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ひねくれアラサー

「shallow」from “chrono-e.p.”

いまの部屋に引っ越してきてもう数年が経つけれど、そういえばここは17時の「夕焼けこやけ」が流れない街なのだなと、先日やっと気がついた。ここに越すまで私は、中野、新宿、渋谷と意外にも都心周辺に暮らしており(区名だけ見るとあつらえ向きにシティ三種盛りだ)そのいずれの街でも、防災無線からは毎日チープな趣の「夕焼けこやけ」が流れていた。

良い出会いも悪い出会いも、それに伴ういろいろな経験もしてきたとは思うけれど、そうはいっても他人から見ればひとなみで凡庸な人生。取り立てて大きなドラマがあるわけではない。だけど振り返ってみると、自分をどうしてもヒロインに仕立てなくちゃ居られない時期みたいなものが、多分あった。

わかりやすいのは(そして恐らく多くの人に共通するのは)恋愛で、とくに二十歳前後の頃などは足るを知らないから、くだらないケンカひとつで明日処刑されるんかと思うくらいのダメージを喰らったり、相手の人間くさいイヤな面を一度見ただけで「これは訣別か否か」と絶望分岐チャートを作って溜息をついたりしていた。(そういう時こそわがふりなおせと今なら思える。)そうやって取るに足らないちいさな穴ぽこを自ら作っては埋め作っては埋めして、毎日を不器用に一所懸命過ごしていた。プライドがあるから外側は涼しい顔して、頭のなかはあなたでいっぱいわたしでいっぱい。最弱戯曲のシナリオしたため、脳内で演じ、まさかのマルチエンディング。Y/N はてさてどっちを選ぶの?
書いていて思ったけれど、しんどくて泣いていたのも含めて本当は全部楽しかったのかもしれない。

すこしは歳を重ねたが、そういう“気分”は決してゼロにはなっていない。それでもわずかばかり俯瞰の視点は手に入れつつあって、その状態でかつてのことを思い起こすと「ああ、あれは多分、ヒロイン気取りのネガティブモードに陥った自分に酔っているだけだったんだな」と思う場面がたくさんある。
これはたいそう卑近な歌だ。アイロニー込めてshallowと名付けた。

  夕刻の安い童謡 片方だけの靴
  骨の折れた傘はまだ開けないままで

防災無線の「夕焼けこやけ」すら演出みたいに聴こえた日、あなたにもあったんじゃないかな。

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「shallow」

特別な話をしたから
確率では負けていない

名前を得る少しだけ前にも
隣り合うときのぬるい気配
弱くただたゆたう景色も 忘れないでいて

大事にとらえて ふやけ始めた時を
明け方 酔い任せの夢
揺らぎのさなかに あるいは肌の上を
滑ってくノイジーな人称

戸惑いの影落とすまぶた
どうしても離さないように

夕刻の安い童謡 片方だけの靴
骨の折れた傘はまだ開けないままで
shallow
遠くなるほど

大事にとらえて ふやけ始めた時を
明け方 酔い任せの夢
揺らぎのさなかに あるいは肌の上を
滑ってくような

大事にとらえて
壊れ始めた時を止めない優しさの成れ
どんなに解いてもあたたかく足を取る
ゆくりないノイジーな人称

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追伸:
本当は普通に切実な片想いソングとして聴いてほしいです。思い通りにならないタイプのやつ、あるじゃん。
「頭のいい人には恋ができない」と書いたのは寺田寅彦だったか。(それなら、頭悪いのも悪くないな)

#swimmy歌詞ログ

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