日記(2021/12/03) チョンキンマンションのボスは知っている #まじ日
「チョンキンマンションのボスは知っている / 小川さやか」読了。
香港のチョンキンマンションという安宿密集ビル(?)で暮らす、タンザニア人の生活を書いたノンフィクション。まず、タンザニア人が香港で暮らしていることも知らなかった。わりと裕福な人もいるらしい。彼ら彼女らが携わるのは、輸入業だったり、ブローカーだったり、性産業だったり、業種職種はいろいろだが、多かれ少なかれ法には触れている。そういう「アングラ経済」がどのようなシステムで成り立っているのかを、チョンキンマンションのボスであるカラマを通して書かれていた。
効率と成長が最重要項目とされる社会とは、考え方も働き方も、やはりすごく違っていて、おもしろかった。基本的にお互いのことは信頼しないが、互助的な考え方は根付いているらしい。それは、個人ではなく、コミュニティへの還元のようだ。ただし、各自は独立しており、例えば、過去何をしてきたかなどは深く詮索することはないらしい。
あえて便利なシステムを使わず、曖昧にやっていくことがセーフティネットになったりする。
「ついで」が結びつける有機的なつながりは、そうせざるを得ないコミュニティの成り立ちも原因だったりする。
というわけで、脱属人化効率化工数削減圧倒的成長!みたいな現状から視野を広げるのに良い本だった。単純におもしろかった。
香港のタンザニア人商取引は、SNSで情報交換や交渉がなされるらしい。専用のプラットフォームはなく、責任を帰する主体はいない。あくまでもSNS内のコミュニケーション。不文律や明確な交易システムはある。多かれ少なかれ違反取引であり、前提はコミュニティ全体に対する漠然とした不信感に基づく。その都度特定の誰かに関する偶発的で一時的な信用を立ち上げる仕組みで成り立っている。
これをTRUSTというらしい(たぶん)。
ジャニオタのチケット取引と同じである。
ジャニーズには公式リセールシステムがないので、行けなくなったチケットの譲り先は自分で探すしかない。行けなくなったならまだしも、家族友人の名前を借りファンクラブに入り、複数公演申し込み、余分に当たったチケットを交換に出したりすることもある。ただし、基本的には、ジャニーズは、「いかなる理由があってもチケットを申し込んだ本人がコンサート/舞台を見ること」としている。風邪で行けなくなろうが他人名義のチケットであろうが、本人以外がコンサート/舞台を見るのは、厳密には規約違反なのである。とはいえ、事務所も黙認している部分は大きく、本人確認などはとくに行われないことが多い。たまに不意打ちでめっちゃ厳しくなることもあるが。
というわけで、チケット取引は、常にうっすらと違法性を帯びている。
それの交換相手、譲る先、譲ってもらう先をTwitterで探すということが常態である。みんな自然発生した特定のタグをつけてつぶやく。ある程度のテンプレはあるが、必ずしも沿わなくてはいけないわけではない。とはいえ、一見ではわからないような、独自キーワードもある(ex.相場理解、先振り込み、枚数違い、取引垢 など)。
不文律が存在している。
当たり前だが、取引をする相手が善人だとは限らない。好きな人と金が絡む。高額取引もある。ちなみに、人気がある公演のチケット=高額という式はある程度当てはまるが、必ずしも綺麗な需要供給曲線を描くわけではない。結局、そのチケットを、だいたいいくらで取引するのか?という結果にすぎず、ファンダムに所属する人が「3万くらいでしょ」と思っていれば、3万で取引される。
高額取引はリスクも大きいし、売る方は捕まったりしてる。そうでなくても、当日待ち合わせ場所にこないとか、レスポンスが悪いとか、コンサート中の態度が気に入らないとか、そこかしこに嫌な思いをする可能性がある。全体的にコミュニティへの不信感はあるし、常にリスクが頭をよぎる。
そして、先ほどから述べているように、これらは、Twitterで行われる。何かあっても責任を帰する主体はない。
というわけで、ジャニオタチケット取引が、香港のタンザニア人商取引と共通点があるというのは発見だった。
まぁ、仕組みと性質が似ているというだけで、ジャニオタチケット取引には、シェアリングエコノミー的な考えや互酬性はあまりないのだが。
そんな感じで、おもしろかったので、著者の本を何冊か図書館で借りてみた。知らない世界はオモロである。
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