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ダビングがわかるヒト限定

いちはらさん

そちらはゴールデンウィークに桜が散りましたか。

とすると,今年も例年にくらべて開花が早かったってことかしら…と,過去のおてがみをたどりまして

ぼくの記憶のかぎりで言うと、札幌の桜は、絶妙に連休を外して咲きます。
「連休後」に満開になるイメージ。友人たちもけっこう似たようなことを言っていますから、ぼくだけの印象でもないと思います。

サクラオタクに詫び状を
Shin Ichihara/Dr. Yandel

あった,あってた。おかげさまで,北海道の桜の開花時期を覚えられたことを,少しうれしく感じています。

エゾヤマザクラ,たぶんそんなに目にしたことがないなあ,どんなふうに咲くのだろ。と思っていましたらば。5月も下旬というこのタイミングで,ツイッターに桜の写真が流れきたではないですか。

なぜいま? と目をとめたところ,どうやら「フィンランドで桜が満開」というニュースのようです。この写真をよくよく拝見するに,どうもこの桜,花と葉が混じっているっぽい。これがエゾヤマザクラだとするならば,なるほど,よいものですね。東京にも咲くのだろうか。来年は気にしながら春を過ごしてみようと思います。

***

祖母の声,といえば。

わたしが小学校に入ったばかりの頃でしょうか,とあるアニメ映画の,今で言う「サントラ」が収載されたカセットテープをもっていました。

このテープ,しょっちゅう聞くのでプレーヤーに入れっぱなしになっていたわけですが,ある日,何かを録音しようとそのプレーヤーをもちだした祖母が,入っているテープを確認しないまま録音ボタンをガチャリと押し込むではないですか。その瞬間,本人も「あっ なんかマズい」と感じたのでしょうね,即座に停止ボタンを押しました。

一部始終をぼんやりみていたわたしが慌ててテープを再生してみれば

「♫ふりむけば まばーゆい そーうーg 
   ガチャゴトッ "あらこれちg" ガチャッ 
 ♫くもまかーらー ひかーりが」

…うん,おばあちゃんの声,めっちゃ入ってるね…

わたしが毎晩のように聴いていたテープです,まわりの大人たちはゲラゲラ爆笑しながらも「また買ってあげるから」とわたしをなぐさめようとします。

そのあいだじゅう。

(…おばあちゃんがしんじゃったあとでも,このテープを聞けば,おばあちゃんのこえがきける…?)

そんな考えが頭に浮かんでしまったことが,なんだかとても罰当たりのような気がして。何も言えずにうつむくわたしに「もう,そんなに怒らないの」と母が諭すように声をかけてきます。

ちがう おこってないよ ちがうんだよぅ


…そのあとわたしはどうしたのでしょうね,泣いたのだったか,その場を離れたのだったか。記憶はそこでプツリと途切れています。

でも,あのアニメ映画が金曜ロードショーで放送されるたび,あのテープの音は,祖母の声とともに脳内で再生されます。

***

「聴く」を復権させようとしているのかなあ。
「視る」をはなれて、「聴く」をやろうとしているのではないかなあ。

声を書いて届けるまでのこと
Shin Ichihara/Dr. Yandel

これがわたしの「聴く」のスタートライン,でしょうか。
いちはらさんの「聴く」も,よかったらまたおしえてください。

ちなみに,カセットテープを持ち出した時点で,今回のおてがみは若い読者の方々を置き去りにしたな,という自覚はあります。すまんやで。

(2022.5.20 西野→市原)