日本製鉄㈱の人事異動に関連して

昨日、日本製鉄㈱のニュースリリースで社長と会長の交代を知りました。
橋本英二 社長⇒会長、今井正 副社長⇒社長が発表されました。

橋本社長の功績とは?


橋本氏は①トヨタから鋼材の大幅値上げを勝ち取り、②宝山からの電磁鋼板輸入でトヨタを訴訟の場に引きずり出し、③USスチールを買収することで日印米のタッグを組む等の成果を勝ち得た辣腕経営者です。買収の件はトランプ前大統領や労働組合の反対に対処しきれるか?
訴訟問題を特集した週刊誌(ポスト? 現代?)の記事の中で「トヨタだって鉄の成分分析くらいはできる。自分達で特許侵害があるか否かの事実は確認できるはずです」と言ったり、「将来的に日本製鉄がカーボンニュートラルの鉄を開発した時に、トヨタはうちから買わないと言えるのでしょうか?」と啖呵を切った以上、カーボンニュートラルを達成しないと、逆に購入停止に等しい扱いが待っている。過去に川崎製鉄㈱(現JFE)の鋼材購入をトヨタが拒否し続けたことがあった。新布陣がその起爆剤になるか見ものです。
鋼材値上げの時、鋼材の供給停止をちらつかせているのでその逆襲が怖いね。

電磁鋼板の特許侵害問題は?


電磁鋼板の特許侵害は適当なところで手打ちをしたようですね。八幡工場と広畑工場の二か所で製造していたが、お互いに手の内を隠していた。が、蜜月関係にあったPOSCOに部長級の人物が特許レベルの情報を提供したと聞いている。日本弁理士会中部支部のセミナーで「日鉄は電磁鋼板について高等戦術(特許申請をしないでブラックボックス化)を取ったが、今回は失敗ですね。ところでトヨタの知財管理に抜けはありませんか?」とトヨタの知財管理部長に質問しました。400人位の知財関係者が出席しており、会場は「オー」と言うどよめきを上げました。質問の際、「私は元新日鉄マンです」と名乗っていたからです。

さて、日本製鉄のカーボンニュートラルの進捗は?

日本製鉄㈱はNEDOの補助金で試験高炉(内容積:12㎥)を建設してCOG(水素:55%)を高炉に吹き込んでコークスを減らして、CO₂排出量を10%減らす試験を実施している。成果が得られたので君津第2高炉で実機試験に移行するはずが黄信号が灯り、足踏みを始めている。詳細は不明です。私の少ない経験から推測すると一万㌧近い焼結鉱とコークスをガスの力で支え切れるのか?? この障害を乗り越えないと高炉プロセスでCO₂を30%近く削減し、残りのCO₂を分離・回収する筋書きがおジャンになる。大型電炉導入案もあるがグリーン電力の調達も十分か??

高炉マンが恐れる現象をコントロールできるのか?

高炉マンが恐れる現象として「スリップ(吹き抜け)」「棚吊り」「冷え込み」がある。
溶鉱炉(高炉)は分厚い鉄皮と内張した耐火物に守られた徳利型の炉です。以前は高炉の中は羽口に取り付けてあるのぞき窓(Φ20ミリ)からのぞいて、「コークスが躍っている」という会話が飛び交っていた。センサーが進歩するにつれて温度計、圧力計、流速計、ガス分析計を装備して来た。人間に例えると体温計、血圧計、レントゲン採血器になるのかな? 人間の方はエコー、CT、MRで調査・診断できるようになったが、高炉はまだまだです。
高炉が不調になり、内容物の落下が出来な状態を「棚吊り」と言い、棚が外れると内容物が落下する。外れ+落下をスリップと言う。スリップすると内容物が炉底に溜っている銑鉄とスラグが羽口に逆流する。羽口が閉塞すると送風が出来なくなり、その処理が大変です。3月に始まる予定の福島の二号原発のデブリが閉塞していることに近いね。

炉内診断システムと信頼度は?

高炉の中を間接的に推測するために①炉壁温度、②炉内ガス温度、③炉内圧力、④炉内ガスの流速、⑤炉内ガスの成分などをシステムに投入して状況を分析している。システムの信頼度が十分でなく、診断を誤ると炉況数ヶ月も要するので、慎重にならざるを得ないようです。



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