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海外クラブとの提携の話をしよう。

水戸ホーリーホックで取締役GMをしている
西村です。

今年の4月下旬に発表された水戸ホーリーホックとハノーファー96 の業務提携並びに、TANIOBIS GmbH様による双方クラブとのパートナー契約について、タイムリーなタイミングを逃してしまいましたが、そこに至る経緯のご説明をさせてもらえたらと思っております。

かなり長い文章になりますので、簡潔に一番大切な事を先に述べておきたいと思います。

まずはこのスキームの成立にあたり、
両クラブ間を繋ぐに至った最大の要因は
水戸ホーリーホックのトップパートナーであるJX金属様の存在と意思決定
なくしては、決して実現しなかったことである。
JX金属グループ会社のTANIOBIS GmbH様にもご理解頂き、迅速にご対応をして頂けたこと、関係各所の皆様にまずは感謝の意をお伝えしたいと思います。
本当に感謝しております。
ありがとうございました。

そして短期間で、この構想を実現できたのは、ドイツでの在住経験を持ち、ドイツのクラブを誰よりも熟知している瀬田元吾が我がクラブ
にいたからです。
現地にも足を運び、信頼関係を築き、その後のやりとりでも時差のある中、
まさしく、身を削りながら迅速に細々した調整の全てを彼が行い、
ここに至りました。
その他にも、クラブに関わる様々な方々の
努力と想いが結集し、
実現できた事を改めてここに記しておきたいと思います。
ここからがスタートですが、
まずは皆さんお疲れ様でした。

〜〜〜~~~~~~~~~~

一番重要な事は、先に述べたので、
ここから先はかなり長い文章になるので、
時間がある方にだけ読んで頂けたらと思います。
ここ数年のことを振り返ると感じることがある。
それは0から1を作り出す事の「大変さ」と、「重要さ」。
そしてその後に必ず訪れる「葛藤」である。
まだじっくり振り返るにはもう少し
この時間を過ごしてからでないとわからないが、
また感じたことがあれば、その時に書こうと思う。

「これまでの事を続ける」、「これまでの事をやめる」、「新しい事を始める」、「新しく始めた事をやめる」
大きく分ければ、この4つの営みだ。
新しく何かを始める時には、「想い」を大切にしている。
もちろん分析や、計画も立てるが、
初めてのことであれば、あるほど
予測が難しく、困難もつきものである。
分析と、計画に時間をかけすぎると
情勢があっという間に変わっていたりもする。
向かう方向(ビジョン、夢、使命)を決めておく事が、大切という事が前提だが、
初動においては、
「縁」と「運」と「タイミング」が重要だ。
それは大抵の場合、定期的に訪れている。
それを感じられないのは自分の状態のせいである。
良い状態とは「想い」を持って、前向きに活発に動いている時である。
逆を返すと新しい何かを始める時に
冷静で、穏やかで、平坦な気持ちから、
非の打ち所がない計画ができあがってはじまるものなどない。
すべては熱のこもった「想い」から始まるのだ。

このハノーファーとの提携の構想の根底に
あった想いは
「日本サッカーの価値向上」
「日本サッカーの発展、強化」
である。
世界のサッカーをまだ厚みのあるテレビに
かじりつきながら見た少年時代。
夢を持ち、それを叶えるために没頭した青年時代。
やがてプロになり夢を叶え、憧れに近づいてみると、自分と世界との差は、Jリーグで戦う
日本代表選手を見て、感じて、余計に遠く感じたものである。
W杯について振り返ると自分が初めて見たのは1986年のメキシコ大会。
その後プロサッカー選手を夢に描きながら、サッカーに取り憑かれたようにして見た、1990年イタリア大会、1994年のアメリカ、1998年のフランス。
プロになってから代表選手をチームメイトとして、対戦相手として身体で感じながら見た
2002年日韓大会、2006年ドイツ、2010年南アフリカ。
引退後、指導者、マネジメント目線で見るようになった
2014年のブラジル大会、2018年のロシア、2022年カタール。

世界のサッカーを幼少期から憧れの眼差しで
見続け、ある時期からは日本代表の選手達、
Jリーグで戦う日本人選手達と対戦しながら
擬似的ではあったものの、肌身で感じることができた。
引退後は、指導者の視点、強化側の視点、クラブ経営の視点でどうやったらそこに近づけるのかを考え続けてきた。
「世界に勝ちたい」という夢、憧れ、
から始まった想いを、
今日まで持ち続け、育成年代、現役時代、引退後のこれまでを過ごしている。

日本サッカー協会が2005年に「JFAの約束2050」を掲げ、
その言葉を実現するために、あるときから一心不乱にそこに向かってきた。
今は水戸ホーリーホックというクラブに籍を置きながら、日々、働いているのだが、根底にはこの想いがあり、「何のために仕事をするのか?」と自分に問いかけながら、これまで自分が辿ってきた道を振り返り、これからの未来を見定めていく。

今回のプロジェクトは
「世界に勝つためには?」
という、このシンプルな問いに対して、
考え続けたひとつの解である。

2022年9月にフットボール委員会に
選んで頂き、Jリーグを日本のサッカーを
すでに牽引されてきたまさしく、サッカー界の諸先輩方の皆さんの経験、
想い、視座に触れて、自分の目線が変わってきたことも事実である。

フットボール委員会に在籍しながら、
先程の先輩方、世界で自分の身体をぶつけ、世界に身をおいて戦い続けた
選手、J1のトップで活躍し続けた選手の考えや、様々な意見を聞かせて頂いた。
昨年の2022年カタール大会を見て、
今後の日本サッカーが目指すべき方向について
ずっと考えてきた。
その私の個人的な考察は以下である。

あの最後のクロアチア戦を見て、
あの「ヒリヒリ、ピリピリした戦いの中に身を置くこと」
の重要性を改めて感じた。
あえて問いを立てるなら、あのような
「ヒリヒリ、ピリピリした戦いをJリーグの中で作ることはできるのか?」
ということ。
ワールドカップに出場する選手を作るなら、方法論はまた変わってくるが、
目標(KGI)はあくまでも、あのW杯の「ヒリヒリ、ピリピリした舞台」で、
勝つことができる選手を育成することならば、やはり適切なタイミングで海外に
行くことが今は重要ではないかと私は考える。
またそのような機会を数多く経験しておく
ことが、目標を達成するための前提条件と考えた。
事実はどうなっていたかというと選出メンバー26人中22人が海外移籍を経験し、
それなりの数の選手が、すでに世界の選手達との戦いが日常であったということ。
なのでさらに新たな評価指標(KPI)を設定するならば
例えば、メンバー選考時に
・3シーズン以上海外で戦った事のある選手であることとすると
今回の該当者は、17人(65%)
(川島永嗣、シュミット・ダニエル、権田修一、長友佑都、吉田麻也、
板倉滉、富安健洋、酒井宏樹、柴崎岳、遠藤航、伊東純也、堂安律、
久保建英、前田大然、浅野拓磨、南野拓実、鎌田大地)
・3年未満の選手は5人(19%)
(守田英正、三苫薫、田中碧、上田綺世、伊藤洋輝)
Jリーグのみの経験者は4人(15%)
(谷口彰悟、山根視来、相馬勇紀、町野修斗)
また3シーズン以上過ごし、尚且つ若い状態でその時を迎えるためには
若いタレント(16歳~21歳)がより早くJリーグを経験し、台頭することはmustであり、18歳前のJリーグデビューはもちろん、ポストユース(18歳~21歳以下)の選手強化の重要性から目を背けることはできない。
ちなみに今回のメンバーでJ2経験者は5人(19%)
(権田修一、前田大然、山根視来、伊藤洋輝、町野修斗)
J3経験者は1人(3%)(町野修斗)となる。
J1で若い才能が、活躍し、海外へのパスウェイを数多く作る事はもちろん、J2、J3の役割は、J1、J2で眠っている若い才能達に機会を与えることが重要な役割の一つとも言える。
特にJ1チームには才能豊かな十代のタレント達をとった以上、使う(育成)責任が伴うということは言うまでもない。
(J2クラブ、J3クラブももちろんのこと)
また福田師王、チェイスアンリのように、高校卒業と同時に直接海外に行くという事例が出てきたが、そのようなパスウェイの効果検証も同時にしていくこととなるだろう。
一方日本サッカーの育成環境にはヨーロッパにはない大学サッカーという
特徴的な育成環境があるということも、忘れてはならない。
今回のカタール大会には9人(34%)もの大卒選手いたことは
見過ごすことはできない。
ここは、ヨーロッパだけをロールモデルにして、強化、育成の設計をすることは、気をつけないといけないことのひとつである。

そして今回の日本代表選手のパスウェイを語る上で、見落としてはいけない点として、
シントトロイデンというクラブの存在がある。
今回の26人中、4人(15%)がそこを経由していったという事実。
つまりヨーロッパへの「入り口」、ないしは「止まり木」
をどこにするかということ。
ヨーロッパで日系の資本が入ったクラブの重要性は、今後の日本人選手がヨーロッパで活躍
する人数を増やす上で、
最重要項目となるかもしれない。
(ちなみに現在は伊藤涼太郎が在籍、
 過去には木下康介も在籍)

さらに日本代表の編成上のことで欲を出して
言うならば、30歳以下の旬な状態である選手の理想的な割合なども、今後見ていくことも重要と考える。ここは何も若いだけが、良いということでなく、これまでの日本代表の歴史、重み、経験などを寝食を共にしながら、伝えていくベテランの存在は当然重要なので、持続可能なチーム作りの観点では、年齢構成のグラデーションも理想的な比率があるであろう。

また戦い方においても、戦前から
ドイツ、コスタリカ、スペイン、クロアチアという4カ国との戦い方を
ざっくりと分類すると
相手保持(ドイツ、スペイン)
自分保持(コスタリカ)
保持率互角(クロアチア)
という状況だったと考える。
ドイツ、スペイン(相手保持)に関しては
前線からもチェイシングをして、ショートカウンターを狙いつつも、
そのプレスを外されたら、守備ラインを下げてという戦い方は想定通りだったと思う。
(初戦のドイツとの前半戦は除く)
相手保持=深い位置でボールを奪ったところからの攻撃において、
日本人のロングスプリンター達(前田大然、浅野拓磨、三笘薫、伊東純也)が活躍したことは非常に理に適っていたと言える。
(古橋亨梧がいたら、さらに交代カードが増えていた。直前の怪我が憎い)
これまでのW杯の戦いにおいて相手保持の、いわゆるW杯での強豪との戦いでは、ボール保持率は当然のように渡す中でも、相手をおびやかす、攻撃(カウンターを含めたチャンス構築)ができていたかというとそのような
機会は少なかったと記憶している。

※固有名詞のあとに「選手」「さん」はあえて省略させてもらいました。

W杯の日本の過去の試合記録
■1998フランス大会
1戦目アルゼンチン0-1
2戦目クロアチア0-1
3戦目ジャマイカ1-2(被先制)
■2002日韓大会
1戦目ベルギー2-2(被先制 逆転 被同点)
2戦目ロシア1-0
3戦目チュニジア2-0
決勝T1回戦トルコ 0-1
■2006ドイツ大会
1戦目オーストラリア1-3(先制 被逆転)
2戦目クロアチア0-0
3戦目ブラジル1-4(先制 被逆転)
■2010南アフリカ大会
1戦目カメルーン1-0
2戦目オランダ0-1
3戦目デンマーク3-1(先制)
決勝T1回戦パラグアイ0-0 PK 3-5
■2014ブラジル大会
1戦目コートジボワール1-2(先制 被逆転)
2戦目ギリシャ0-0
3戦目コロンビア1-4(被先制)
■2018ロシア大会
1回戦コロンビア2-1 (先制 被同点)48分相手退場 
2戦目セネガル2-2(先制 被逆転 同点)
3戦目ポーランド0-1
決勝Tベルギー2-3(先制 被逆転)
■2022カタール大会
1戦目ドイツ2-1 (被先制 逆転)
2戦目コスタリカ0-1
3戦目スペイン2-1(被先制 逆転)
決勝T1回戦クロアチア1-1(先制 被同点) PK 1-3

この結果を見ても、強豪と言われるドイツ、スペインに対して先制点を取られながらも逆転勝ちができたことは、これまでのW杯における
歴史上に成し得ることができたなかった偉業である。
とはいえ、課題はボール保持が想定され、その通りの展開になった
コスタリカ戦に勝てなかったこと。予選2戦目は自分保持を想定した
メンバーが選考されたものの、有利な展開を作りつつも、得点をとることができなかった。
また敢えて保持率互角と想定したクロアチア戦に関しては、戦い方において、どのような展開に持ち込めば勝つ確率が高かったのかという検証も必要であろう。

話しを水戸ホーリーホックに少し戻そう。
水戸ホーリーホックはここ近年で
J1に多くの選手を輩出できるようになってきた。
過去に水戸に在籍し、そこでの活躍をきっかけにしてキャリアの上昇気流に乗る選手達も増えてきた。
ここから目指すは、チームの成績の上昇とともに、水戸から世界への直行便の開通である。
若い選手達の活躍、新たな指導者の輩出は、
日本サッカーの発展のために、不可欠で、
「水戸ホーリーホックらしさ」
を体現していくためにも、私はそこに挑んでいかなければと思っています。


また今季はある時期まで、チームの成績は
低空飛行を続け、関係者の皆さん、
ファン、サポーターの皆さん、スポンサー様、
行政、水戸ホーリーホックを
想う皆さんには、ご心配をおかけするシーズンになってしまっていることに対しては申し訳なく思っております。
自分がやれることは、これまでの叡智をふり絞り、チームを立て直し、
上昇の気流にのせるべく、課題を発見し、課題を解決し続けること。
どんな時も、これからも、
それをやり続ける事はお約束します。
今季は一度、サポーターの方々の前に行き、
短い時間ではありましたが、
話し合いもした中で、結果で示すしかないということは改めて感じた次第です。
なので以前のnoteでもお伝えしましたが、沈黙していることは、何も考えていないわけでも、何も感じていないわけでも、意気消沈していたわけでもないということは、
ここで改めてお伝えしておきます。
(また今回はチーム成績が悪い中、自分がインタビューに答えた取材記事が、出ることが多く、いくつかのクレームがありましたが、その部分は今後もご容赦して頂けたらと思います)

時代の変化が激しく、IT化によって、世界の壁が溶けて、グローバル化はより加速し、人材の流動性が益々激しくなっていく中で、
水戸ホーリーホックの生存戦略は、
進化論が示すとおり、
「独自性」を大切にしながらも、
時代に照らして、在るべき姿を目指し、
「自ら変化し続けること」が最善であると今は考えています。

長い文章を最後まで読んで頂きありがとうございました。

※尚、記録を含めた、数字等に間違いあった際は、私の独自調査なのでその点もご容赦ください。

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