日記(2022/01/27) 「都市を生きぬくための狡知―タンザニアの零細商人マチンガの民族誌―」を読んだ #まじ日
「都市を生きぬくための狡知―タンザニアの零細商人マチンガの民族誌―/小川 さやか」読了。
タンザニアの路上商人の商習慣や考え方、成り立ちや社会での立ち位置について、など。
著者の博士論文?なのか学術書なので、途中ぼーっとページを捲ってしまったところがあったが、それでも学術書の中ではとびきり読みやすく、おもしろいと思う(学術書をそんなに読んだことがないのであれですが)。
普段の自分と違う感覚で生活している人のことを知るのは、有り体にいえば、世界が広がるおもしろさがある。
ここには、たとえば制度化や組織化によって、互いの行為を予測可能なものにし、経済行為や社会関係における不確実性を除去していくような方向とは異なる、他者とのつながり方をみることができる。それは、他者の他者性を認め――他者はわからないことを認め―経済行為や社会関係に付随する不確実性そのものを、他者とともに生きていくための資源に転換する方法にほかならない。(252ページ)
タンザニアの路上商人マチンガと仕入れ元の中間卸業者、またはマチンガの客との関係は、絶妙なバランスで成り立っていて、例えばマチンガは中間卸業者に生活費の援助を申し出て、中間卸業者もそれを受け入れるのだが、パトロン-クライアントの関係になることはなく、お互いの立場は対等であり(どちらからも関係を切れる状態)、逆にマチンガが中間卸業者の懐事情を慮る場面があったりもする。
そもそもマチンガが販売するものには定価がなく、客との交渉によって値付けを行うのだが、多めに利益をとることもあれば、仕入れ値を割ることもある。
こういったときに発せられる狡賢さはウジャンジャと呼ばれ、マチンガとしてやっていくにはウジャンジャを身につける必要がある。騙し取るというよりも、生きるための賢さのようなニュアンスのよう。
普段は、こういう微妙で曖昧で明文化にしくく属人的な商売、仕事って、なるべく避けるようにすることが良しとされているので、新鮮だった。
脱属人化、仕組み化及び教育により、誰もが同じクオリティで仕事ができることは、至上命令で、基本的には常にそれを目指している。が、私が考えて工夫するアレコレも、属人化と呼ばれるのは腑に落ちんな〜と思うし、逆に、そのスキル平準化は厳しい…人間味がなくなる…と思うこともある。
そんな中で、タンザニアという全然想像がつかない国で、全く違う論理と正しさで動く仕事があるのだと知ると、なんとなく視野がひらけるというか、”違う眼鏡を手に入れた”感じがする(この言い方どこかで見たんだけど、出典を忘れた)。
で、さらにいろいろ考えると、必ずしも、私たちには全く関係なく、見ず知らずの話というわけでもないことにも気づく。というか、著者がそう言ってて、たしかにな〜と思った。
窮地に陥ったとき、悩んだからといって論理的な結論が導きだせるとは限らないし、悩んでいる時間すらないかもしれない。「とにかく今この窮地を切り抜けなければならない」、そのようなとき、わたしたちもたしかにウジャンジャを駆使している、ただ、わたしたちの多くは、ウジャンジャを駆使する自己と他者に否定的だったり、反省的であったりすることで、なるべくウジャンジャに頼らなくてもよいような状況をつくろう――社会関係や制度、ルール、規載を業こう――と努力する。そのように考えるとき、本書で提示したウジャンジャ、エコノミーは、さまざまなしくみや制度のもとで見ないふりをしている、そこかしこにも発見しうるアナザー・ワールドではないかと思えるのだ。(335ページ)
ウジャンジャはあるが、見ないふりをしているだけなのかも、たしかに。
しかし一方で、私的な困難の訴えに応じて値段が変わること、担保や契約書がなくても売ってもらえること、自分のより経済力のある商人と対等に渡りあえること、仕事や友人関係をいつでもやめたり再開したりできること、マチンガが―月並みな表現だが―生き生きと商売をしていること、そこには、経済が人間の相互依存のうちに成立していることを覆い隠し、人間相互のかかわりを客体化・制度化していく過程で、みないふりができるようになった豊かさがあった。(332ページ)
効率化することで切り捨てているものはある。切り捨てることのできるようになったもの。
いまさら曖昧な商習慣を受け入れることは絶対無理だけど、絶対に正しいとも限らないので、少し緩めるのもいいじゃん…とも思った。いや、商売では緩めたくないが、仕事の上ではいいじゃんね…みたいな。
本著、本文は330ページくらいなので、一見そこまで長いわけではないが、大きさが単行本の1.5倍くらいあってわりと長く、読み終わるまでにめっちゃ時間がかかってしまった。でも、読めてよかったです。
5年越しでした。調べたなら借りろよと思わなくもないが、当時はよくわからなかったんだよな……図書館……
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