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いちはらさん

春が猛ダッシュで駆け抜けていくのを眺めている昨今です。

その後,胃の調子はいかがでしょうか。

胃を壊してはいませんが,年を重ねるにつれわたしも脂ものがキツくなってきました。焼肉に行く機会に遭遇した日には,カルビとか無理。ロース塩さいこう!といいながら,しいたけをお代わりしたりしています。

きのこおいしい。

***

ハモといえば。その昔,少し長めのおやすみをもらって実家に帰る予定を立てていた梅雨どきのこと。はりきった父が「よぅーし,帰ってきた日はハモすきうどんだな!」と,ふんぱつしてお取り寄せしておったのですが,その数日前からわたしはひどく体調を崩しまして。

立っているのもしんどい状態で,どうにか実家までたどり着いたものの,食欲はゼロ。その日の晩,鍋の中でふつふつと美しく煮えるハモを前に,うどんすら喉を通らず。「ごめんなさい…」とごちそうさまをして,横になります。

その翌日。

心配した両親に連れられた病院にて,肺炎と診断され緊急入院と相成りました。

でもですね,病院に着いた時点では,熱は高いものの,顔色が多少わるい程度で。咳き込むわけでもなく,ハァハァと息苦しい様子もなく。わたし自身も,両親も,なんだったら受診先の大きな病院のスタッフの方々も,「なんか,ものすごくグッタリしてるね?」くらいの感じだったのですよ。

肺のレントゲン写真(まっしろ)と採血(各種ガッタガタ,CRP>30)の結果みるまでは。

そこからは記憶が朧げですが,気づけば病衣をきて,腕に点滴をした状態で病室の天井を眺めていました。

幸い,治療がよく効き,2,3日ほどで少し調子が戻ってきた頃に,病室にやってきた物静かな主治医がわたしの状態を確認したのち「もうだいじょうぶかな…いやぁ…ちょっと危なかったですね」とポソっと残していかれました。

そんなにヤバかったのか…

とすると,入院前の,激しく体調は悪いくせに,どこかで感じていた妙に楽観的な感覚…あれはもしかすると,生命の危機を前にした現実逃避のようなものだったのだろうか。

そして,アレが。あの状態が。「ちょっとした死線をさまよう」というものなのだとしたら。突然に訪れる最後って,なんてあっけないんだろう。


消灯時間を過ぎても一向にやってくる気配のない睡魔を待ちながら,ぼんやりと連想が進むままに放置していると

『そんな目でわたしをみないで』

という,何かの(もしかすると複数の)作品で出会った切実なセリフに至ります。

死に至る病を得た主人公が,「しんじゃったひとを見るみたいな目で,わたしをみないで」と,お見舞いにきた誰かに訴える場面。

作品鑑賞中は,どちらかというと「わかるけど,むずいってー」って,お見舞い客のほうに感情移入してたっけな。いまは,微妙に主人公寄りかも…?

日中に様子を見にきてくれた親と,「時間とれたから」と面会時間ぎりぎりに見舞いに寄ってくれた弟の顔,「明日には出張先からそっちに向かうから」と電話をくれた夫の声を思い出しているうち,看護師さんが見回りをはじめた気配が廊下から伝わってきます。

そうか,医療従事者(プロ)の眼差しに,なにか学べるところがあるのでは…そんなことを思いながら,わたしは目を閉じました。

***

「これが最後になるかもしれない」と意識して誰かと会うことがぼちぼちと増えてきましたし,きっと増えていく,そんなお年頃になってまいりました。

そうしたとき,どんな目線で相手に接するのが「正解」なのかはいまだにわかりませんが,その場で自身の役割を俯瞰する目はもっておきたいような気が,うっすらとしています。


追伸:先日シンエヴァを再履修したせいでタイトルがそれっぽくなってしまいました。あしからず。

(2023.3.24 西野→市原)