1ヶ月で脚本を書いてヤングシナリオに出してみる(EX/28日) 「リワインド」

↑で書いていたものを掲載してみます。ぜひ感想頂けるとありがたいです。

「リワインド」

作・中村冬雪

尾野 貴路(26)      無職 映画監督志望
樋上 日向(26)   事務職

伴場 悠希(27)   日向のサークル時代の友人 AD
中川 漣(27)    日向のサークル時代の友人 公務員
松永 陽(26)    日向のサークル時代の友人 女優志望
佐川 葵(26)    日向のサークル時代の友人 営業

樋上 容嗣(60)   日向の父
樋上 恵子(58)   日向の母

講師
上司
監督
女優
スタッフ

○尾野のアパート(昼)
整理された部屋。壁には大量の映画のDVDが並んでいる。
尾野はカバンにカメラと紙袋を入れ、スマホを持って家を出る。

〇尾野のアパート玄関(昼)
尾野がアパートを出ていく。
何も入っていない郵便受けには何も入っていないのを確認する。

〇バスターミナル(昼)
尾野がバスターミナルで三島行きのチケットを買う。

〇尾野のアパート・一年前(昼)
部屋にはDVDやゴミがそのまま散らばっている。
尾野、つけっぱなしの映画をなんとなく見ている。
スマホにLINEの通知音。
タカシからのメッセージ。
『おつかれ。実は結婚したんだ』
『こんど式挙げるから、ぜひ来てよ』 
と続いて表示される。
尾野が画面を見ていると、続いて母親
からLINEで
『元気にしてる? 仕事、順調ですか』
との表示。
見た瞬間、スマホを勢いよくベッドに投げる。
尾野「くそ…」
飲み物を取りに立とうとして、床のDVDを踏んで転んでしまう。
尾野「痛っ!」
踏んだのは、
『バグダッド・カフェ』
『レインマン』
『スタンド・バイ・ミー』
の3本だった。
尾野は、その3本を拾って、何か思いついたようにカバンに財布を入れ、外に出る。

〇尾野のアパート玄関・同(昼)
尾野がアパートを出ていく。
郵便受けには入りきらなかった郵便が大量にはみ出ている。

〇バスターミナル・同(昼)
尾野は窓口に向かって聞く
尾野「…すみません、一番これから早く出発して、そこそこ遠くに行くバスってどれですか?」
受付の女性社員は困惑しながら
受付「あ…えーと、三島行きが10分後に出ますけど…」
尾野「じゃあ、それ下さい」
受付「(訝しげに)…はい」

〇同・バス内・同(昼)
ガラガラの車内。
尾野が一番前の席について外を見て落ち着いていると、バタバタとキャリーバッグを持った4人の集団が走って乗ってくる。
陽「間に合ったー!」
伴場「な、なんとかなるだろ?」
葵「結構全力疾走したんですけど」
伴場「すまんすまん」
4人が荷物をバスの下にしまい、順に入ってくる。
最後に日向が入ってきて、前の席の尾野を見て、驚いた顔をする。
それに尾野も気づいて目が合う。
陽「どうしたの?」
日向「あ、ううん、なんでもない」
と、日向は自分の席に向かう。尾野が不思議がっていると
運転手「三島行き。出発します」
と、バスが出る。

4人が騒がしく話しているのが聞こえて、尾野はイヤホンをしようとするが、スマホを家に置いてきたことに気づき、目を閉じて寝ることにする。

〇バス内・サービスエリア・同(昼)
伴場たちがしゃべりながら降りていく
声で尾野は目を覚ます。
大きなあくびをしながら伸びをする。
ふと後ろを振り返ると、日向だけ残っていて目が合う。
恥ずかしくなってすぐに前を向くと
日向「あの…」
声をかけられ、また振り向く。
尾野「…はい?」
日向「あの…、そのジャケット、ソラリスのやつですよね」
尾野「え…あ、はい」
日向「急にすみません、それ気になって欲しいなーって思ってて」
尾野「ソラリス…、好きなんですか」
日向「はい、すごい好きで」
尾野「ほんとですか」
日向「はい!」
尾野「…人生で初めて見ました、俺以外にソラリス好きな人」
日向「…私もです」
笑う二人。
尾野「他にどんなの好きなんですか?」
日向「えっと…好きなのは色々あって、それこそタルコフスキー監督のも好きですけど、他にはそうですね…」

〇バス内・サービスエリア(昼)
同じ前の席に座っている尾野。
バスの中と、窓の外の風景をカメラで撮っている。
ひとしきり撮り終え、座って振り返り、日向が座っていた席を見る。
〇バス内・サービスエリア・1年前(昼)
尾野と日向が楽しく話していると、他の3人が戻ってくる。
伴場「あれ? 知り合いだったの?」
日向「うんん、でも好きな映画が一緒で」
伴場「え、何、どれ?」
日向「惑星ソラリス」
伴場「マジ? そんなことあるの?」
陽「なんだっけそれ」
葵「眠くなるってやつだよね」
陽「あったっけ?」
伴場「俺は毎回寝て最後まで一回も見れなかった」
尾野「まぁ、退屈なシーンも多いですよね」
日向「そういえばお名前なんていうんですか」
尾野「あ…尾野です」
日向「私たち元々大学の映画サークルで、知り合って」
尾野「そうなんですか」
日向「よかったら、こっちの席来ませんか。どうせガラガラですし」
尾野「えっ」
日向「いいよね?」
中川「…いいんじゃない?」
陽「日向と映画の趣味あう人あんまりいないしね」
尾野「…じゃあ」
尾野は日向と同じ列の逆側の席に移る。
バスが出発する。
伴場「尾野さんて何歳なの?」
尾野「26です」
伴場「え、タメじゃん」
尾野「皆さんもそうなんですか」
伴場「そうそう、サークルの同学年だからさ。漣だけ違うけど」
中川「浪人してるからね」
伴場「俺らは映画サークルで、みんなで映画撮ってて。俺が監督で、漣が脚本家。で陽が女優で葵が音響兼照明、そんで日向が制作って感じで何本か」
尾野「今もつくられてるんですか?」
伴場「ため口でいいよ、同級生なんだから」
尾野「あぁ…」
伴場「俺は今は制作会社にいて、ADとして働いてる」
陽「私も女優として事務所には所属してる」
中川「売れてはないけどな」
陽「うるさいな、これからです」
尾野「じゃあ、みなさんも」
中川「みんなじゃない、俺は今普通に働いてる」
伴場「オレお前の脚本好きだったんだけどな」
中川「まぁ…ファンが一人じゃ食えないからな」
伴場「そんなこと言うなって。そういえば葵は何してんだっけ」
葵「ん、IT系の会社で営業してる」
陽「そうなんだ」
日向「カッコいい」
葵「別にかっこよくはないでしょ」
伴場「日向が事務だよな」
日向「うん、事務とか雑務やってる」
伴場「尾野っちは?」
陽「尾野っちって」
伴場「いいじゃん」
尾野「えと…映画の制作会社で働いてて」
伴場「え、一緒じゃん」
尾野「はい、まぁ」
伴場「なんて会社?」
尾野「…アースワンってところで」
伴場「マジ? わかるわかる」
日向「有名なの?」
伴場「有名だよ、俺も受けたけど受かんなかった」
日向「へぇー、そうなんだ」
伴場「俺は今ハピネスビーにいてさ」
尾野「わかります、僕も受けました。谷村監督が好きで…。落ちましたが」
伴場「マジ? 交代してよ」
中川「(笑いながら)無茶言うなよ」
伴場「てかそうだ、俺らの映画見る?」
陽「やめてよ、恥ずかしい」
尾野「見たいです」
葵「え、あるの?」
伴場「そりゃこの5人が集まるんだからさ、ドライブに上げてきましたよ」
中川「(嫌そうに)マジかよ…」
中川はタブレットを出して、全員に見せながら再生する。
そのまま映画を見終える。
中川「…懐かしいな」
陽「ここもうちょっとこうしとけば、とか無限に思うね」
葵「わかる」
日向「みんな良かったと思うよ」
伴場「まぁ、これはこれで結構いいだろ。(尾野に向かって)な?」
尾野「はい、面白かったです。脚本もそうですし、カット割りも、陽さんの演技も」
伴場「だろ?」
尾野「はい」
陽「まっすぐ褒められると照れるね」
伴場「一応賞も取ったしな」
尾野「そうなんですか?」
伴場「そう、学生映画祭で」
中川「奨励賞な?」
伴場「賞には変わりないだろ?」
尾野「(ドライブに他にも動画があるのを見て)この他にも撮ってたんですか?」
伴場「もちろん! 見るか?」
中川「やめてくれ…」
伴場が再生する。

〇三島駅前・同(昼)
バスから降りる6人。
荷物を降ろして
日向「そういえば、尾野くんはどこに行くの?」
尾野「えーと、実は決めてなくて」
陽「どういうこと?」
尾野「なんとなく、どこかに行きたいなと思って…。バスターミナルに行ってそこで一番早く来たのがあのバスで」
伴場「マジ? すごいことするな」
尾野「まぁ…ほんとになんとなくで」
伴場「俺たち熱海に行くけど、来るか?」
尾野「え、いいんですか?」
伴場「良いも何も、ここまで来たらさ。いいよな?」
中川「いや、別にいいけど」
陽「うん」
尾野「じゃあ、よろしくお願いします」
伴場「カタいなー」
笑う6人。

〇三島駅前(昼)
バスから降りる尾野。
熱海行きのJRに乗る。

〇熱海駅前・1年前(昼)
熱海駅についた6人。
伴場「とりあえずどうしよっか」
尾野「何も決めてないんですか?」
伴場「尾野っちに言われたくないけどな」
日向「(笑って)それはそうかも」
陽「陶芸だけ決まってるんだよね」
伴場「そう、漣が言ったやつな」
中川「みんなで決めたろ?」
陽「まぁまぁ」
伴場「(スマホを見ながら)えーっと、3時で予約してるな」
陽「とりあえず適当に色々見てみたいな、散歩したい」
中川「そうだな、俺も適当に見たいところあるし」
伴場「じゃあ一旦分かれて散歩するか。15時に陶芸のとこに集合で」
陽「オーケー。葵、付き合って」
葵「うん」
陽と葵が歩いていく。
伴場「(日向に向かって)なぁ―」
日向「尾野くん、散歩しない? 映画の話まだしたいし」
尾野「あぁ、うん」
日向に連れられて尾野が歩いていく。
残った伴場と中川。
中川「野郎2人でどこ行く? (スマホを見せながら)逆にこのファンシーなパンケーキでも食う?」
伴場「…逆に?」

〇親水公園・1年前(昼)
歩いて公園に来た尾野と日向。
日向「私たちの作った映画どうだった?」
尾野「え? 面白かったです」
日向「ほんと? ならよかった」
尾野「あまり気に入ってないんですか」
日向「そんなことない、あの時の私たちがつくったものとしては良かったと思ってるよ、ほんとに。けど、なんというかそれって思い出の中で最高のものだからね」
尾野「なんとなく、わかります」
日向「子供のころ、天使にラブソングを…を見て映画が好きになってさ」
尾野「…僕も好きです、毎回最後のシーン見て泣いちゃって」
日向「ほんとに? 私も」
尾野「なんか元気出したいなぁって時にたまに最後の歌うシーン見て。声小さくて自信なかった人が楽しそうに歌うのがもう良くて…」
日向「ほんと最高だよね! あのシーン」
尾野「僕もああいう、人を元気にするような映画が作りたいなと思って」
日向「…すごいなぁ」
尾野「すごくないですよ」
日向「いやいや、私は映画好きで、そういう制作の仕事しようかなと思ったけど。でもやっぱりブラックなの見えてたし、迷って止めちゃったからさ」
尾野「…映画も、別にみるだけでもいいじゃないですか」
日向「そう?」
尾野「誰にも見てもらえなかったら、意味ないですから。見てもらう、見ることがその映画をつくってる要素のひとつでもあると思うんで。…だから樋上さんも映画つくってますよ」
日向「…なるほど」
尾野「…はい」
日向「なんか、ありがとう」
尾野「…どういたしまして」
笑う2人。
日向「…尾野くんは、なんで映画つくろうと思ったの?」
尾野「えっと…子供のころに、スパイダーマンを初めて見て。冴えない主人公が、スーパーヒーローとして辛い目に合いながら色んな人を助けるのを見て…」
日向「うん」
尾野「なんていうか、憧れたんです、その姿に。僕もそういうことできないかな、と思って」
日向「それで、映画?」
尾野「そう、そもそも僕もその映画で救われてて、その映画そのものが僕にとってスーパーヒーローみたいなものだったなって。だから僕が、映画をつくって、僕の知らない誰かを救えたらいいなって…」
日向「…素敵」
尾野「全然まだできてないけど…」
日向「尾野くんの映画、公開されたら教えて、観に行くから」
尾野「…うん。がんばります」

〇カフェ内・同(昼)
カフェに入って尾野と日向が楽しく談笑している。
尾野「サクリファイスの家が燃えるシーン、あれ一回失敗してる話知ってます?」
日向「知ってる知ってる、心折れるよね絶対」

〇カフェ前・同(昼)
伴場と中川が通りかかる。
伴場が日向と尾野が楽しそうにしているのを見つけて立ち止まる。
中川「ん、どうした?」
伴場「いや…」
中川「あ、このカフェか、パンケーキ」
中川も日向たちに気づいて
中川「…これは入らない方がいいな。どうしよっか」
伴場「…」
中川「とりあえず飯食うか」
伴場「…おう」
伴場と中川は歩いていく。

〇カフェ前(昼)
カフェの前に立ち、写真を撮る尾野。

〇陶芸体験施設内・1年前(昼)
電動ろくろで陶芸の体験をする6人。先に日向、陽、葵が作っている。
陽「うわ、結構難しいな…」
日向「ほんとに…」
葵「(真剣にやっている)」
講師「少しくらいならリカバリーできるんで大胆にやってくださいね」
陽「とはいっても…」
中川「どれどれ…」
陽の後ろから手を回す中川。
陽「(笑いながら)ちょ、やめてよ」
尾野「ゴースト、ですか?」
伴場「お前、これやりたくて陶芸の案だしたろ」
陽「そういうこと?」
尾野「写真撮りましょうか?」
中川「おう、頼む」
尾野「あ…えーと。スマホ貸してください」
日向「え、ないの?」
尾野「家に忘れてきちゃって」
中川「マジかよ、ちょっと俺のカバンに入ってるやつ使って」
尾野「はい」
尾野は中川のカバンからスマホを出してカメラを2人に向ける。
尾野「じゃあ撮りますね。はいチーズ」
中川「ありがとう」
日向「え、私もやりたい」
伴場「えっ」
日向「尾野くん、やってもらって良い?」
尾野「え…はい」
尾野は日向の後ろにいって手を回す。
日向「バン、撮って」
伴場「おう…(スマホを出して)はい、チーズ」
日向「ありがと」
中川「ていうか、スマホもないならホテルってまだ取ってない?」
尾野「あ…そうですね」
中川「そのままそのスマホ使っていいから取りなよ」
講師「え、宿取られてないんですか?」
尾野「実は、はい」
中川「色々あって、その一人分だけ」
講師「近くの安いところ紹介しますよ」
尾野「ありがとうございます」
講師と尾野が離れる。
電話終え、尾野が戻ろうとして立ち止まって5人の話を聞く。
中川「最初さ、尾野っちをバンが誘ったときマジかって思ったよ」
陽「私も」
伴場「え、そうなの?」
中川「そりゃ、知らない人急にはそう思うじゃん」
伴場「そっか」
中川「でも、いい奴で良かったな」
葵「計画性なさ過ぎて笑っちゃった」
陽「私も」
葵「ま、面白い人だね」
日向「うん、良い人だったよ」
陽「何、狙ってんの?」
日向「(笑って)やめてよ」
伴場「…」
講師が後ろから来て先に戻る。
講師「すみません、遅くなりました」
中川「いえいえ」
尾野も戻って
尾野「(中川にスマホを出して)これ、ありがとうございました」
中川「おう」
伴場「…」
伴場のスマホに通知が鳴る。
「尾野って知ってるけど、そいつ―」という表示が見える。

〇陶芸体験教室前・同(昼)
陶芸教室を出る6人。
中川「とりあえず、ホテル行くか」
陽「そうだね」
中川「バン、花火何時だっけ」
伴場「あ、えーと…19時かな」
中川「じゃあ、18時半くらいにまた集まろう。尾野っちも」
尾野「うん」
中川「またここ集合で」
尾野「わかった」
陽「じゃね」
ホテルに向かう5人。
尾野がホテルに向かおうとすると伴場が戻ってくる。
伴場「なぁ、尾野っち」
尾野「…どうしたんですか」
伴場「お前、嘘ついたろ」
尾野「…え?」
伴場「いや…アースワン、知り合いいてさ。尾野っちのこと知ってるか聞いたんだ」
尾野「!」
伴場「お前、2週間前くらいに辞めたって」
尾野「…」
伴場「…今、ほんとは何してんだよ」
尾野「…」
伴場「まぁ、言わなくてもいいよ。向いてなかったんだろ」
尾野「…」
伴場「…あと一つだけ言うけどさ…日向はやめとけ」
尾野「!」
伴場「あいつ、大学んときから結構男遊び激しくて、良い話ないから。オレの友達と付き合ってたんだけど、そいつ二股かけられてさ、修羅場だったって話聞いてるから。だから…お前も傷つくだけだぞ」
尾野「…」
伴場「…アドバイスな。じゃあ、また」
伴場はホテルに向かっていく。
尾野は力なく立ちすくむ。

〇陶芸体験教室前(昼)
尾野が教室の前に来る。
カメラで写真を撮る。
イヤホンをかけて、スマホから音楽を再生する。

〇旅館の和室・1年前(昼)
尾野は旅館の部屋で布団に寝転がる。
イヤホンをかけて、スマホがないことに気づいてカバンを投げようとするが、止めて下ろす。

〇陶芸体験教室前・同(夜)
尾野以外の5人が集まる。
中川がスマホで時間を見ると『18時35分』と表示される。
中川「来ないな」
伴場「…」
陽「連絡取れないんだもんね」
葵「スマホないってこういう時不便だね」
中川「昭和ってこうだったのかな」
日向「…先、行っててよ。私もうちょっと待って、尾野くん来たら追いかけるから」
中川「…そうするか」
伴場「日向も来いよ」
日向「え?」
伴場「まぁ、いいだろ、あんな計画性ないやつ。またどっか行ってるのかもしれないしさ」
陽「…いや、ちょっとひどくない?」
伴場「まぁ…」
日向「…先行ってて、追いかけるから」
伴場「…」
中川「じゃあ、そうしよう。尾野っちきたらラインくれよ」
日向「うん、わかった」
日向以外の4人は花火会場に向かう。


〇旅館の和室・同(夜)
尾野が寝ながら時計を見る。
18時45分の表示。
部屋の電話が鳴り、驚いて出る。
尾野「…はい。え?」

〇旅館前・同(夜)
尾野が旅館から出ると、日向が待っていた。
尾野「…あの」
日向「どうして来なかったの?」
尾野「…」
日向「…バンになんか言われた?」
尾野「!」
日向「…そっか」
尾野「…」
日向「…花火はいいからさ、散歩しない?」

〇親水公園付近・同(夜)
日向と尾野が歩いている。
日向「ちゃんと来てよ、約束したじゃん」
尾野「…ごめん」
日向「バンの言ったこと、気にしないでね」
尾野「…うん」
日向「なんて言われたのか、知らないけど」
尾野「…ごめん」
日向「(笑って)なんで謝るの」
尾野「いや…」
日向「…なに?」
尾野「…俺、嘘ついてて…」
日向「…うん」
尾野「本当は…辞めたんだ、映画の制作会社」
日向「…そうなんだ」

〇回想・撮影スタジオ(昼)
スタジオ内に部屋のセットが組まれ、俳優たちが演技プランの確認をしている。
尾野が弁当を大量に運んでくる。
スタッフ1「遅いぞ!」
尾野「すみません!」
尾野は映画の撮影機材や役者と監督が打合せをしている様子を見て、笑顔になる。

〇回想・スタジオ廊下(夜)
尾野が機材を運んでいると、監督と女優がキスをしているのを見てしまう。
監督がそれに気づいて尾野に近づき
監督「…おい、誰にも言うなよ」
尾野「…はい」

〇回想・スタジオ控室前(昼)
尾野が弁当の領収書を整理していると、金額が合わないことに気づく。
通りがかったスタッフに
尾野「あの、この領収書なんですけど」
スタッフ「(舌打ち)なんだよ…」
尾野「金額が合わなくて…」
スタッフ「そんなの普通のことだから、黙ってろ」
尾野「…」
スタッフ「ったくもうわかったよ…」
スタッフは財布から五千円を出して渡す。
スタッフ「これでいいだろ」
スタッフは去っていく。
尾野は受け取った五千円を握る。

〇親水公園付近・1年前(夜)
尾野「憧れた世界だった。入れたのはうれしかったけど…合わなかった」
日向「そうなんだ…」
尾野「辞めて、家にずっといて。映画もちゃんと見る気になれなくて。…このままだと何もかも嫌いになりそうで。もう家にいるのも辛くなって、どこかに行こうと思って…」
日向「それで、バスに」
尾野「…うん、そう」
日向「…私もさ、昔結構、人のことを信じられない時期があって」
尾野「…うん」
日向「大学生のころ、付き合ってた人がいて。映画サークルで主役をよくやってる先輩で、人気があって。…相手に釣り合う人になろうって、色々努力したつもりだったんだけど、後からその人にとって私が3番目くらいの相手だったのがわかって」
尾野「…うん」
日向「別れて、今までなんだったんだろうって悩んでたら、その相手の人が、私が逆に浮気してたみたいに周りに話してて。しばらく大学休んだ。陽とか漣は多分本当のこと知ってて、わかってくれてるけど…」
尾野「…そうなんだ」
日向「ひどいことするな、って思わない?」
尾野「…うん」
日向「私その時始めて、現実にこんなひどい人っているんだなって思った。それまであんまりそういうことなかったから」
尾野「…ひどい人、いるよね」
日向「…ね」
尾野「…現実って辛いな」
日向「…被害者だね、私たち」
尾野「何の?」
日向「現実の」
尾野「(笑って)…現実が詐欺とか強盗してきた?」
日向「(笑って)うん、夢を奪ってきたり、心を刺してきた。これって傷害罪だし窃盗罪だよ。そう思わない?」
尾野「…そうだね。警察にはもっと頑張ってほしいよ」
日向「バカヤロー、って感じ」
尾野「…ほんとに」
日向「続くんだよね、現実は」
尾野「…そうだね」
日向「これから現実は何を仕掛けてくるのかな」
尾野「さぁ、ジョーカーくらい猟奇的にひどいことしてくるからね」
日向「嫌だね…」
花火が上がる。
二人は見上げる。
日向「…ねぇ、もう少し戦ってみようよ」
尾野「…え?」
日向「好きなことを、ちゃんと好きにやってみようよ」
尾野「…」
日向「…尾野くんの映画、観てみたいからさ」
尾野「…うん」
日向「尾野くんがそうやってくれてたら、私ももう少し戦おうって思えるから」
尾野「…うん」
日向「…ありがとう」
尾野「(笑って)こちらこそ」
日向「来てよかった」
尾野「…俺も、来れて良かった。熱海」
日向「また来よう、来年」
尾野「うん」
日向「また花火を見て、その時どこまでやれてるか話そうよ」
尾野「…かなり不利な戦いだけど」
日向「負けてなければ勝ちって言えるかもよ」
尾野「(笑って)消極的な勝利だね」
日向「認めたくないけど相手は強いからね」
尾野「樋上さんも、負けないで」
日向「もちろん。あと日向でいいよ」
尾野「…日向さん」
日向「…なんかぎこちない」
尾野「…ごめん」
日向が尾野にキスをする。
尾野もこたえて、手をつなぐ。

〇親水公園付近・高台(夜)
中川ら4人が立っている。
尾野と日向が歩いてくるのに陽が気づき、手を振る。
合流して6人で花火を見る。
   
〇バスターミナル・待合ロビー(昼)
6人がバスを降りて待合ロビーにつく。
中川「じゃあね、尾野っち。またどっかで」
葵「じゃ」
陽「次はスマホ持ってきてよ」
尾野「(笑って)うん」
伴場「じゃあ…」
尾野「じゃあ(手を振る)」
中川と陽は同じ方へ、葵と伴場は別の
方に分かれていく。
日向「ねぇ」
尾野「なに?」
日向「また来週、ここで会おう。この時間、15時に」
尾野「…わかった」
日向「負けないでよ?」
尾野「…日向も」
日向「うん、じゃあ、また」
尾野「じゃあ、また」

〇バスターミナル・待合ロビー(昼)
1週間後。
尾野がスマホを持って立っている。
スマホで時間を見ると『15時20分』と表示される。
そのまま暗くなるまで待つが、日向は現れない。
   
〇バスターミナル・待合ロビー(昼)
2週間後。
尾野が立って待っているが、日向は現れない。

〇尾野のアパート(夜)
尾野は布団でイヤホンをしながら寝ている。
尾野「…何やってんだ…」

〇回想・親水公園付近(夜)
日向「…ねぇ、もう少し戦ってみようよ」
尾野「…え?」
日向「好きなことを、ちゃんと好きにやってみようよ」
尾野「…」
日向「…尾野くんの映画、観てみたいからさ」
尾野「…うん」
日向「尾野くんがそうやってくれてたら、私ももう少し戦おうって思えるから」
尾野「…うん」

〇尾野のアパート(夜)
尾野は起き上がって
尾野「…もう少し戦う、か…」
イヤホンを取ってパソコンに向かう。


〇撮影スタジオ・廊下(昼)
スーツを着て、上司に頭を下げる尾野。

〇撮影スタジオ・控室前(昼)
大量の弁当を運ぶ尾野。
頭を下げながら、必死で働く。

〇尾野のアパート(夜)
尾野がパソコンに向かい、企画書を書いている。

〇会議室(昼)
企画に関する会議が行われている。
尾野の企画書が読まれるが、ボツになる。

〇尾野のアパート(夜)
尾野が再び企画書を書いている。


〇撮影スタジオ・廊下(昼)
尾野が企画書について、上司に意見を聞いて、アドバイスをメモしている。

〇尾野のアパート(夜)
尾野が企画書を書き上げ、倒れこむように寝る。

〇会議室(昼)
尾野の企画書が読まれる。
出席している尾野に上司が
上司「短編として、やってみるか」
尾野「…はい、ありがとうございます!」

〇撮影スタジオ・廊下(昼)
尾野が機材を持って歩いていると、向かいから陽が歩いてくる。
陽「え、尾野っち?」
尾野「あ」
陽「うわ、スタジオで会うなんて。久しぶり」
尾野「久しぶり。撮影?」
陽「うん、そう。元気でやってる?」
尾野「うん、最近やっと初めて企画が通って。短編なんだけど」
陽「そうなの? おめでとう」
尾野「ありがとう、そっちは?」
陽「こっちはぼちぼちかな」
尾野「そっか」
陽「あ、そうだ。…日向のこと、聞いてる?」
尾野「…え?」
陽「やっぱり、聞いてない?」
尾野「何…?」
陽「ちょっと、時間ある?」
尾野「…うん」
陽「あの…落ち着いて聞いてほしいんだけど、
日向、あのあとすぐ事故にあってさ…」

〇樋上家・居間(夜)
樋上家の仏壇の前に立つ尾野。
仏壇には日向の写真。
尾野の後ろで、恵子と容嗣が尾野の背を見ている。
恵子「あなたが、尾野さんなんですね」
尾野「…はい」
恵子「日向が、旅行から帰ってきてしきりに話してました」
尾野「…そうですか」
恵子「来週あなたと会うんだと、うれしそうに」
尾野「…来るのが遅くなって、すみません」
恵子「いやいや、そんな…」
樋上「そういえば、プレゼントは? 受取りましたか」
尾野「プレゼント?」
恵子「そう、あなたと会う時に持っていくって、部屋に残ってて。お葬式の時にあなたを知ってるって人にお願いしたんです」
尾野「…まだ受け取ってないです」
樋上「伴場くん、って人が」
尾野「…そうですか」


〇ファミリーレストラン(昼)
ボックス席に座っている尾野。
伴場が入ってくる。
伴場「…久しぶり」
尾野「…うん、久しぶり」
伴場は向かいに座ると
伴場「あの…色々とあの時はごめん」
尾野「…」
伴場「本当にごめん。俺、日向のことが好きで…お前と良い感じなのが悔しくて…」
尾野「…かっこ悪いね」
伴場「! …あぁ、本当にそうだ」
尾野「…もういいよ、それより」
伴場が持っていた紙袋を指して
尾野「それは…?」
伴場「あいつの部屋にあったって。お前と次に会う時に渡そうとしてたみたいで…」
伴場から紙袋を受け取る。
尾野「知ってる。日向のご両親から聞いた」
伴場「…ごめん。正直、何度もそれ捨てようとした…。ごめん」
伴場は泣き出す。
尾野「わかったよ」
伴場「ごめん…」
尾野「…確かに受け取ったから」

〇尾野のアパート(夜)
紙袋を持って帰ってきた尾野。
開かず机に置き、座る。
じっと紙袋を見て、思いついて熱海の花火大会の日程をスマホで調べる。
明日開催ということがわかる。

〇尾野のアパート(朝)
冒頭の尾野が出かけるシーン。

〇バスターミナル(昼)
尾野が三島駅行きのチケットを買い、バスに乗って写真を撮る。


〇熱海駅前(昼)
歩きながら、写真を撮る尾野。

〇カフェ前(昼)
外から写真を撮る尾野。

〇陶芸体験教室前(昼)
写真を撮って、スマホを見る。
陽から送られてきた、ゴースト風に撮った日向との写真を見る。

〇親水公園付近(夜)
日向と散歩したルートをそのまま歩く尾野。

〇親水公園(夜)
尾野は花火が上がっているのを座ってみている。
カメラを向けて、何枚か写真を撮る。

〇回想・親水公園付近(夜)
日向「続くんだよね、現実は」
尾野「…そうだね」
日向「これから現実は何を仕掛けてくるのかな」
尾野「さぁ、ジョーカーくらい猟奇的にひどいことしてくるからね」
日向「嫌だね…」

〇親水公園(夜)
尾野「…ひどいよな、現実って」
今まで撮ってきた写真を見返す尾野。
尾野「もう少し、話したかった…」
尾野はカバンから紙袋を出して、中身を見る。
中には『惑星ソラリス』のDVDと、ロケット花火が入っていた。
尾野はそれを見て笑う。


〇親水公園・木陰(夜)
尾野は木陰に移動して、ロケット花火を地面に差して火を着ける。

〇回想・バス内・サービスエリア(昼)
尾野と日向が2人でバス内で会話している。
日向「ソラリスの、奥さんをロケットで飛ばすシーンあるじゃないですか」
尾野「はい」
日向「あの後、飛ばしたのに奥さんがまた出てきて、『私は頭がおかしくなってなかった。そうだったら良かったのに』みたいなシーンすごいなと思って」
尾野「わかります」
日向「ソラリスの自分の頭の中の人物が具現化する世界で、死んだ奥さんが出てきたのって、きっと後悔してたからですよね。自分のせいで奥さんが死んでしまったと思って」
尾野「そうですね、だから出てきた」
日向「そう思うと、すごいラブストーリーでもありますよね」
尾野「ただ単純に後悔してたとか贖罪じゃなくて?」
日向「そうかも。でも、主人公の中でずっと奥さんがいたわけですもんね」
尾野「…確かに」
日向「ね」
尾野「別にソラリスに行って奥さんに会えなくても、心の中にずっといたんですよね」
日向「そう、そういうことですよね」
尾野「その人を思い出して生きるってことも、愛なんですかね」
日向「…(笑って)愛なんじゃないですか」
尾野「…恥ずかしいこと言いましたね」
日向「良かったですよ」
尾野「(笑って)やめて下さい」
日向「なんか今また見たら違う風に見えるのかな」
尾野「また見たいなぁ」
日向「私、DVD持ってますよ」
尾野「ほんとですか?」
日向「はい、お貸ししますね」
尾野「ありがとうございます」
バスの外から声がして、伴場たち3人が戻ってくる。
伴場「あれ? 知り合いだったの?」
日向「うんん、でも好きな映画が一緒で」
伴場「え、何、どれ?」
日向「惑星ソラリス」
伴場「マジ? そんなことあるの?」

〇親水公園・木陰(夜)
ロケット花火が音を立てて飛んでいく。
尾野は涙を流す。
尾野「…ありがとう」
尾野はカバンに紙袋をしまって立ち上がって去っていく。

〇尾野のアパート(夜)
尾野は『惑星ソラリス』のDVDを棚にかざり、その前にロケット花火を小瓶に立てて置く。
その後、座ってパソコンに向かい、企画書を書き始める。

   ―了―

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?