キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS 2024 出走馬解説・展望

皆様、暑すぎる夏の中いかがお過ごしでしょうか。
平場も重賞も難解な夏競馬の真っ最中、馬券の成績はいかがでしょうか。
臆病者の私は夏の魔物に挑むことすらせず不戦敗を決め込み、日夜海外競馬とマキシム・ギュイヨンに目を向けています。

さて、欧州での平地競馬シーズンが深まる中、7月27日には近代競馬発祥国・英国の大一番を迎える。
英国競馬最高峰のタイトルの1つ、12ハロン路線の頂点を決定する一戦──「キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークス」が行われるのだ。

名前が長いことに定評のあるレースだが、ご安心めされよ。
この記事を読み終わる頃には、アナタもこのレース名をスラスラ言えるようになっている──かもしれないし、別にそうでもないかもしれない。
なお、レース名が長すぎるので、以降は「KGⅥ&QES」と略させて頂く次第である。悪しからずご了承を。

さて、本稿では今年のKGⅥ&QESについて、コースを確認しつつ有力馬の解説・レース展望を行っていく。
本レースはグリーンチャンネルの「ALL IN LINE〜世界の競馬〜」でも生中継されるので、秋の凱旋門賞に向けても是非ご注目頂きたい。


キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークス(King George Ⅵ & Queen Elizabeth Stakes)

2024/7/27 23:40(日本時間)発走
格付け:GⅠ
開催地:英国・アスコット競馬場
条件:3歳以上・芝1マイル3ハロン211ヤード(約2390メートル)
総賞金:125万ポンド(約2億3750万円)

2023年優勝馬:フクム(Hukum) (右)
(SPORTING LIFEより)

KGⅥ&QESは1951年に創設された、英国では比較的新しいレースであるが、現在では3歳馬・古馬の垣根を超えた欧州12ハロン路線の頂上決戦の1つとして定着した。
過去の勝ち馬にも錚々そうそうたる馬たちが名を連ねており、ニジンスキー(Nijinsky Ⅱ)、ミルリーフ(Mill Reef)、ダリア(Dahlia)、ザミンストレル(The Minstrel)、シャーガー(Shergar)、ダンシングブレーヴ(Dancing Brave)、レファレンスポイント(Reference Point)、ムトト(Mtoto)、ナシュワン(Nashwan)、ジェネラス(Generous)、オペラハウス(Opera House)、キングズシアター(King's Teatre)、ラムタラ(Lammtarra)、スウェイン(Swain)、デイラミ(Daylami)、モンジュー(Montjeu)、ガリレオ(Galileo)、アザムール(Azamour)、ハリケーンラン(Hurricane Run)、ディラントーマス(Dylan Thomas)、デュークオブマーマレード(Duke of Marmalade)、コンデュイット(Conduit)、ハービンジャー(Harbinger)、ナサニエル(Nathaniel)、デインドリーム(Danedream)、ノヴェリスト(Novelist)、ハイランドリール(Highland Reel)、エネイブル(Enable)──など、20世紀後半〜21世紀の欧州競馬を牽引してきたトップホース達が駆け抜けてきたレースであると言えよう。

昨年の勝ち馬フクム(Hukum)は、2021〜22年に欧州マイル界に君臨し、一時期にはレーティング138の評価を得ていたGⅠ・6勝馬バーイード(Baaeed)の全兄。
22年の愛ダービー馬ウエストオーバー(Westover)と最終直線をフルに使った長い長い激アツな叩き合いを演じ、これを競り落としての戴冠には非常に大きな価値があったと評価されている。
現在は日本のダーレー・ジャパンで種牡馬として繋養。来年には初年度産駒が誕生し、セールなどでも父としてその名を見ることになるはずだ。フクムを血統に含む子たちがもうすぐ見れるってコトだぜ!

コース解説

アスコット芝2390m コース図
(JRAより)

ロイヤルアスコットに引き続き、KGⅥ&QESもこの激坂クソおにぎりことアスコット競馬場で開催される。
アスコット競馬場については「英国平地競馬の祭典・ロイヤルアスコット開催のGⅠレース有力馬解説・展望」でもご紹介したが、芝2390mのコースに焦点を絞って改めて記しておこう。

画像の矢印が示す通り、右回りの競馬場だ。
芝2390mのスタート地点はおにぎりの左側、バックストレッチに向かう直線に設置されている。
ここから「スウィンリーボトム」と呼ばれるおにぎりの頂上、コースで最も標高が低い地点でもあるコーナーに向かって高低差22mにもなる坂を下っていき、以降はゴールまでひたすら上り坂。最終直線は約500mである。
英国でもトップクラスの過酷さを誇るコースと言える。

スタート地点からコーナーまでは距離があり、そもそもKGⅥ&QESが少頭数になることも多いレースということも相まって、枠の有利不利は少ない。
しかしスウィンリーボトムまでは下り坂ということもあり、スタートからの先行争いで引っ掛かったりしてしまうと、後半はスタミナ的にかなり苦しくなる。

欧州の競馬は道中スローペース、一定のタイムで淡々と進んでいき、最後の直線でのキレ味勝負となることも多い。
しかし、このアスコット芝2390mはコース形態の過酷さと頭数のこともあって、道中ハイペースで飛ばすことはなかなか考えにくい。

重要なのはとにかく「折り合い」。
如何に余力を残して直線を向き、少しでも末脚を伸ばせるか──という点が勝敗を分ける。

ちなみに、こんな過酷なコースだと馬がすぐバテるんじゃないかと思えるが、実際バテる。
地力のない馬は最後に振り落とされるので、実力を測るにはピッタリのコースであると言えるだろう。

また、アスコット競馬場は欧州の中でも少し特殊なコース形態となっているので、このコースが得意な人気薄の馬の激走には警戒が必要である。
実際、2022年のKGⅥ&QESを制したパイルドライヴァー(Pyledriver)は、6頭中6番人気での優勝となった。
パイルドライヴァーはアスコットでの重賞制覇が多い馬で、まさしくこのパターンだったのではないだろうか。

出走予定馬・オッズ

《出走予定馬》
①(2) オーギュストロダン(Auguste Rodin)
 騎手:R.ムーア 調教師:A.オブライエン(愛)
②(8) ドバイオナー(Dubai Honour)
 騎手:T.マーカンド 調教師:W.ハガス(英)
③(6) ゴリアテ(Goliath)
 騎手:C.スミヨン 調教師:F.グラファール(仏)
④(5) ハンスアンデルセン(Hans Andersen)
 騎手:S.レヴィー 調教師:A.オブライエン(愛)
⑤(1) ルクセンブルク(Luxembourg)
 騎手:W.ローダン 調教師:A.オブライエン(愛)
⑥(4) ミドルアース(Middle Earth)
 騎手:O.マーフィー 調教師:J&T.ゴスデン(英)
⑦(3) レベルスロマンス(Rebel's Romance)
 騎手:W.ビュイック 調教師:C.アップルビー(英)
⑧(9) ブルーストッキング(Bluestocking)
 騎手:R.ライアン 調教師:R.べゲット(英)
⑨(7) サンウェイ(Sunway)
 騎手:J.ドイル 調教師:D.ムニュイジエ(英)
※7/26現在

《人気順・オッズ》
①オーギュストロダン 5/4(2.25倍)
⑦レベルスロマンス  7/2(4.5倍)
⑧ブルーストッキング 5/1(6.0倍)
⑥ミドルアース    9/1(10.0倍)
⑤ルクセンブルク   10/1(11.0倍)
⑨サンウェイ     14/1(15.0倍)
②ドバイオナー    28/1(29.0倍)
③ゴリアテ      33/1(34.0倍)
④ハンスアンデルセン 150/1(151倍)
※ブックメーカー「Bet365」より、7/27現在

出走馬解説

KGⅥ&QESは少頭数になることも多い、と先程述べたが、今年は木曜日の出走馬確定時点で9頭立てとなり、昨年ほどではないにせよ比較的多頭数での実施が期待される。
勿論、当日までに出走回避する馬も現れるかもしれないが、3頭立て(内2頭は同厩舎)になった2020年のような悲劇は避けられたと言えよう。

さて、KGⅥ&QESは3歳馬と古馬の対決、と見られる年も多いが、今年は純粋に古馬12ハロン路線の頂点を決定するレースとなるのではないかと筆者は見ている。

何故かと言えば、今年のKGⅥ&QESには3歳馬の大将格たる馬が不在だからである。

3歳馬の12ハロン路線の大将格、と言えば当然「ダービー馬」であるが、今年の英ダービーを制したエイダン・オブライエン厩舎のシティーオブトロイ(City of Troy)は英ダービー優勝後、エクリプスS(GⅠ)への出走を選び、これを優勝。KGⅥ&QESは回避となった。
シティーオブトロイの次走はインターナショナルS(GⅠ)だと言われており、日本から遠征する昨年の菊花賞馬ドゥレッツァや、トム・マーカンドをダービージョッキーにするはずだった漢エコノミクス(Economics)らとの対決となる予定だ。

そして、アイリッシュダービーはシティーオブトロイと同じくエイダン・オブライエン厩舎のロサンゼルス(Los Angeles)が優勝したが、このロサンゼルスもKGⅥ&QESは回避している。
距離が伸びれば伸びるほど良い、と陣営は見ているようで、今後の目標として挙がっているのはセントレジャー(GⅠ)──長距離路線に向かう可能性もあるようだ。

今年の英ダービー馬・愛ダービー馬は不在となったが、そのどちらも管理する世界最高の調教師エイダン・オブライエンは今年、KGⅥ&QESに3頭出しを敢行する

出走馬9頭中3頭を占めるオブラっち軍団の中核を担うのは、昨年の英愛ダービー馬オーギュストロダン(Auguste Rodin)である。

オーギュストロダン(Auguste Rodin)
(IFHA's Longines World's Best Racehorse Rankings公式Xより)

もう日本の競馬ファンはよーーくご存知であると思うが、もう一度彼のプロフィールを軽くおさらいしよう。

父はディープインパクト。
2005年に武豊騎手とのコンビで日本のクラシック三冠を無敗で達成し、最終的にはGⅠ・7勝を挙げた。
種牡馬としても長年中央競馬のリーディングサイアーの座に君臨した、最早日本人にとっての一般常識とさえ言えるほどの歴史的名馬だ。
2023年クラシック世代にあたるオーギュストロダンは、そのラストクロップ12頭のうちの1頭である。

母は欧州GⅠ・3勝馬ロードデンドロン(Rhododendron)
その母ハーフウェイトゥヘヴン(Halfway to Heaven)もGⅠ・3勝を挙げており、全妹にはGⅠ・7勝馬マジカル(Magical)がいるというクールモアが誇る良血牝馬。
オーギュストロダンはロードデンドロンにとっては初仔となる。

世界的な超良血馬と言えるオーギュストロダンは、今年で4歳を迎えるが、2歳・3歳・4歳全ての年においてGⅠ制覇を達成している。
2歳時にはフューチュリティトロフィー(ドンカスター芝1600m)を制して、GⅠ初挑戦・初制覇を果たした。
明け3歳ではダービー(エプソムダウンズ芝2420m)、アイリッシュダービー(カラ芝2400m)、アイリッシュチャンピオンS(レパーズタウン芝2000m)、ブリーダーズカップ・ターフ(サンタアニタパーク芝2400m)──と、英国・アイルランド・アメリカの3ヶ国でGⅠを計4勝。
英ダービーと愛ダービーの同年制覇は史上19頭目となり、ディープインパクト産駒の全世代クラシック制覇の夢を、オーギュストロダンは近代競馬発祥国・英国のダービーという大舞台で叶えたことになる。

当初はBCターフで競走生活を終え種牡馬入り、と思われていたものの、オーギュストロダンは大方の予想を裏切り、古馬となった今年も現役を続行。
復帰戦となったGⅠ・ドバイシーマクラシック(メイダン芝2410m)は最下位に惨敗し、続くGⅠ・タタソールズゴールドカップ(カラ芝2100m)では勝ち馬に3馬身突き放されたものの、3着馬に5馬身差をつける2着。
そして、前走となる6月19日のGⅠ・プリンスオブウェールズS(アスコット芝1990m)では見事復活勝利を飾り、古馬のGⅠタイトルも獲得せしめた。

これでオーギュストロダンはGⅠ・6勝。
コントレイルのGⅠ・5勝を上回り、ディープインパクト産駒の牡馬の中ではGⅠ最多勝となった。

そして迎えたのがここ、英国古馬12ハロン路線の頂上決戦たるKGⅥ&QESである。
鞍上は引き続き、エイダン・オブライエン厩舎のファーストジョッキー、ライアン・ムーアが務める。
ブックメーカー各社での前売り1番人気に設定されている一方、オーギュストロダンにとってこのKGⅥ&QESは昨年126馬身差の大惨敗を喫したレースでもある。

オーギュストロダンは昨年もKGⅥ&QESに出走し、初のアスコット競馬場ながら英愛ダービー制覇の実績を買われ、1番人気に支持された。
しかし、いざレースが始まると、オーギュストロダンはハッキリ言って何の見せ場もなく終わってしまった。

昨年のKGⅥ&QESの道中において、オーギュストロダンは先行策を取り、馬群の外目3〜4番手付近を追走。
非常にタフなコースであるアスコット芝2390mで馬群の外側を回されているのが気になるところではあったが、その能力の高さは誰もが知るところだ。
鞍上のムーア騎手も多少の距離ロスなら問題無いと思っていたのだろうが、1マイルを過ぎた頃には、オーギュストロダンは余力を失った。
ムーア騎手の手が動くも、オーギュストロダンの反応は無し。最終直線を待たずして追走すらままならなくなり、早々に戦線離脱。
無理をさせるべきではないと判断したムーア騎手は直線全く追うことなく、そのまま半分歩いているような状態で、オーギュストロダンは何とかゴールまでたどり着いた。
そして、その頃には1着馬のフクムから126馬身も離されていた──というわけだ。

ダービーでの走りが見る影もない惨敗に、当初は故障が疑われたが、レース後の馬体検査・数日後の精密検査ともに異常は一切認められず
結局敗因は今もよく分からないままだが、KGⅥ&QESに至るまでのオーギュストロダンは英2000ギニーから1ヶ月で英ダービーに向かい、また1ヶ月弱で愛ダービーに出走し、更に1ヶ月も経たないうちにKGⅥ&QESへ──というローテーションを取っていた。
欧州平地競馬の本格的なシーズンは5月から10月となっているので、使い詰めはやむを得ないことではある(むしろ、オーギュストロダンのローテーションは余裕を持った方である)が、ともすれば見えない疲れもあったのかもしれない。

アスコット競馬場がダメなのでは、とも言われていたが、今年プリンスオブウェールズSを勝ったことからそうでもなさそうな雰囲気ではある。
芝1990mと芝2390mでは全く毛色が異なってくるコースではあるが、少なくともアスコットの上り坂が全くダメということではないはずだ。

元々よく分からん惨敗と好走を繰り返す馬で、さて今回のKGⅥ&QESのオーギュストロダンはどちらのオーギュストロダンになるのか、それが最大のポイントである。

オーギュストロダンはGⅠ・6勝のうち、半分の3勝を2400m戦で挙げている。
10ハロンのプリンスオブウェールズSからの12ハロンへの距離延長自体は、オーギュストロダンにとってプラスに働くと考えられる。

後はオーギュストロダン自身が走る気になってくれるかどうか、というのが最大の問題だが──それはオーギュストロダンのみぞ知るところ。
ひょっとしてオーギュストロダンの馬券を買うことは、横山典弘の馬券を買うのと同じくらいギャンブル性が高いんじゃないかね?

そして、このオーギュストロダンとベストフレンド(エイダン談)であり、オーギュストロダンにも負けず劣らずの実力馬でもあり、エイダン・オブライエン厩舎の第二の矢となるのがルクセンブルク(Luxembourg)だ。

ルクセンブルク(Luxembourg)
(Equidiaより)

この馬についても、よくご存知である日本の競馬ファンは多いことだろう。
今年で5歳を迎えるルクセンブルクはキャメロット(Camelot)産駒で、元々はクラシックのタイトルを期待された馬であった。

2歳でデビューし、フューチュリティトロフィーを優勝してGⅠ初制覇となったルクセンブルクは、3歳初戦の英2000ギニーに2番人気で出走するも、3着に敗れる。
以降は一頓挫あって英ダービー出走は夢幻となったが、夏に無事復帰してGⅢを快勝。
続くアイリッシュチャンピオンSでその素質を見せつける優勝を果たし、3歳にして古馬混合のGⅠタイトルを手にした。

昨年はタタソールズゴールドカップを優勝し、4歳でのGⅠ制覇も成し遂げると、プリンスオブウェールズS・アイリッシュチャンピオンS・香港カップで2着と10ハロン路線のトップホースとして活躍した。
先着された相手を見てもモスターダフ(Mostahdaf)・オーギュストロダン・ロマンチックウォリアー(Romantic Warrior)──となっており、こうした馬たちと渡り合ってきたルクセンブルクの能力の高さについては疑うべくもない。

5歳となった今年のルクセンブルクは中東で復帰戦を迎えた──が、馬場が合わなかったかGⅡ・ネオムターフカップ(キングアブドゥルアジーズ芝2100m)は5着、GⅠ・ドバイターフ(メイダン芝1800m)は14着と振るわず。
特にドバイターフは故障でもしたのではないかと心配になるほどの惨敗だったが、馬体に大した問題はなかったようで、欧州に戻ったルクセンブルクはGⅠ・コロネーションカップ(エプソムダウンズ芝2420m)に出走した。

ダービーの前日(オークスの当日)にダービー・オークスと全く同じコースで行われる古馬の12ハロンGⅠたるコロネーションカップは、KGⅥ&QESの前哨戦という位置づけにもなっている。
今年は5頭立て、1番人気は昨年の覇者エミリーアップジョン(Emily Upjohn)で、ルクセンブルクは2番人気。
昨年のGⅠ・パリ大賞(パリロンシャン芝2400m)の勝ち馬フィードザフレーム(Feed The Flame)も出走し、この3頭がGⅠ馬というメンバー構成であった。

スタート直後、持ち前の先行力ですんなりとハナを奪ったルクセンブルクは、直線でもう一伸びし、後続を完封しての逃げ切り勝ちを果たした。
5歳でのGⅠ勝利をダービーと同じ舞台で挙げ、ダービーに出走できなかった鬱憤を晴らしたと言えるのではないだろうか。

そしてここ、KGⅥ&QESに駒を進めてきた。
ライアン・ムーア騎手はオーギュストロダンを選択したため、ルクセンブルクの鞍上は今年からオブライエン厩舎のセカンドジョッキーに昇格したウェイン・ローダン騎手が務める。

5歳を迎え、10ハロンよりも12ハロンの方に向いている馬になった──と、中東とコロネーションカップの結果からは思えるが、筆者はまだルクセンブルクの12ハロン適性を疑っている

元々昨年まで、ルクセンブルクは10ハロンは良いけど12ハロンは向かないという馬だった。
一昨年はアイリッシュチャンピオンSを勝ってからGⅠ・凱旋門賞(パリロンシャン芝2400m)に出走したものの7着、昨年のKGⅥ&QESは4着。
2400m戦になると、2000m戦よりもパフォーマンスを下げていた、というイメージが筆者には強くある。

また、コロネーションカップのレースレベルという点においても、筆者は疑問を抱いたままである。
そもそも5頭立てという辺りからしてアレなのだけれども、対抗馬のエミリーアップジョンは昨年に比べて今年の成績はいささか振るわない。
フィードザフレームもGⅠ馬と言えど、勝ったのはメンバーが手薄になりがちなパリ大賞であり、それ以降は勝利を挙げることができていない。

展開においても全く競りかけられることなくハナを叩けたルクセンブルクは恵まれたと言え、かつエミリーアップジョンは思ったよりも仕掛けが遅くなった。
コロネーションカップでの鞍上はライアン・ムーア騎手であったが、彼は本当に絶妙なペースを刻み、完璧な仕掛けをした。
私の個人的な評価として、コロネーションカップは「後続勢がゆったり構えすぎた中、ライアン・ムーアが全てを終わらせたレース」であり、「10ハロンがベストなルクセンブルクを、ライアン・ムーアが完璧なレースメイクで12ハロンでも好走させてみせたレース」ではないかと思っている。

名手は馬の距離適性を乗り方1つで変えてしまう

武豊騎手の騎乗ぶりを思い浮かべて頂ければ、この意味は自ずとご理解頂けるのではないだろうか。
そして、ライアン・ムーア騎手は乗り方1つで馬の距離適性を変えてしまえるだけの技術を持つ世界的名手である。

勿論、ルクセンブルクが素晴らしい競走馬であるからこそ可能なことではあるが、今回ライアン・ムーア騎手でなくなってしまうことは大きいのではないかと思う。
ウェイン・ローダン騎手は今回がルクセンブルクへの2度目の騎乗となるが、前回は2022年まで遡る。
そして、この時のルクセンブルクはGⅡの10ハロン戦だったにも関わらず5着に敗戦していることも、尚更そう感じさせる。

──と、少しマイナス要素ばかりを書きすぎてしまったが、馬の距離適性は加齢により変化することがあるのも事実である。
今のルクセンブルクは12ハロンの馬だという見方も当然できる

今年のKGⅥ&QESで、ルクセンブルクがどのような走りをするのか、それを筆者は非常に興味深いところだと考えている。
オーギュストロダンと同等以上に、ルクセンブルクの走りには注目したい。

ハンスアンデルセン(Hans Andersen)
(Racing Postより)

もう1頭、オブライエン厩舎が出走させるハンスアンデルセン(Hans Andersen)は、4歳のフランケル(Frankel)産駒。
昨年のGⅢ・2000ギニートライアルS(レパーズタウン芝1400m)を優勝しているが、もっぱら今年はラビット(ペースメーカー)役の馬として使われている
オッズにおいても最低人気であることから分かる通り、このメンバーの中では申し訳ないが明らかな格下で、今回もラビット役を担うことになるだろう。

エイダン・オブライエン師としてはオーギュストロダンとルクセンブルク、このどちらかが勝ってくれるのではないかと期待をかけていると思われる。
ここからは、オブライエン無双に待ったをかける馬たちに焦点を当てていこう。

レベルスロマンス(Rebel's Romance)
(SPORTING LIFEより)

その筆頭としては、やはりレベルスロマンス(Rebel's Romance)の名を挙げない訳にはいかない。

この馬のことも、ご存知の方が多いはずだ。
私のNoteにおいても、一番最初の記事となる「カタールアミールトロフィー2024 有力馬解説・展望」にて登場済みである。

UAEのモハメド殿下が率いるオーナーブリーダー組織・ゴドルフィンが所有するドバウィ(Dubawi)産駒であり、半弟にはGⅠ・2勝馬のメジャードタイム(Measured Time)がいる。
ゴドルフィンから多くの所有馬を預かるチャーリー・アップルビー厩舎の管理馬で、主戦は勿論ゴドルフィンとの専属騎乗契約を締結しているウィリアム・ビュイック騎手である。

レベルスロマンス自身、既にGⅠ・5勝を挙げている。
そして、その全てが12ハロンでの勝利という、生粋のチャンピオンディスタンスホースである。

レベルスロマンスは2021年、GⅡ・UAEダービー(メイダン ダ1900m)を制して重賞初制覇を遂げた。
しかし頭角を現したのは芝路線、2022年になってからと言えるだろう。
2022年、3連勝でドイツのGⅠ・ベルリン大賞(ホッペガルテン芝2400m)を優勝してGⅠ初制覇となったレベルスロマンスは、同じくドイツのGⅠ・オイロパ賞(ケルン芝2400m)も勝ってGⅠを2連勝。

それからレベルスロマンスはアメリカへ遠征。
キーンランド競馬場で行われた2022年のGⅠ・ブリーダーズカップターフ(芝2400m)に出走し、ウォーライクゴッデス(War Like Goddess)やミシュリフ(Mishriff)らを抑えて快勝してみせた。

これで5連勝、GⅠ・3連勝となったレベルスロマンスであったが、2023年は調子を崩し、落馬などの不運にも見舞われ低迷した。
しかし12月に久々の勝利を挙げると、今年の2月に行われたGⅢ・カタールアミールトロフィー(アルライヤン芝2400m)を圧勝し、完全なる復調をアピール。

そして臨んだ、ドバイシーマクラシック
今年は日本からリバティアイランド・スターズオンアース・ジャスティンパレス・シャフリヤールが参戦し、欧州からもオーギュストロダンやエミリーアップジョン、マキシム・ギュイヨン騎手が手綱を取ったジュンコ(Junko)などが出走。
恐るべきメンバーが揃った世界の12ハロン最強馬決定戦において、レベルスロマンスは2番手から抜け出し、2着のシャフリヤールに2馬身差をつける完勝を果たした。

前走は香港のGⅠ・チャンピオンズ&チャターカップ(沙田シャティン芝2400m)。
香港の12ハロン路線のレベルも相まって、ここは完全にレベルスロマンスの一強という下馬評になり、圧倒的な1番人気に応える2馬身差の完勝となった。

連勝中の勢いは本当に凄まじい馬で、今まさに連勝街道を突き進んでいる。

欧州で走るのは久々になり、かつアスコット競馬場を走った経験がないのでそこが懸念点だが、それすら跳ね返してしまうのではないかと感じさせる「スゴ味」が、連勝中のこの馬にはある。

オーギュストロダンVSレベルスロマンスというカードが今回のKGⅥ&QESにおける注目点となるが、既にドバイシーマクラシックにおいて、レベルスロマンスはオーギュストロダンに22馬身差をつけている。
いつものことながら負けるときに負けすぎだろオーギュストロダン。

今回も2馬身ほどの差で他馬を封じ込めてくれるのではないか、そんな期待をかけたくなる1頭である。

ブルーストッキング(Bluestocking)
(SPORTING LIFEより)

レベルスロマンスに次ぎ、現地のブックメーカーで3番人気に設定されているのはブルーストッキング(Bluestocking)
ジャドモントファームが所有する4歳牝馬で、父はキャメロット。今回の出走馬の中では唯一の牝馬となる。

昨年まではGⅠ・アイリッシュオークス(カラ芝2400m)2着、GⅠ・ヨークシャーオークス(ヨーク芝2370m)4着、GⅠ・ブリティッシュチャンピオンズフィリーズ&メアズS(アスコット芝2390m)2着──と、牝馬限定戦の12ハロンGⅠで好走しながらも勝ちきれないという馬だった。

しかし、今年に入って復帰戦のGⅡ・ミドルトンフィリーズS(ヨーク芝2050m)を快勝して重賞初制覇を飾ると、続くGⅠ・プリティポリーS(カラ芝2000m)ではエミリーアップジョンを差し切っての優勝
一気にGⅠ馬の座まで上り詰めた。

プリティポリーSの直後、陣営はグロリアス・グッドウッド開催(7月末にグッドウッド競馬場で行われる大きな開催)の牝馬限定戦となるGⅠ・ナッソーS(グッドウッド芝2000m)を次走の候補に挙げていた。
しかし、選ばれたのは牡馬混合戦のKGⅥ&QES

明らかに勝負気配がある。
陣営が馬に自信を持っていなければできない決断だ。

この後はヨークシャーオークスを経て、凱旋門賞への出走も検討しているという。
ここでこのメンバー相手に結果を出したならば、凱旋門賞でも本命級の馬になるだろう。

ドバイオナー(Dubai Honour)
(France Galopより)

さて皆様、お待たせいたしました。
トム・マーカンドです。

ウィリアム・ハガス厩舎の管理馬で、トム・マーカンド騎手が主戦を務めるGⅠ・3勝馬のドバイオナー(Dubai Honour)も、実績馬の1頭である。
この馬についても「香港チャンピオンズデー2024 海外有力馬解説・展望」で取り上げているが、改めて見ていこう。

2021年、フランスのGⅡ・ギヨームドルナーノ賞(ドーヴィル芝2000m)をマキシム・ギュイヨン騎手とのコンビで優勝して重賞初制覇を飾ったが、以降はしばらくムラのある走りを続けていた。

トンネルの出口は2023年、オーストラリア遠征に見出された。
GⅠ・ランヴェットS(ローズヒルガーデンズ芝2000m)にライアン・ムーア騎手とのコンビで出走し、これを優勝して南半球の地で初のGⅠ制覇。
そしてGⅠ・クイーンエリザベスS(ロイヤルランドウィック芝2000m)をトム・マーカンド騎手の手綱で勝利しGⅠ・2連勝とした。

それからまた重賞では好走止まりの日々となったが、迎えた前走のGⅠ・サンクルー大賞(サンクルー芝2400m)。
KGⅥ&QESの前哨戦の1つともされるフランスの古馬12ハロン戦であるが、今年は昨年よりも頭数が集まり、上位拮抗という印象を受けるメンバー構成だった。
その混戦模様は現地のオッズにも現れており、7頭立てで6頭が単勝1桁台という状態であった。

ドバイオナーは内の3番手を追走し、直線で前のポイントロンズデール(Point Lonsdale)を捕まえて抜け出すと、後方から追い上げてきたフィードザフレームを1と3/4馬身差で抑え込んだ。
欧州での初のGⅠタイトルであり、12ハロンでのGⅠ制覇も初めてとなった。

6歳となって12ハロンに活路を見出したドバイオナー。
KGⅥ&QESはメンバーレベルがサンクルー大賞からかなり上がるため、どこまで通用するかという問題はある。
実際、現地のオッズでも実績の割に人気はしていない。

しかし、トム・マーカンドの継続騎乗も相まって、馬場状態如何では怖い1頭になるのではなかろうか。

ミドルアース(Middle Earth) (右)
(Qatar Racingより)

カタールレーシングが所有するミドルアース(Middle Earth)は、オイシン・マーフィー騎手が手綱を取る。
昨年はGⅠ・セントレジャーS(ドンカスター芝2900m)に挑戦して7着に終わるなどしていた馬だが、今年は復帰戦のGⅢ・アストンパークS(ニューベリー芝2400m)で重賞初制覇。
前走はKGⅥ&QESの前哨戦とされているGⅡ・ハードウィックS(アスコット芝2390m)で3着だった。

実績的には見劣りするものの、現地では4番人気の支持を集めている。
今年は例年に比べると不振でこそあるが、英国のトップステーブルたるジョン&シェイディ・ゴスデン厩舎の管理馬ということもあり、状態は更に上げてくるはずだ。
マーフィー騎手のレース運び次第で好走もあり得る、と見られている。

サンウェイ(Sunway)
(Racing Postより)

サンウェイ(Sunway)は今回のKGⅥ&QESで唯一の3歳馬であり、他の古馬が約61kg(牝馬は約1kg減)を背負う中、約56kgと斤量が軽いことは強みとなる。
この馬自身は昨年の2歳GⅠ・クリテリウムアンテルナシオナル(サンクルー芝2000m)を優勝しており、前走のGアイリッシュダービーでも2着という実績がある。

しかし、いきなりこのメンバーの中に入るとどうしても見劣りしてしまうところはある。
4kgのハンデがあろうと、そもそもKGⅥ&QESは3歳馬にとって非常に過酷で難しいレースだ。
ここで好走するためには、今までよりもう1段上のパフォーマンスを発揮する必要があるだろうし、果たしてそれは可能なのか──というところがポイントか。

ゴリアテ(Goliath) (下)
マキシム・ギュイヨン騎手 (上)
(Equidiaより)

クリストフ・スミヨン騎手とのコンビを組むゴリアテ(Goliath)前マキシムの馬で、フランスからの遠征となる。
前哨戦のハードウイックSではマキシム・ギュイヨン騎手の騎乗で2着と好走し、フランスでは今年マキシム・ギュイヨン騎手とのコンビでGⅢ・エドゥヴィル賞(パリロンシャン芝2400m)を優勝している。

しかし、今回はメンバーレベルがこれまでとは比べ物にならないほど上がることに加え、マキシムは当日フランスで騎乗していてゴリアテには乗ってくれない
この馬もこのメンバーを相手にどこまで、というのが最大の検討材料となるだろう。

レース展望

さて、ここまで出走馬9頭のプロフィールを簡単にご紹介したが、予想を行う上での重要なファクターとしてはやはり「馬場状態」がある。
金曜日(7/26)時点でのアスコット競馬場の馬場状態を見ることとしよう。

アスコット競馬場 馬場状態
(TurfTraxより)

KGⅥ&QES前日のアスコット競馬場、馬場状態はGood, Good to Firm (in places)
日本語に訳すならば「」である。

しかし、土曜日には雨が降るという予報もあり、馬場状態については直前までどうなるか分からないというのが正直なところだ。

良馬場のままならば、オーギュストロダンレベルスロマンスのどちらかで決まりそうではある。
血統的にはアメリカ系で軽めのミドルアースも、良馬場が望ましいはずだ。

逆に馬場が渋った時、やはり一番手に浮上してきそうなのはブルーストッキング
陣営も雨予報が当たることを望んでいて、前走のプリティポリーSがまさしく渋った馬場であり、その中で高いパフォーマンスを発揮している。
ドバイオナー・サンウェイなども悪い馬場で着順を上げてきそうな雰囲気がある。

ルクセンブルクはどちらの馬場でもある程度の着順を確保するのではなかろうか。

そして、着順に直結するのはやはり「展開」。
今回のメンバー構成を見ると、絶対に逃げなければならないのはハンスアンデルセン。
というか、ハンスアンデルセンはそういう役回りだ。
自分が勝ちに行く馬ではなく、同厩舎の他馬を勝たせるための馬である。

逆に、ハンスアンデルセンしか逃げなければならないという馬はいないので、例年通りペースが上がることはあまり考えにくいだろう。
ルクセンブルクは前走逃げ切りを果たしていて、レベルスロマンスもハナを切ったことはあるが、どちらも逃げる馬がいる中で無理して先頭に立ちに行くような競馬をするタイプではない。

すんなりとハンスアンデルセンがハナを切り、道中はミドルペースか少し遅めのペースに落ち着き、淡々としたラップが刻まれるはずだ。

ハンスアンデルセンがドスローにまでペースを落とすとは考えにくい。
何故なら、ドスローにまでなるとそれはレベルスロマンスの競馬になってしまうからだ。

カタールアミールトロフィーやドバイシーマクラシックを思い返して頂ければ分かる通り、後続が掛かるほどのドスローペースになると、レベルスロマンスは強い。
レベルスロマンスを勝たせたくないオブライエン陣営としては、ペースが速くなる必要はないが、ある程度は流れてくれなければ困る
ドスローにまで落としてしまうと、ハンスアンデルセンはレベルスロマンスのためのラビットになるだけだ。

ハンスアンデルセンがすんなり先頭に立ちそうな一方、先行集団は多少ゴチャつくかもしれない。
1番ゲートにルクセンブルク、2番ゲートにオーギュストロダン、3番ゲートにレベルスロマンスと有力な先行馬が内枠に固まっている

恐らくは内の2番手にルクセンブルクがつけ、その外にレベルスロマンスが並びかけて、オーギュストロダンはルクセンブルクの後ろの内ラチ沿いを確保する。
もしくはルクセンブルク・オーギュストロダン・レベルスロマンスが2番手で3頭横並びになる、というのも考えられるだろうか。

何にせよこの枠順だと、オブライエン陣営としてはレベルスロマンスに外目を回って頂き、距離ロスによる消耗をしてもらいたいはずだ。
オーギュストロダンは同厩舎のルクセンブルクの後ろにつければ、直線で前壁する心配もなくなる。
不安があるとすれば外に持ち出そうとした時、レベルスロマンスに蓋をされることか。

オーギュストロダンの2番枠は今回、とても難しい枠。
この枠、この並びでライアン・ムーアがどのポジションを取るのかが序盤の最大のポイントになりそうだ。

この内枠の有力馬3頭を見ながら、ドバイオナーなどが4番手付近につけ、ブルーストッキングは中団辺りになりそうだと筆者は予想する。
ペースも考えると、順当なら先行馬決着──頭はやはりオーギュストロダンかレベルスロマンス、このどちらかになる可能性が高いのではないかと思う。

本レース最大の見所は、ルクセンブルク・オーギュストロダン・レベルスロマンスのポジション争いと駆け引きにあるだろう。

放送・配信情報

グリーンチャンネルではKGⅥ&QESに合わせて「ALL IN LINE〜世界の競馬〜」が無料放送され、番組内でレースが実況中継される。
是非、土曜日の夜はKGⅥ&QESをお楽しみ頂きたい。

2024キングジョージVI世&クイーンエリザベスステークス中継
《出演者》
進行:山田 さつき
解説:合田 直弘
実況:舩山 陽司
《放送スケジュール》
7月27日(土) 23:00~24:30(無料放送)
7月30日(火) 24:00~25:30
7月31日(水) 15:30~17:00


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