが、頼まれると断れない、そういう性格なのでのんびり休む時間がないですねぇ」
――NTS創業40周年に向けて取り組む『緑の猫(仮)』というサイエンス・ファンタジーにもご参画いただいているとか
「吉田社長の地球環境への遠大な構想から始まった『緑の猫(仮)』企画会議では、社会への問題提起ができるように、素材の吟味や歴史的な事実の文献調査、未来への展望を描くために多くの編集委員の方々と議論しながら進めています。ようやく第1話の構想がまとまり、ドラフト・ライティングが進行中です。最終完結までどれほどの大作になるのか、楽しみです。」
「これまでの私の経験や人脈をいかして、次世代の社会をつくる想定読者である子どもたちに、どうすれば社会課題を暗示できるか、そして、現在から未来へつなぐ絶え間ないシナリオを考えさえることは、責任でもあり楽しさもあります。特に、生命の源泉でもある光合成や植物の持つ不思議さを私のテーマでもあるバイオミメティクスとして、物語の中で紹介できたらと考えています。」
「研究室を離れたので、あちこちの図書館で集中して勉強や原稿の執筆に勤しんでいます。NTS近くの千代田図書館は静かで広くて良いですね、企画会議のあとはいつも寄っています。私にとっては、どこでも研究室というのでしょうかね」