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No.2 岩村秀氏〜あたまの体操教室〜

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「研究室インタビュー」第2号は、街の研究室で科学サロンを主催されている岩村秀(iwamura hiizu)先生です。岩村先生は当社NTSの出版物でも、監訳者としてご協力をいただきました。
 普段は教職を離れて港区みなとパーク芝浦という施設で「頭の体操しよう会」というサロンを開かれています。岩村先生ご夫妻とお仲間の入江誠先生が講師役を務めて、シニア専用の<ラクっちゃ(港区介護予防総合センターの愛称)>でのプログラムとして開催されています。今回は10月開催に参加させていただきました。

■今月のテーマは「連載:水のお話し」 

 コロナ禍の影響もあり、中断や参加者人数制限を乗り越えて25回目の会では「水の汚染、汚染物質の除去」というテーマで講義が始まりました。

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 世界中で安心して飲める水道水は、本当に数少ない国でしか提供されていないそうです。水源の問題より衛生管理に理由があるそうです。日本の水道水は豊かな水源を持ち、衛生管理も優れていて安心して飲めるのに、「なぜ私たちは浄水器を使うのでしょう?」と言う質問からサロンが始まります。
 簡単そうで、でもスパッと答えられない参加者を前に、先生はさらりと答えを教えてくれました。「東京の水道は安全だけれども、マンションなどの集合住宅では、加圧ポンプの必要な直結水道管方式や貯水槽を使うので、錆止め薬剤のポリリン酸ナトリムなどの薬が追加されてしまうからでしょうね。」
 東京の水源は利根川と多摩川の上流から分岐しており、港区では地区によって取水の川が異なるそうです。そして浄水場ではオゾンや活性炭を利用して、飲料水まで品質を高めているそうです。
 身近な話題を深く掘り下げてゆくのに、難しい言葉は出てきません。常に参加者の顔色を伺いながら、一言ずつお話を進めてゆく、教室での授業風景が浮かびました。

■浄水器には様々な浄化素材の種類があります。

 蛇口につけられるような小型の浄水器は、中空糸膜というものを使っています。これは身の回りの機器、設備、その他産業界でも幅広く使われています。「数ミクロンという小さな穴をもつ膜は、サビや細菌を除去することができるのです。」

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 「これは高分子溶液と凝固液を使って、ストローのように作るのですが、なかなかスグレモノです。参加者のご家庭でも使われているようですね。」その他、不織布や活性炭、セラミックという聞いたことのある素材が浄水器に使われているそうです。次はゼオライトという物質の性質を解説してくださいます。ゼオライトは、その意味や性質まではわからない、あーコレが頭の体操なんだなぁと先生の仕掛け技にハマってしまいました。ゼオライトは天然の鉱物で、多孔質という性質が水の浄化に役立つそうです。
 「最近、ゼオライトは大注目されているんです。それはね、コロナで呼吸障害がある患者さんに使える高濃度酸素製造機というもので、重たい酸素ボンベよりはるかに軽量で手軽に使えるんです。その仕組みはね〜〜」
 先生の語り口調はどんどん専門家らしくなってゆきます。でも、難しい用語はやさしく解説してくださり、私たちが知ってるようで知らないこと、分かったようで、説明できないことなど、まさに「知るは愉しみなり」をご自身が感じていることが伝わってきました。
 40分の岩村先生講義を継いで、入江誠先生が今度は「お月見と金星」のお話に移ってゆきました。水と星、身近な生活と自然を知ることができた、楽しい時間です。私たちシニアや社会人も「研究室」の雰囲気に触れたひとときの経験でした。

略歴: 
1934年 宮崎県生れ86歳 
1957年 東京大学理学部卒業、専門は有機化学。現在、分子科学研究所(岡崎市)名誉教授、東京大学名誉教授、九州大学名誉教授、日本大学大学理工学部客員教授。
主な研究受賞歴は、
1996年 紫綬褒章
2003年 日本学士院賞
2010年春 瑞宝中綬章 など。

<取材日2021/10/19>
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主な書籍:
2019年11月 元素単 ~13ヵ国語の周期表から解き明かす~
2018年5月 分子は旅をする ~空気の物語~
2013年2月 月刊誌 『未来材料』(バックナンバー)
2010年4月 翻訳ナノキラリティ